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02

「ーー二ヶ月ぶりですな。評定の帰りに私邸へお寄りになりますか?」


「ーー徐盛達の顔を見ておきたいが、評定が早く終わればの話だな」


互いの愛馬の背に跨がりつつ和樹と彼が供として随伴させた曹長は建業の街並みを横目に流しつつ大通りを進む。


今日は孫呉領内へ散らばり各所の任地で公務に当たっている諸官が建業に集合し、呉王 孫伯符の臨席の下、二ヶ月周期で開かれる評定があるのだ。


華雄や隣の廬江郡太守に任じられた将司は公私問わず頻繁に顔を合わせるが、それ以外の諸官達とは久々に会う事となる。


かつては連戦に次ぐ連戦で各諸将は戦陣へ参じる為、それこそ嫌になるほど顔を合わせていたが戦らしい戦が減少した昨今では各々の任地で慌ただしく公務に追われているのが現状だ。


「評定の前に軽く食事に致しますか?それともこのまま真っ直ぐ城へ?」


「それほど腹は減っておらんし……耳に挟んだ話だが評定後、細やかながら宴を催すそうだ。このまま真っ直ぐ城へ向かおう」


「まぁ酒盛りに参加するのも仕事と付き合いの内ですからな……では参りましょう」


曹長の言葉に軽く首肯した和樹は馬具と腰へ佩刀した二本の愛刀の鍔鳴りをカチャカチャと響かせつつ一路、城への道程を進んだーー





「ーー皆、遠路遙々と御苦労だったな…久々に会えて嬉しいぞ」


講堂に集まった孫呉の主だった諸将へ冥琳が労いの声を掛ける。


それへ諸将は微笑を浮かべつつ会釈や軽く手を上げて振るなどの反応を示したがーー廬江郡太守へ任じられた黒衣の軍服に身を包んだ偉丈夫は彼女へウィンクで応えた。


それを見た彼女が軽く頬を染めるとーー傍らの椅子に腰掛けている主君が含み笑いをした。


「ーーで、では評定を始める!まずは各郡の太守より税収、開墾等の現状報告を!」


その言葉と共に本格的に評定が始まる。


各郡の太守を命じられた諸将が上げられた報告を読み進めつつ注釈を入れる。


和樹や微笑を引っ込め真顔となった将司が拝領した九江郡と廬江郡における税収等の報告を済ませる。


「ーーふむ…特に問題はなさそうだな」


「ーーそうねぇ……じゃあ次は和樹と将司の報告ね。二人の私兵軍についてお願いするわ」


「ーー畏まりました」


和樹が椅子から立ち上がり、机上に広げられた揚州全土の地図の上へ青く塗られた駒を置く。


「九江郡での我軍総兵力は約2000名。それを各県の治安維持等の名目で分散させております」


「廬江郡も同様に総兵力約2000名を分散させ、新兵教育も実施しております」


「河川の沿岸では魚雷艇を配備し、江賊の撃退に当たらせています。将来的には…海沿いの港を一部拝領し本格的な海軍の創設を目指したいと考えている次第です」


「ーー海軍ですって?水軍ではなく?」


雪蓮や諸将が首を傾げる。


すると和樹が傍らに腰掛けていた将司へ目配せし、写真が添付された資料を彼女達に配布した。


「……現在、運用しているのは高速魚雷艇(PTボート)ですが木造の敵船に対して魚雷を撃ち込んでも効果は望めないので水雷兵装ではなく砲熕兵装としてMG42、エリコン20mm機関砲、37mm砲等を搭載して流域の沿岸警備へ当たらせております」


「この半年で我々が呼称している沿岸警備隊が出動した回数は47回。脚の速さが幸いし取り逃がしはありません。全て河の底に沈め、根拠地も“粉砕”しました。…しかし他郡からの報告を耳に挟んだ所、海岸線では海賊が跋扈し幅を利かせているとか」


「海岸線が多く、水運での貿易が経済の要となっている孫呉ではシーレーン…海上交通路の掌握が重要となります」


「まぁそうなると領海も制定しなくてはならなくなりますが……いずれにせよ海路の掌握は必要になって参ります」


「……的確な意見だ。予算を考えておこう。ところで、その沿岸警備隊とはどのような場所なのだ?無論、江賊を幾度に渡って撃退している者達を疑う訳ではないのだが……」


「そうですね……まぁ話せる範囲で宜しいのであればーー」





ーー同時刻 九江郡 江水沿岸 沿岸警備隊駐屯地ーー




「ーーーくぅぅぉぉぉらぁぁぁテメェェェェ!!!なぁに甲板掃除サボってやがんだぁぁぁぁっ!!」


「ーーす、すんませんかしらぁぁぁぁぁっ!!」


「ーー頭じゃねぇ!!少尉って呼べぇぇぇぇ!!!昼飯抜きにすっぞコラァァァァっ!!!」


魚雷艇の甲板掃除を手を抜いて実施していた江賊上がりで入隊して日が浅い二等水兵を作業服の上着を脱ぎ、鍛え抜かれた体躯を晒している士官がデッキブラシを振り回しつつ追い掛ける。


「ーーまたか…1号艇は相変わらず騒がしいなぁ…飽きないのかねぇ…?」


「ーー艇長~~後部甲板の清掃終わりました~」


「ーーあいよ~~。次は舷側の塗装剥げた所のペンキ塗りやってくれ~」


「ーーりょーかーい」


「ーー趙~~?」


「ーー趙一水 現在地~~」


「ーー薄暮に哨戒任務あっから手空き連れて燃料と弾薬の受領やっといて~」


「ーー了解でーす」


沿岸警備隊は今日も和気藹々とした楽しい職場であったーー






「ーーまぁ、新人も早く空気に馴染める環境となっており、気を抜く所は抜き、入れる所は入れるといった具合ですかな」


「要は……以前の黒狼隊駐屯地のような雰囲気です」


「ほぉう……それならば練度は高そうだ」


かなり端折りかつ掻い摘まんだ説明を和樹はしたが、どんな雰囲気なのかを察した諸将達は納得したかのように冥琳の言葉へ頷いて首肯する。


「まぁ戦闘に関しては問題なしですかね。次に我が郡で訓練途中の飛行隊についての報告ーー」


「ーーーあ」


「ーーですが……なんだ相棒?」


気の抜けた声を出した和樹に報告を遮られた将司が嘆息しつつ視線を彼へ滑らせた。


「どうしたの和樹?」


「ーー別件ですが報告がありました。過日、曹魏の華琳殿より私と将司の両名に対する洛陽への出頭命令の旨が書かれた書状が届きま…し…た………?」


ーーその報告がなされた瞬間、講堂の空気が凍った。

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