猫のマグカップ
第六部、ありがとうございます。
あまり長くないですが、ゆっくりしていってください。
「そこ!そこ!あっ違うもっと左だよ!!」
大きいくまのぬいぐるみ。彼はくまのぬいぐるみが好きなんだとか。
だがクレーンゲームが下手すぎる。見ていてイライラする…。
『あーだめだぁ…無理取れない…小銭ない…。』
「イライラするなもう!私が取る!」
『えぇっ。』
「はやく小銭!」
『はっ、はいっ。』
上手くやれば一回で落ちるものを。コイツはいくら無駄にすれば分かるんだ!?
どさどさっ
『お、落ちた…。』
「さすがだわあ。」
『まじかよ…一回かよ…。』
「経験の差ってやつだね!」
『くっそー…。』
「あっ、私これやろう。猫のマグカップだって、可愛い。」
『ほー。じゃあ俺他の見てくるわ。』
「はいはーい。」
下手だからきっと何も取れず終わるんだろう。無様だ…。
「よしっ…あっ、右すぎた。」
クレーンゲームをやっているとつい独り言が漏れる。仕方ない。つい内側からポロっと漏れてしまうものがあるのだ。
ガゴッ、ドサッ
中にガラスのマグカップが入っているはずの箱が勢いよく落ちた。これで割れていたらどうしてくれるんだ運営。私の可愛い猫のマグカップだぞ。
私は猫が一番好きだ。弟が猫アレルギーで飼えないけど、外で見かけるとつい目で追ってしまう。だって可愛いし。
そんな猫のマグカップを愛でていると、肩が軽く叩かれる。
『取れたよ。』
「え、何が?」
『はい、これ!』
そう言って差し出されたのは、小指の爪ほどの小さなハートの模様があしらわれ、猫の顔が可愛くぶら下がっている白銀色のブレスレットだった。
「これ…取ったの?」
『まあなんとかな!1000円以内には収めたぜ。』
「あっ、ありがとう。」
『いいのいいの。それのほうが可愛いだろ?』
「私は300円で取ったやつだったけどね!」
『う、うるせえな。』
それはとても可愛いものだった。早速箱から取り出して付けてみる。少し冷たくてひやっとしたけれど、嬉しさには変えられなかった。
「ありがとう。可愛い。」
『それはよかった。さて、飯でも行く?』
「行く行く。何食べる?」
『どうしようか。おしるこにする?』
「自販機以外のおしるこ受け付けないし。」
『まじかよ、自販機よりうまいのあるだろ。』
「いやいや、自販機に限るから。」
『じゃあ何食う?』
「ファーストフードで良いよ。お金そんなにないしね。」
『そうだな。』
近くのファーストフード店まで歩いた。特にこれと言った話はしていないけれど、幸せな時間には変わりなかった。
何も知らないって、とても素晴らしく恐ろしいものだ。
『適当に注文していくから、席取っといて。』
「うん、分かった。飲み物はコーラでよろしく。」
『おう。』
奥の席が空いていた。少しくつろいでゲームをするには、最適な場所だろう。いや、別に今日はゲームはしないぞ。一人で来たら、ということだ。
『お、いたいた。ここでいいか?』
「うん、いいよ。」
『あー疲れた疲れた。』
「運動部がそれ言っちゃだめでしょ。」
『ハラが減って力が出ないぃ〜。』
「無駄な頭の使い過ぎ。」
『いただきます。』
「いただきまーす。」
そこまでお腹は減ってないけれど、軽食程度には入った。あ、おしるこ飲みたい。
『今おしるこ飲みたいって思っただろ。』
「なんでわかったのきもい。」
『いやなんか物欲しそうな目してたから。』
「まあおしるこ飲みたいなんていつも考えてるけどね。」
『その発想はなかった。』
「帰り飲もうっと。」
『野菜ジュースとか飲まないと栄養偏る気がする。』
「うちの母の料理の栄養バランスは上手すぎるから大丈夫。」
『そりゃおしるこばっか飲めるわ。』
おしるこを語り出すと止まらない。ますます飲みたくなる。
『食べたらどうする?』
「今で1時か。このあとどこいく?」
『映画とか?』
「おお、いいね。映画にする?」
『そうするか。今何やってんの?』
「たしかゲームが映画化したやつやってた気がする。」
『まじか。面白いやつ?』
「多分ね。」
『じゃあ、それにするか。他に行くとこもないしな。』
「2時半からだから、早めに行っとこ?」
『そだな。じゃ行くか!』
「まってコーラあと二口だから。」
『さっさと飲め!』
彼といると、なんだか時間を忘れてしまう。気楽に過ごせる。自然と、この時間が続けばいいのにと思っている。全てが久しぶりの感覚で、ましてや他人に対してなど初めてに値する。
ずっとこうであってほしいと願う。
例え、そんなことが不可能だと、どこかで分かっていたとしても。
最後までありがとうございました。
まだまだ続きます。これからも読んでくださったら嬉しいです。