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06

頑張って連投してみた………

「ーーなぁ華琳?」


「ーーなにかしら和樹?」


「ーーここは庭だよな?」


「ーーえぇ。まぁ庭ではなくて御花園だけど。それが?」


「ーー謁見ってのは畏まった場所でやるもんじゃなかったっけ?」


「ーー将司。畏れ多くも帝への拝謁の栄誉を賜るのよ。それが何処であろうとも“謁見”には違いなくて?」


「ーーうん……まぁ確かに…」


和樹と将司、そして随伴の朴中尉と春蘭が華琳の案内で連れて来られたのは宮城の奥にある庭園。


「刀剣の類いは預けなくて良いのか?銃も携帯しているぞ?」


参内する時は武器になる物は全て預けるのが原則であるにも関わらず、それが成されなかった事に疑問を感じた和樹が腰の剣帯に提げている革のホルスターを叩いて見せる。


「私が剣履上殿を許可したのよ。貴方達が携えた武器を奪った所で都の外には貴方達の部下達が武装して待機している。その上、貴方達は禁軍の兵の武器を奪ってでも戦って殲滅しそうだしね」


「ふむ……尤もだ」


「ーー隊長。お願いですからそこは嘘でも“そんな事はしない”と仰って下さい」


「俺は正直者なのでな」


「傭兵が正直者なんて初めて聞きました」


朴中尉が帯剣しているサーベルの鞘を押さえつつ溜め息を吐きながら頭を振った。


「ーーさぁ軽口は終わったかしら?」


「軽口のつもりは無かったのだがな」


「ーー相棒、頼むから少し大人しくしてくれ。ニコチン切れか?」


「あぁタバコ吸いたい」


「ーーあ~~~……華琳?本当に大変申し訳ないんだけど……ウチの驃騎将軍閣下が謁見の前に一服を御所望してる。構わないかな?そこらの隅で済ませるから」


思わず拝み倒したくなる勢いで将司が華琳へ頼み込むと彼女は眉間の皺を指先で揉みほぐしつつ溜め息を吐く。


「ーー少しだけよ?」


「ーー感謝致す丞相閣下。直ぐに戻って参ります」


コートの裾を翻して和樹が元来た道を引き返す。


丁度良い所に目立たない喫煙スペースがあったのを思い出した彼は足早にそこへ辿り着くとコートのポケットからソフトパックのタバコを取り出した。


一本を銜えてジッポで火を点けると紫煙を肺へ流し入れてそれを吐き出す。


「ーー……面倒な事になった……」


タバコを右手の指に挟みながら空いている逆の手で愛刀の鞘を押さえつつ喫煙をしていると足音が近付いて来るのが聞こえた。


(……将司達ではないな。逆の方向だ。一人…足音の軽さからして女性……裾の長い服を着てるのか引き摺る音がする…近くなって来た)


タバコを銜えながら足音がする方向へ視線を向けるーーすると丁度、建物の角から朝服である冕服を纏った少女が現れた。


(…歳は……10代後半と言った所か)


紫煙を唇の端から吐き出した刹那、和樹の姿を認めた少女が小首を傾げつつ声を掛ける。


「ーーどなたですか?宮城では見ない顔ですが……」


「ーー孫呉驃騎将軍 韓狼牙と申す」


「あぁ……お名前は聞き覚えがございます。此度は帝への拝謁で参内されたので?」


「然り」


「ならば朝見の間へ参らねばなりませんよ。この先は御花園ーー帝の庭園でございます」


「いちいち御尤も。なれど曹丞相の案内にてこちらへ参った次第」


「そうでしたか。…剣履上殿も丞相がお許しに?」


「然り。丞相曰く禁軍では我々を押さえるのは不可能との事で」


「まぁ」


一通りの問答が終わると少女が口許を隠してクスクスと笑い始めた。


(……綺麗な声をしているな。……宮城の女官……にしては随分と……)


タバコを口に銜えたまま唇の端を窄めて紫煙を吐き出すと少女が興味深そうに見詰めて来る。


「ところで……先程から何をなさっておられるのですか?煙を吐いているように見えますが……」


「タバコという嗜好品を喫しております。この煙を吸い込んでから吐き出すのが作法にて」


「まぁ……呉ではそのような物が流行っているのですか?」


「いえ。我軍の者達のみが喫しております。この煙は身体に悪いのですが…まぁ…美味いので……」


「お酒を召し上がる者もそのように申しますね」


少女の言葉を聞いて和樹は僅かに苦笑した。確かに似たり寄ったりである。


短くなったタバコをコートのポケットから取り出した携帯灰皿へ放り込むと用が済んだそれを元の場所に滑り込ませた。


「ーーでは、手前は失礼させて頂く。御花園にて丞相達を待たせております故」


「でしたら共に参りませんか?茶の仕度がございますの」


「そうでしたか。…では共に参りましょう…」


和樹が同行を認めると少女はクスリと微笑んだ。







「ーー遅いわね」


「ーー遅いな」


「ーー遅いですね」


「ーー遅すぎますね。隊長はいつもタバコを数分で吸い終えるのですが……」


待ちぼうけを食らった四人は御花園の入口で和樹が戻って来るのを今か今かと待ち侘びていた。


「ーーなぁ。なんかイライラしてきたから、俺ここでヤニ吸って良い?」


「ダメよ。我慢なさい」


「……中尉ーー」


「ーー我慢して下さい。私も吸いたいのを我慢してるんです」


黒眼帯で左目を覆った中尉が若干の苛立ちを込めて苦言を放つ。それに将司は黙ったまま苦笑しつつ肩を竦めた。


「………噂をすれば来たわね」


「……アイツ15分も何してたんだーーありゃ?なんかエスコートしてねぇか?」


「……禁裏の女官ですかね?」


「まぁ宦官には見えねぇけど……いや…向こうで流行ってた男の娘って可能性も…」


少女が階段を昇るのを和樹が手を貸して助けているのを見た将司と中尉は、彼が遅刻した事よりも女性のエスコートが出来る事に興味を示していたが一方の華琳と春蘭はーーー愕然としていた。


「…な…なななっ……!」


「ど、どうすればそうなるのよ……」


階段を昇り終わり、なにやら談笑しつつ歩み寄って来る二人。


間近まで迫ると和樹は待たせていた四人へ声を掛ける。


「済まない、待たせた」


「ほんっとーに待たせたな」


「ふむ………17分と27秒か。済まんな」


「…そちらの方がお話に出た車騎将軍の呂将軍ですね?はじめまして呂将軍」


「ーーあぁいや……これは御丁寧に」


「そして……そちらの眼帯の方が側近の朴中尉ですね?左目は昨年の夷狄との戦で失ったとか。御大事ありませんか?」


「ーーこ、これはどうも……」


的確に二人の素性を言い当てた少女へ将司と中尉は恐縮して軽く頭を下げる。


「ーー共々控えよ」


ーー唐突に華琳が有無を言わせない声音で和樹達へ命じる。


「ーー曹丞相、壮健でしたか?」


「勿体無き御言葉にございます陛下」


少女に対して華琳は拱手抱拳礼で応える。


漢王朝の丞相である彼女が礼を尽くす相手は禁裏でただ一人しかいない。


「ーー改めまして、と言うべきでしょうか韓将軍。まだ名乗っておりませんでしたね。“朕”は劉協と申します。お会い出来て嬉しく思います」



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