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常につりそうな親指だけで充分だ

第三部、ありがとうございます。


少し長いので、ゆっくりしていってください。

『アタシのブレスレット、盗ったでしょ。』


「…は?」


なんのことだろうか。これはこれでつまらない展開だ。


『それよ、それ。アンタの左腕にぶら下がってる月のブレスレット!』


私は常日頃、黄金色をした月のブレスレットを左腕に着けていた。

たまたまゲーセンで取れたので気に入っている。


「これ、私がゲーセンで自分で取ったんだけど?」


『しらばっくれないでよ』


「そっちこそ罪着せないでよ」


『それ、アタシが元カレに貰ったやつなの。返して。』


「しらないよそんなの。」


『アンタいつも彼と仲良くしてるから嫉妬して盗んたんでしょ?アタシが元カノだからって馬鹿みたいな真似はやめてよね。』


仲良くしてる彼…?と聞くと、アイツしか思い浮かばない。


「アイツの元カノだかなんだか知らないけど、そんな嘘ついてまでこんな安っぽいブレスレットが欲しいならあげるよ。」


『やっと認めたわね』


「はいはい」


無造作にブレスレットを外し、ケバ女に投げる。

せっかく気に入ってたのにな。また新しいの取るか。


ケバ女たちは去っていった。あのブレスレットのどこが魅力的だったのだろう。

なにがともあれこうなったのはアイツのせいだ。ブレスレット代返してもらおう。


カバンが教室に置きっぱなしだ。取りに行かないと閉められてしまう。


ロッカーを除くと、カバンは無い。

ケバ女たちの嫌がらせだろうか。当たり前のようにそれはゴミ箱に捨ててある。家では一切勉強しないので、私はカバンをそのままにし、教室を後にした。明日の朝は机に死ねだの書かれているんだろう。くだらない。


校庭を手ぶらで歩いていると、バスケ部がトラックを走っていた。顧問がストップウォッチを持っているので、きっとタイムでも測りながら走っているんだろう。陸上部か。


手ぶらで歩いていたら野球部の顧問である生活指導に見つかってしまう。さっさと帰らねば。


そのとき、バスケ部の顧問が笛を吹き、全員が歩き始めた。時間走でもやっていたのか。バスケ部が外で走っているため、体育館はバレー部の掛け声と、ボールを弾く音、バレーシューズと床が擦れる音のみが響いていた。バスケットリングは物寂しそうに風に揺れていた。

なんだか漫画の風景のようで、私はそこに立ち止まってしまった。


途端、


『わっ!!』


「うわぁぁあ!!!」


『ぶっ…はっははは!!』


「な、な…」


忘れていた。コイツはバスケ部なのだ。こんな所でたそがれていたら笑われてしまう。…もう遅いが。


『ちょうど走り込み終わったんだ、お前何してんの?』


「か、帰る…」


カバンが無いことは気付かれていないらしい。


『練習見てく!?』


話を聞け。


『今日は外部コーチ来てるから楽しみなんだ、見てかね?』


「見てやらんことも無い」


『よし決定!ギャラリーから見てて!』


スポーツは昔から好きじゃない。決して運動音痴なわけじゃないからな。けど見るのは好きだった。スポーツなんて単に考えたら馬鹿みたいなものばかりだけど、それに熱心になる選手を見るのは好きだ。


『集合ー』


この高2の冬は追い込みの時期なんだろう。どの部活も気合が入っているように見受けられる。


顧問もバスケ専門の先生だというのに、わざわざ外部コーチを呼ぶほどだ。上まで登るつもりなんだろう。


すでに汗だくで体はあったまっているだろうに、よく柔軟をしている。男女構わず体が柔らけえ。私スポーツテストの長座体前屈一桁だぞ。


アイツは1人、冷却スプレーで足首を冷やしていた。やはりスポーツをやる人には常に痛い所があるんだろうか。私はゲームのやりすぎで常につりそうな親指だけで充分である。


この狭い半面の体育館で、男女大人数でまとまってボールを床につき奪い合っている。なんとも愉快なスポーツだ。


『いちねーん、ボール出せー』


アイツは部活でも良い立場にいるようだ。後輩は大人しく従っている。


『ありがと!』


後輩にそういったのは、私が見た所アイツだけだ。これなら後輩からの信頼も厚いだろう。


アイツのドリブルやシュートフォームは、素人の私が見ても、あの人うまいんじゃないだろうか、と思うほど力強くしっかりしていた。シュートした瞬間の空中でのフォームはブレひとつなく、確実にあの小さなリングに収めようとしている。他のやつらを見ても、アイツに相当するやつはいなかった。

って私、アイツしか見てない。なんだこれ。


そのあともバスケ部は、楽しそうに、かつ真剣に練習をしていた。隣のバレー部もだった。汗や努力の入り混じった真剣な熱気は、不愉快なものではなかった。



『ありがとうございましたーっ』


これで終わりらしい。下に降りる。


もう帰って良いだろうか?きっとアイツは他の仲間と帰るであろう。ふむ。帰ろう。


『待ってーーーっ』


振り返るとアイツ。この寒いのに汗だくだ。


『どうせ1人だろ!帰ろ!』


「失礼な。」


『いやー、あっちー。疲れたー。』


「私は寒いのに暑苦しいなもう。」


『マフラーも手袋もしなかったらそりゃ寒いわ!なんでしてないの?朝してたよね。』


カバンと共に捨てられていた。だがコイツにそんなことは言えない。


「…学校に置いてきちゃった」


『ば、ばかなのか…。』


まあ嘘はついていない。


『ーったくしゃーねぇな。貸してやろう。』


「いらっ…ふぇぶ!?」


顔がマフラーらしきもので巻かれた。見えない。


『あったかいだろ!』


「まあ…。」


『もう暗いしな、送ってくぜ。』


「いや、いいよ、そんな遠くないし。」


『そうかー?なら曲がり角まで!』


「わかった。」


私は身長が高くない。だからコイツと歩いているとより小ささが目立つ。ローファーのかかとは高いはずなのに。ショックだ。

そういえば、コイツにブレスレット代を請求しなければならない。

…だが、幸せそうな顔して(いつもだが)何か考えていそうなコイツに、そんな話を持ち出すのは気が引けてしまった。また明日にしてやろう。

そんなことに考えているうちに、曲がり角に着く。


「ありがと。これ、返すよ。」


『今日は貸しといてやるよ!』


「でも、汗冷えて寒いでしょ?」


『むしろ厚いわ!家まで事故に遭わないように、俺からのお守り!』


「わ、わかった。ありがと。」


『おう!じゃあな、今日は見てってくれてありがとな!気を付けて帰れよ!』


「うん。そっちこそ。」


『またなー!』


小さく手を振った。ブレスレット代は明日にしてやろう。


「ただいまー」


家に帰り、部屋でマフラーを取る。アイツのことだからタグに名前でも書いてるんじゃないかと思い、からかってやろうと見てみた。

でも、そこにはなんとも気の引けることが書かれており…。


付き合ってたであろう頃の、ケバ女からのメッセージと語尾のハートマークだ。なんでそんなものを私に貸したのだ。胸糞悪い。ブレスレット代は倍にして返してもらおう。


それにしても明日の朝も手ぶらで行くのは少し恥ずかしい。どうせ校門で生活指導に見つかるだろう。適当にリュックでも持ってくか。めんどくさ。


明日の朝は私の机に花が飾られているだろうか。机が悪口でいっぱいだろうか。机の中のノートがビリビリだろうか。どんな状態であれ、そのままにしておくが。


そんな私を見て、アイツは引くだろうか?まあどうでもいいが。

とりあえず今日は飯と風呂を済ませたら、ゲームもせず寝ようと思う。


その日は、夢も見ないほど深い眠りについてしまった。

最後までありがとうございました。


コメント、評価などよろしくお願いします。


ちなみに負け猫はバスケ部です。

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