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第11話 ゴットフリートの都会デビューⅡ

本日2話目です。

 リーツ駅の構内はとても広く、ホームは3つあった。ほとんどレンガづくりの構内は、朝方だというのに少し混雑している。


「イルマ、ゲッツをちゃんと護衛するのよ」


「は、はい奥様」


「ゲッツもイルマに甘えちゃダメよ」


「だ、大丈夫だって」


 ユリア達とはここでお別れだ。先々日の飛竜とオーク族の件で話会わなくてはならないらしい。その代わりにイルマがついて来た。形だけとは言え、家政婦の服を着ている。

 すっかりイレーネの変わりになってしまった当の本人は恥ずかしそうに、困惑した様子である。 


 ゲッツ達は一等車に乗り込むと同時に、駅構内の鐘がけたたましく鳴った。すると汽車は汽笛をぽーぅ、と鳴らして前に進もうとする。汽車はだんだんと速度をあげ、しまいにはユリア達が見えなくなった。



「ゴットフリート様。も、も、申し訳ありません。うっぷ」


 ゲッツは汽車に乗る事は初めてだが、前世では電車に乗っていた。だが、イルマは違う。イルマは気持ち悪そうにしていた。彼女は酔ってしまったという。


 ゲッツがなぜかと聞くと、他の国にはこういった乗り物がないと答えた。

 この汽車自体は馬にのって全速力するのと同じ位の速度しか出せないようだが、イルマはそれでも酔ってしまうようだ。


 ゲッツ達の席は1等席で個室である。ゲッツはイルマを席に寝転ぶよう言ったが、イルマはそうはいかないらしい。窓にもたれながら必死に酔いと戦っている。


「酔い止めキャンディが売ってるらしいから、ちょっと行ってくるよ」


「あ、ありがたき……」


 しかたがない。綺麗な女性に吐かせるわけにはいかない。


外は既に昼時近く。ゲッツはついでに軽食も持ってこようと考えた。イルマが列車酔いしている限り、食堂車へは行けなさそうだ。


 ゲッツはひとつため息をつくと、個室のドアを開けてこの車両の隣にある販売車両へと向かう。

 1等車両の出口に近づくと、何やら騒がしかった。軽く人だかりが出来ていたり、各部屋から数人のぞいている。よく見ると、あの縦巻きロールの少女が仁王立ちで女の子の前に立っていた。

 

 その女の子の格好は見窄みすぼらしくはないのだが、どこか中流階級以下の素朴な雰囲気であった。ドレスは一応着ているが、どこか古臭く、とても1等車両の雰囲気とはあわなさそうである。


「あなたがころんだおかげで、アイスクリームで台無しじゃない! よく見ると下民だわ。この車両に似つかわしくなくて?」


「ご、ごめんなさいっ! わ、私ここがそういう所だと思わなくて」


 女の子の、そのドレスの様相や訛りから縦巻きロールの少女は自分より下の階級と見たらしい。そう、この国にはまだ階級主義者が蔓延はびこっている。


「ここから出て行きなさい。即刻。」


 それにしても、この縦巻きロールはひどい奴だ。販売車は上流階級出身者以外も当然来る場所だ。そして仮に間違ってこの1等車に来てしまったとしても、それはこの地味目な女の子が悪い訳ではないのだ。


 仁王立ちする縦巻きロールに対して、地味な女の子は腰が抜けてしまっているようである。



「ぷっ……(やべっ)」


 何よりゲッツがおかしかったのはやはり縦巻きロール少女だ。この少女、本当にゲッツの予想通りの性格をしている。ゲッツは思わず吹いてしまった。やばい、と思った時にはもう遅い。


「誰ですの!? 今笑ったのは! あなたね!」


 だが不幸にもその吹き出した声が聞こえてしまったようだ。縦巻きロール少女がこちらに向かってずいずいと向かってくる。廊下にいた人達はその少女の剣幕に思わす道をあけた。個室の扉を開けて見ていた野次馬達は一斉にこちらに顔を向けた。


 注目されてしまったようである。周りは緊張が走る。それはこの少女が周りの野次馬とは一線を画す程の社会階級を持っている事を物語る。



 だがその時の野次馬の一人だった、後の哲学者カール・マルクス卿はこう語っていたという。


「その少年はなぜ1等車に乗っていたのか。彼程高貴な者ならば、普通は特別貴族列車に乗っているはずだ」と。





ーーーー


「あなたは、あなたは! この私を馬鹿にしたと同じなのよ!」


「あー。へー」


 どの私だ。


 この少女を見ているとおせっかいやきのクリスタを思い出すが、この少女はその性格に面倒臭さと特権意識を二乗して掛ける100をしたところだ。要するに面倒くさくて仕方がない。


 同い年くらいなので5歳なはずだが、ゲッツにはこの少女が嫌な意味でもっと年上に見えた。


「なんなのその態度。そう言えば、あなたのその服装も大分古い物ですわね。たしかにあなたは上流アクセントで話しているので上流階級でしょうが、それでは程度が知れるわね」


「はいはい。おまえさんが特権階級なのは分かったから。さっさと部屋行ってくれよ」


 ゲッツがそういうと周りの野次馬はどよっ、と反応した。

 中には「坊主やめておけ」や「この方に逆らうと……」という様な声も聞こえたのだが、ゲッツはあえて無視をする。

 こういった輩は一番嫌いなタイプだった。


「ふんっ! いいえ、分かっておりませんわ!」


 彼女はそう断言すると、続けてそのマシンガンの様な言葉をその紅い唇から放った。


 この私はあの『ヴァルタースハウゼン一族』に連なるバッハシュタイン家の長女、アンネリーゼ・ディアナ・ヴァルタースハウゼン・フォン・バッハシュタインなのよ!」


 彼女はなぜか驕り高ぶった態度でそう言い放った。興奮する彼女とは対照的に、ゲッツはその聞き覚えのある名前を聞いて、冷静に考え始める。


 正直、この少女は何を言っているのかさっぱりだ。

 名門ヴァルタースハウゼン一族に連なる? という事は自分の家族か何かか? いや、しかし『バッハシュタイン』なんて聞いた事がない。というか、この少女はリーツ子爵別邸の前で見なかったか。可能性としてはリーツ子爵の縁者なはず。たしかにそうみると、この少女はリーツ子爵に似ている。


 ゲッツは相手のあまりにも自信たっぷりな物言いに一瞬、ヴァルタースハウゼン本家の子女の可能性も考えたが、だとしたらヴァルタースハウゼンという文字が名前の途中に来るはずがない。それに、ユリアの話にバッハシュタイン家の話は一切出てこなかった。


「ふふふ。驚いた? あなたみたいな名無し貴族さんとは違うのよ。さあ、あなたの名前もいいなさいよ。貴族が名乗りを上げたら相手もあげるのが常識でしょ? まさか、それも知らないなんて事はないでしょうね」


 ゲッツが何も言わないでいるのを驚いていると勘違いしたのか、縦巻きロールはさらに見下した様子で、ゲッツに問いかける。


 だが、ゲッツは確信した。この目の前の少女と周りの野次馬が自分を下級貴族か何かと勘違いしていることを。約一名は腰の剣の紋章を見たのか、何かを考える仕草だったが。

 奥にいる、地味な女の子はこちらを心配そうに不安そうな顔で見ていた。まだ腰が抜けた状態のようだ。


 仕方がない。

 ゲッツは自分の家の名前をわざわざ言うと、あの縦巻きロールと同じ種類の人間になってしまうので嫌だった。しかし、この現状を打開して早く酔い止めキャンディを持ってやらなければ、あの乗り物酔いエルフ娘はたちまち吐いてしまう事だろう。



「はぁ、分かったよ。俺の名はゴットフリート・ゲオルグ・フォン・レトゲンブルクだよ。以後よろしくな」


 ゲッツは仕方ないと行った感じで淡々と自分の名前を述べた。


 だがその名を発したとたん、その場の空気が固まってしまった。


「レ、レトゲンブルク辺境伯家……な、なんで」


 そう誰かが零した後、ゲッツは果たしてキャンディを買いに行くまでに持つのだろうかと本気でイルマを心配するのであった。


ゲッツは乗る列車をまちがえたようです。


ちょっと短めですいません。

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