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第24話 ゴットフリートの魔法属性

 暗い石造りの部屋。【まぬけの灯】のランタンの様な形とその明かりが、いやに似合う。


 ゲッツが魔法学のヨーゼフ先生の部屋に行ったのは全ての授業が終わった、午後である。ゲッツのクラスは魔法学基礎と王国史学が午前中にあり、戦術学基礎と剣術学基礎は午後のカリキュラムである。特に剣術学の教授は元騎士団の団長だという事もあり、体力的にかなり厳しい。


 それでも忘れずにヨーゼフ先生の部屋へ訪れたのは、自分のよくわからない魔法について聞きたかったからであった。


「よくきたのう。ゴットフリート君」


「まってたぞぃ」


 そこにいたのはヨーゼフ先生と学園長の2人だった。2人とも、同じように長い白いヒゲを生やしているが、学園長のは三つ編みに結んでいる。一方のヨーゼフ先生は眼鏡をかけて、ヒゲはストレートにのばしている。


「学園長先生まで」


「ははは。儂のことは気にせず気にせず。あくまでおぬしに興味がわいただけじゃよ」


 そういうと学園長はコーヒーをずずずとすすり、椅子に座る。どうやら本当に傍観希望のようである。


「ゴットフリート君。君は紅茶で良いかね? 悪いがダージリンしかないが」


「はい。お願いします」


 そういうと、ヨーゼフ先生はティーカップに紅茶を入れて持ってくる。ゲッツとヨーゼフ先生は机を挟んで向かい同士に座る。


「さて、早速本題に入りたいのじゃが、まずは君の魔力についてじゃな」


「はい……」


 ゲッツは5歳の時に魔法の様なものを発動してしまった事を攻められると思い、視線を下に下げた。


 そのようすを見たヨーゼフ先生は満足した様な顔をした後、大丈夫じゃと語る。


「君はあのローゼンブルク市襲撃事件の犯人の1人と戦った事は、既に知っておるわい。勇敢に戦ったと聞いておる。何も攻める事はあるまい」


「あの……僕が魔法を使ってしまった事も」


「うむ。そもそも違法であるというのは表向きの理由じゃ。本当の所は。事の善悪を判断できぬ者が無闇に魔法を覚えてはならんという、昔の偉人達の教えから来る者なのじゃよ」


 ヨーゼフ先生はそう言うと、コーヒーを一杯飲んで話を続ける。


「昔は戦争が頻繁にあったこともあって、魔法の才がある者は幼いうちから魔法を覚えさせておったのじゃ。じゃが、ある国の貴族の少年が魔法で人殺しの罪を犯してしまった。その少年は『魔素の暴走』を起こし、ある種族の子供を殺してしまった。結果その種族は人間族を憎しみ、そのことから大陸中で種族間の戦争まで発展してしまったのじゃ。違法なのは、その時の教えがあるが故じゃ」


「だからのぅ」


と、それまで見ていた学園長は口を挟む。


「おぬしは気に病む事はない。そしておぬしの魔力量の多さは事前に知っておる。儂が気になっておるのはおぬしの属性、じゃな? ヨーゼフよ」


「そうだったな。基礎属性以外の属性を持つ者は、ごく稀に見るものだが君の属性は少々異質だね」


「異質……ですか」


 ゲッツがそう尋ねると、ヨーゼフ先生はうなずいて答える。


「そう、異質じゃよ。例えば召喚術を得意とする家系の者じゃが、判別紙には普通『無』と書かれるのじゃよ。というより、元々この紙が開発された当初に発見されておらんかった属性は基本『無』と現される。じゃがーー」


「僕の適正属性は『導』だった」


 ゲッツは確認するようにそうつぶやく。


「そう。儂らにもこればかりは不明じゃ。制作者がどのような意図でこの属性を設定したのか」


 魔法文明学上重要な事だ、とヨーゼフ先生は語る。


 なんでも、魔法文明学は既に100年前には既に研究し尽くされたとして、『終わった』学問だと言われて来たのである。要するにマイナー学問になってしまった。


「なんでもいいのじゃ。なにか、知っている事はないか? 導属性というものは、少なくともこの判定紙を開発したコーネリウス卿が生きていた時代は存在したという事じゃ」


 ゲッツには一つ心当たりがある。


 それは自分が転生者であるという事と、初代ヴァルタースハウゼン公と同じ魔力の波形を持つ者である事だ。だが、ゲッツはもう一人同列波形の人物を知っている。


 このことを聞いてみる事にした。


「あの、黒髪で、初代ヴァルタースハウゼン公と同じ魔力波形を持っているというのは…」


 ゲッツがそう言いかけると、学園長が否定する。


「それは、違うと儂はふんでおるのじゃ。儂はこれまでにも、おぬしを含めて3人の同じ波形の人物を見て来たが、この属性は初めてじゃ」


「え…3人ですか? この波形の持ち主は僕とアヒムさんだけしか…」


 ゲッツの当然の質問に学園長は頭をかいて、答える。


「あー。それはのぅ。そのお方は既に鬼籍に入っておる。要するに、過去の人じゃよ。儂が小さい時に既に高齢じゃった」


 この齢80歳を超えていそうな学園長が子供だった時に、既に高齢の人物とは大分離れたものである。ゲッツから何世代か上の人物であろうことは容易に想像できる。


「他に、可能性はないか?」


 今度はヨーゼフ先生が眼鏡をかけ直しながら、聞き直す。


「あとは……僕が魔法を放ってしまった時に何か語りかける声がしました」


「それは、どのような?」


「途切れ途切れで聞き取りにくかったのですが、何か僕に力を貸してくれる様な…」


 ゲッツがそう答えるとヨーゼフ先生は、ふむぅと何かを考える様に椅子にもたれた。あーでもない、こーでもないと何か独り言をブツブツ呟いている。


 その様子を横で見ていた学園長は苦笑いをすると、椅子から立ち上がり、ゲッツの肩に手を置いた。


「ヨーゼフがあのような状態になると最早手がつけられん。おそらく彼奴は一晩中考え込むじゃろうて。もうじき暗くなるし、今日はこの辺で寮に帰りなさい」


「はい」


 ゲッツはそういうと、未だにうんうん唸っているヨーゼフ先生にお辞儀をしてから部屋を辞した。





ーーーー


 ゲッツが魔力測定で謎の属性をたたき出してから、一ヶ月。


 あれから授業後に何度かヨーゼフ先生に呼ばれているが、属性については何も分かった事はなかった。

 逆にクラスではゲッツがよく目立ってしまっていた。


 そして、ゲッツの事をなぜか『平民の分際で貴族の女の子をたぶらかし、教師に特別授業をしてもらっている』というレッテルを張られてしまっていたのだった。


 ゲッツの寮が平民寮なのと、アンネリーゼやアレクサンダーといつも一緒にいた事が災いしてしまったのだろう。



 そして、そんなある日の授業後。ゲッツが自分の寮に帰ろうとして、城前の公園に差し掛かった時、6人の生徒に絡まれてしまったのである。


 制服の胸バッジには『Ⅲ』や『Ⅱ』や『Ⅰ』の文字。上級生と同級生のようであった。3年生と2年生が1人ずつと、後4人が1年生である。その中で中心にいる、やたらと傲慢そうな赤髪の少年が前へ出る。


「おい! ゴットフリート。キサマ生意気だぞ? 平民の分際で俺様のアンネちゃんに…!」


「だれですか?」


「同じクラスの、アルベルトだよ!」


「はぁ」


 ゲッツはそんな人いたかなと記憶を探るが、あいにくクラスメイト全員の名前は覚えていない。あまり興味のない人物の名前と顔は覚えにくいものである。


「キサマとクロトが俺は気にいらねぇ! ちょっと魔力が多いからって調子に乗りやがって! アボイス、エッボ! こいつに貴族の恐ろしさを教えてやれ!」


 アルベルトがそう言うと、2人のごつい上級生が前に出る。とてもじゃないが、ゲッツと1、2歳しか変わらないようには見えない。


(というか自分は行かねえのかよ!)


 おそらく、アルベルトの家の取り巻きなのだろう。


 その上級生達は腕をポキポキとならすと、ニタリと笑う。




 ゲッツはこの現状をどう打破しようか考えるのであった。

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