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第18話 ゴットフリート、奮戦!

「はぁはぁ…」


(そ、そろそろ体力も限界だな…)


 ゲッツはドクンドクンと自分の心臓が波打つのを感じた。前世を含めて対人戦闘の経験なんて、あるわけない。


 対するフード男は何人もの人を殺したというのに、愉快そうである。


「ふふふ……。ふふふふ。あっーはははははははは!」


「っ!」


「おもしろい! 面白いですよぉ! 君はぁ!」


「ゲッツ!」


「母上は隠れてて!」


 殺人鬼と対峙する自分の息子が心配で仕方ないのだろう、アポローニアが横たわっていた馬車から出て来た。


「やぁ、悲劇の王女さん。あなたはこの生意気な息子を目の前で殺した後で、じっくり料理してあげますからねぇ!」


 フード男はそう言うと自身のフードを取り、顔を現す。その顔は傷だらけのスキンヘッドで、右目の下に模様が描かれている。


「ひっ! あ、あなたは! なんで…お父様が殺したはず!」


「は、母上!?」


 アポローニアはフード男の姿を見るとひどく怯え、馬車の裏に隠れた。


「ふふふ…、君はあの王女さんの息子の様ですからねぇ。それだけじゃない! なんとあの黒髪……! どうやら私は”当たり”だったようですねぇ!」


「当たり!? どういうことだ!」


「ふふふ……別に良いでしょう、そんなこと。それより私はお前を殺したい、んですよ!」


「くっ! うっ!」


 ゲッツはフード男の攻撃をなんとかバックステップでかわすが、その剣筋が頬をかする。血と汗が入り交じったものがゲッツの頬を伝い、地面に落ちる。


 このままではらちがあかない。ゲッツは一か八かの勝負に出る事にした。


「ふふふ、痛いでしょう? 逃げたいでしょう?」


「く、くそっ!」


 ゲッツは自分の短剣をしっかりと握りしめ、もう一度相手の行動を伺う。


 魔法詠唱時だ。


 相手が【雷光の針】の魔法詠唱をする時、剣の刃の部分をこちらに向けて一瞬止まる。そこに隙があるとゲッツは判断した。


「く、来るなら来い!」


「ふふふ、面白いガキですねぇ! ならお望み通り……」


(い、今だ!)


「な、なんだと!」


 相手が剣の刃を相手に向けた格好になった時、ゲッツは懐に入る事に成功。そのまま、短剣を上に上げてとどめを刺そうとする。


 だが。



(や、ヤバい!)


 相手がニヤリとしたのを感じとり、ゲッツはギリギリでその剣薙ぎをかわす。


「やっかいですねぇ。その勘のよさ。でもっ!」


「うぁ!」


 剣はかわしたが、続いて敵の膝蹴りをもらってしまい、ゲッツは吹き飛んで後ろの壁に激突。


「か、かは!」


「これで、とどめですよぉ!」


 フード男が一瞬の隙も逃さず、こちらに突進。


 その勢いは凄まじく、ゲッツをもってしても避けられそうにない。


(く、避けられない!)


「ゲッツ!」


 と目の前に人影が出来る。ゲッツの母親だった。


 グサ…と鈍い音がした後、アポローニアの肩には血がにじんでいるのが見える。


「は、母上…!」


「だ、大丈夫よ。私はっ! うう……」


「ちっ! まあ、いいか。目標を先に殺すのも一興だしねぇ。死んじゃいなぁ!」


 フード男が剣を振り上げる。ゲッツは先ほどの攻撃で起き上がるのがやっとだ。


(か、母さん!)


 ゲッツはつい昨日会ったばかりであるこの母親を、守りたいと思っていた。それは同情に似た物だったのかもしれない。だが、ゲッツは貪欲である。


「(させるか! この人は死んじゃいけない!)ーー死なせる、もんかぁ!」


 ゲッツのその思いは次第に声に出ていた。目の前の光景はひどくゆっくりで、まるで走馬灯の様である。


 だが、あと一歩たどり着かない。アポローニアはこちらを一瞬見てにげて、とつぶやく。


 (く、くそぉ! 動けよ! 俺の身体!)



 その時である。


『俺のーーを貸してーーよう。今は少しーーね』


(な、なんーー)


 ゲッツが不審な声を耳にすると、ゲッツの手には見た事のない程の魔力が宿るのを感じる。魔力は通常目に見える事はないが、これは違う。明らかに蒼白く稲妻の様にゲッツの短剣に宿っていた。


 今しかない。


 ゲッツはそう思った。時間の流れは遅く、気づくと未だ一瞬程しか経っていないようだ。


「うぉぉぉぉ!」


「な、なにをーー!?」


 ズガガァン、と手元から稲妻が走る様な音がしたかと思うと、目の前のフード男は電撃に押されて遠くへ吹き飛ぶ。


「ゲ、ゲッツ…?」


「は、母上。無事か?」


 ゲッツは即座に踞る母親に近づく。


「ええ……魔法…なの? 今の」


「分かんない。でも、できちゃったんだ」


 次いでイルマの方へなんとか向かおうとした所で、ゲッツは再び強烈な殺意を感じた。


(ま、まさか…まだ)


「くっふふふふう……うぐ…お、おのれぇ! このガキィ!」


 ゲッツはもう限界だった。先ほどの稲妻は奇跡の力の様なものである。


 だが、現実は非常である。フード男はぼろぼろであるものの、まだ両足で立っていた。方やゲッツはもう這い寄ることしかできない。


(くそっ! もう俺の魔力は残ってないぞ!)


「ふふふ…ガキィ、もう、終わりーー」


 フード男が、ゲッツに死の宣告を告げようとした時、ゲッツは人影を見た。


「ゲッツ! よくやった! もう大丈夫だぞ」


『はぁ。アポロニアもまだまだ困ったちゃんね。アタクシがいなかったら、どうなっていた事か』

「ルディ兄上! フェンリル!」


 人影はルドルフとカトゥルスであった。


『あのね! アタクシはカトゥルス! フェンリルは種族の名前だつうの!』


「グハァ! かひゅ…」


 カトゥルスがゲッツに文句をいいながら、フード男の腹に飛び蹴りを放った。とてもではないが、恐ろしい狼である。


「ご、ごめん」


『はぁ、いいわよ』


「ゲッツはとりあえず後ろに下がれ。ってイルマ!」


 そういうとルドルフはイルマの元により、抱きかかえる。ルドルフが揺すった事でイルマは目を開けた。


「ル…ルドルフ…さま……?」


「ああ! 助けにきたんだ!」


「よ、よかった…ゴットフリートさま、とアポローニアさま…は」


「ああ。無事だ。だから、後ろで休んでいてくれ。こいつは俺が倒す!」


『俺たちが、でしょ?』


「ああ!」


「は、い…」


 ルドルフはイルマの返事を聞くと、ゲッツの元にイルマを届ける。ゲッツの後ろにはもう一人の双子の兄、フリードリヒがいた。


「フリッツ! 頼むお前の回復魔法で!」


「うん。ルディ兄ぃ。ゲッツ、久しぶりだよね」


「フリッツ兄上も! なんで」


「うん。あのフェンリルさんが伝えてくれたんだよ」


 フリードリヒはそう言うと、フード男と対峙している、一人と一匹を見た。


「っと、それよりアポローニア様の怪我がヤバいね」


 アポローニアは肩を刺された為、出血が一番ひどい。


「フリッツ兄上は、回復魔法が?」


「うん見ててよ。治癒せよ【ハイレン】!」


 フリードリヒの触媒は指輪の様である。人差し指の指輪が光る。


「ううっ」


 アポローニアの傷は見た目より浅いのか、みるみる内に塞がって行く。


「す、すごい」


「でしょ? 僕はルディ兄ぃと違って強くないけど、回復魔法は誰にも負けないつもりだよ」


 ゲッツはこの双子のすごさと成長に驚いた。人を守る事が出来るようになりたい。ゲッツもその思いが日に日に高まる。



 一方、戦闘は硬直していた。


「ふっふふふ、寄宿舎の学内6位と神獣ですか…これでは勝てませんねぇ。忌々しい」


「へぇ、俺の事知ってんのか」


「標的は事前に調べるのがプロですよ…。ですが、ここは厳しい」


 どうやら、このフード男は雇われのようだ。


 すると丁度、フード男の隣に紫色のもやが出来て人影がもう一人現われる。人影は、フード男に耳打ちする。


「そうですか。残念ですが、ここはひかせて頂きましょう。そこのガキはいずれ殺したいですねぇ」


 そう言うとフード男は紫色のもやと一緒に立ち消える。後には気配も魔力の痕跡も残っていなかった。


「くそっ! 逃したか!」


『仕方ないわね、あれは転送魔術。それも高度な技よ。指定された点まで移動できる代物だわ。もうこの街にはいなさそうね』


 転送魔術は座標を送り、登録したポイントへ対象や自身を送る事が出来る魔術である。ただし、いちいち魔方陣を書いた札が必要な上に、一回使ったらその魔方陣の札は消えるのである。


「ちっ! あと少しの所を」


(や、やっと行ったの、か)


 ゲッツは、あのフード男がいなくなった事だけでも安心する事が出来た。


「あ! ゲ、ゲッツ!」


 安心するとゲッツは気が遠くなった。長い緊迫状態から解かれ、安堵した所を魔力枯渇で無理をしていた身体の線が切れたのである。


『眠っているようね』


 そうカトゥルスが呟くとルドルフは大きくため息を零す。


 夜は明ける。小鳥のさえずりは朝を告げるが、この街にとっては襲撃が終わった事を意味していた。


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