思ってたより似合ってる
第十三部、ありがとうございます!
ゆっくりしていってください!
『結構混んでるなぁ。』
「まあ室内はあったかいしね。」
午前10時の街は寒かったが、室内プールは暖かかった。小さい場所とはいえ、流れるプールやウォータースライダーなど、遊べるものもたくさんある。季節問わず休日は多くの人で混む場所だ。
『とりあえず着替えてくる。』
「うん、私も。」
更衣室に入ると、ザ・JKがたくさんいた。唯一空いていた奥の一角のロッカーで着替えた。出掛けた時用の水着など着るのはいつぶりだろう。
着替え終わり、パーカーを着てロッカーを閉めた。振り返ろうとした瞬間、誰かにぶつかった。
「あ、ごめんなさい。」
『触んなよクズ。』
『言えてる。気持ち悪い。』
ぶつかった私の方を見て悪口を言ってる美人なJK。どこかで見たことがある顔だ。
「すいません。」
そう言って立ち去った。ああいうのは関わらないのが一番だ。
『おー、遅かったな。』
「男とは着るもんが違うんだから。」
『パーカーはプール前のコインロッカーに入れとくのか?』
「うん、そうする。」
『じゃ、行くか。』
「楽しみだな。」
プールに人はそこまで多くなかった。なぜそこまで多くないのかと周りを見回すと、ウォータースライダーに並んでいる人がたくさんいた。あれのせいだろう。
「ロッカーに入れてくる、待ってて。」
『ここで待ってるよ。』
近くのロッカーに、パーカーと貴重品入れをしまいコインを入れて閉じる。すると、また人とぶつかってしまった。
「いてっ…す、すいません。」
『さっきからなんなの?嫌がらせ?クズはどこまでもクズなのね。』
さっきと同じJKだった。背が高くスタイルが良い。
「すいません。」
『近付かないでよ、私たちにも彼にも。』
「は、はぁ…。」
クスクスと笑いながら離れていった。嫌がらせされているのは私の方だと思うのだが…。
『女たちがお前のほう見ながら笑ってたけどなんかあったのか?』
「え、なんのこと?多分、私じゃないと思うよ。」
『そうか、なら良かった。』
言わないでおいた。面倒なことになるのは避けたい。楽しみたいから。
『あ。』
「どうしたの?」
『水着、思ってたより似合ってるよ。』
「はは、ありがとう。そっちこそ似合ってるよ。」
『男の水着って似合うもクソも無い気がするけどな。』
「肉体が命かもね。」
そう言って彼を見ると、鍛え上げられている体がそこにあった。いつもよりますます男らしい。
『何笑ってんの?』
「ううん、なんでもない。」
プールに入る。ばしゃんという音と共に顔に水滴が弾いた。
『うひゃ、結構冷てぇ。』
「ほんとだ、さむっ。」
体を慣らしていると、近くから水がかけられた。かなり驚いた。
「わっ、…冷たい…。」
『あっごめんなさぁい!』
またさっきの女たちだ。なんなんだろう。私が何かしただろうか。
『大丈夫か?なんなんだあいつら。』
「きっとわざとじゃないよ、私は大丈夫。」
『良かった。バレーでもする?』
「するする。プールでバレーとかいつぶりだろう。」
『行くぞーっ。それっ!』
「せいっ!」
飛んできたボールを思い切り打つ。上手く打てた…はず。
『うわっ、どこ飛ばしてんだ!もしかして運動音痴!?』
「ご、ごめん!」
『すいませーん!』
久々過ぎて感覚が全く掴めない…。困ったものだ。
その瞬間、水中に足が引っ張られた。
「うわぁっ。」
突然の出来事に心臓が高鳴った。息もほとんど吸っていない。目を開けると、さっきの女たちが私の足を掴んでいた。笑っている。苦しくて対抗できない。
『あれ?どこいった?』
彼の声が聞こえた。すると女たちは私の足を離した。
「ぶはっ、げほっげほっ。」
『どうした!?なにやってたんだよ1人で!』
「ちょ…ちょっと下の水着が。」
『まったくなにやってんだよ、びっくりしたじゃねぇか!』
「あはは、ごめん。大丈夫だよ。」
『まったく。続きやるぞ?次は変なとこ飛ばすなよ!』
「来い!」
そのあとプールで女たちが嫌がらせをしてくることはなかった。そして、ウォータースライダーに行こうかという話になった。
『まあ、並ぶしかないな!』
「お昼時だし、人も減ってるよ。」
『これ乗ったら飯食うか。』
「そうしよう。」
ウォータースライダーの列に並んだ。前と後ろ2人で乗るタイプの浮き輪?を借りて、残り10組のところまでたどり着いた。
「もう少しだ。楽しみだな。」
『結構怖いらしいぜ。』
「まじかー。私後ろね?」
『良いよ、恥ずかしいから叫ぶなよ?』
「そ、そっちこそ。」
流れは早く、すぐに私たちの番になった。
『お次のお客様どうぞー。』
「よ、よしっ。怖くない!」
『お化け屋敷じゃねぇんだから。ほら、早く後ろ乗れ。』
「う、うるさいなもう。」
『しっかり掴みましたね?では、いってらっしゃ〜い。』
軽く、クルーが浮き輪を押した。その瞬間スピードが付いた。
『うわぁぁぁぁあ!!』
「さっ、ささ叫んでるのそっちじゃんん!!!」
『やべ、これ、こえぇぇぇえ!!』
『「うわぁぁぁぁあああ!!」』
2人揃って叫び続けていると一気に明るくなりプールに飛び出た。
『うわっ。』
「あうっ。」
衝撃で彼の頭と私の頭がぶつかった。痛い。
『〜〜〜〜っ…。』
声にならない痛みに耐えているようだった。
『もう絶対これ乗らねぇ…。』
「でも楽しかったよ。結局叫んでるのそっちだしね?」
『お前も叫んでただろ!』
「先に叫んでたのそっちでしょ!」
『もう、早く飯行こうぜ!』
プールを上がって、パーカーを入れたコインロッカーに行く。すると、私が入れていたはずのところに私のパーカーが無い。幸い、貴重品入れは中身共に無事だった。
「あれ…。パーカーない…。」
『え?嘘だろ。盗まれた?』
「そうかも…。」
思い当たるのはさっきの女たちしかいない。しかし決めつけるのも…。
『とりあえずフロントに落し物届け出しとくか。』
「うん。そうする。」
フロントまで行く途中、見覚えのあるパーカーが落ちていた。
「あっ…。」
拾うと、それは水浸しで冷たかった。
『なんだこれ、どうなってんだよ。』
「これじゃ乾かさないと着れない…。」
『誰なんだよこんなことしたやつ。許せねぇな。』
「大丈夫だよ、更衣室で乾かしとけば乾くって。」
『だけど飯食ってるとき寒いだろ。俺のTシャツ貸すから着ろよ。』
「ううん、私もTシャツあるからいいよ!」
『そうか、良かった。じゃあ俺も更衣室から着るもの取ってくる。』
「うん、私も。」
更衣室はがらんどうだった。私しか人がいない。
ロッカーを開けると…中身が見事に荒らされていた。盗まれている物はない。ただ着てきた服がしわだらけになりバッグの中身が出され、ロッカーの中はぐちゃぐちゃだった。
「何でこんなことされなきゃいけないの…。」
せっかく楽しい日だと言うのに。悔しくて涙が溢れてしまった。
「泣いちゃだめ…楽しい日なんだから…。」
どこからか笑い声が聞こえる。さてはロッカーにでも隠れて私を見ていたのだろう。嫌がらせの女たちだ。もううざったい。しわだらけのTシャツを手に取り、ロッカーを閉めて言った。
「触んなよクズ。」
最初にこいつらに言われた台詞だ。そのまま返してやった。すると、笑い声が消えた。これで良い。私は更衣室を出た。
「遅くなってごめん、Tシャツ見つからなくて。」
『いいよ。何食う?』
「んー。ラーメン食べたいな。」
『良いね。俺もラーメンにしよう。』
嫌なことばかりな午前中。とりあえずお昼でも食べて落ち着くとする。注文した味噌ラーメンは、久々で美味しかった。午後は何事も無く過ぎてくれれば良いのだが…。
最後までありがとうございました!
第十四部もよろしくお願いします!