新山 眞凛
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《新山 眞凛》
〈にいやま まりん〉
それが、私に与えられた名前だ。私はこの名前が嫌い。この名前のせいで、幾度となく苦しめられた。
昔は、この名前が大好きだった。母は私に、《嘘偽り無く、凛とした人生を送ってほしい》と、どこにでもありそうな理由でこの名前をつけた。
生まれた時から父がいなかった私だが、母から注がれる愛情は大きく、寂しい思いをすることはなかった。母が仕事でいなくても我慢することができた。
母は私が良いことをしたり、嘘をつかないでいると、『その名前は貴女にぴったりね。』と言ってくれた。この名前が大好きだった。
7歳の時、母に恋人らしき人ができた。その人は気付けばうちにいて、私と母を養ってくれた。私のミニバスにもよく来てくれて、応援してくれた。私はその人を父親だと思い、家族同然だった。
8歳になると、5月の中旬のある夜、弟の涼夜が生まれた。とても可愛くて、頑張って世話もした。涼夜にばかり愛情が注がれても、涼夜は可愛いので許す事ができた。
父親は、母と結婚と言うものをしていなかった。不思議なものだが、父親は私たちと一緒には住まず、毎日朝来て仕事に行き、帰ってきて夕食を食べると帰った。
ある意味母は、シングルマザーだった。
だが、私の生活は、幸せなものだった。
だが、私が中学校に入学する前日。
父親が自殺をする。なんと父親は詐欺の被害に遭っており、莫大なお金を亡くし絶望した。しかし母にもそれを打ち明けられず、とうとう追い込まれてしまったのだ。
その日は、私の制服姿を見てくれると早めに父親が帰っていた。学校帰りに母と涼夜を保育園まで迎えに行き、家に帰った時だった。父親の姿が見当たらず部屋へ行くと、大量の薬の箱と溢れた水。父親は息をしていなかった。この時ほどの絶望は、この先味わうことはないだろう。
入学式に母の姿は無く、帰りに涼夜を保育園まで迎えに行った。真新しいセーラー服を着て。保育園の先生に、『入学おめでとう。』と言われた。涼夜の手を握っていながら、思わず涙が溢れた。
父親の詐欺に関しては裁判で処理をし、借金などが残ることはなかった。お金も戻ってきた。
なぜだろう。
涙は出なかった。
『母さんお仕事増えるから…捻挫の病院…連れていけない…。部活…。』
私はミニバスで足を痛め、運動ができないでいた。だが、今の母に病院など求めては母が壊れてしまう。
「部活なんて私、しなくていいよ!涼夜の面倒見たいし!」
本当は大好きなバスケがしたかった。もう一度バッシュを履きたかった。けど、我慢するしかなかった。
私は毎日学校が終わると、急いで涼夜を迎えに行った。涼夜のお友達とも、すっかり顔なじみだ。
『いつもご苦労様。少し、ゆっくりしていく?』
「い、いえ大丈夫です。買い物もして帰らなくちゃいけないので。」
保育園の先生はとても優しかった。私が断るとわかっていて、毎日ゆっくりしていかないかと声をかけてくれた。
『ここは保育園なんだから。少しくらい涼夜くんを置いて、遊んできても良いのに。』
「良いんです、私、友達とかいないし!」
学校では、完全に孤立していた。部活もやらず放課後もすぐ帰ってしまうので、周りから声をかけられることもなかった。そのうちに、明るかった私の性格も、暗く静かなものになった。
私の名前嫌いは、そろそろ始まる事となる。
最後までありがとうございました!
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