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01

前作では硬派にさせ過ぎたけど、今回は逆にはっちゃけ過ぎ

「ーー敵の戦列が瓦解しました。壊走を始めています。追撃は?」


「ーーあぁ。歩兵連隊は着剣。騎兵大隊も突撃用意だ。歩兵は中央を猛進、騎兵は両翼から突撃させろ。俺も出る」


「では自分は右翼の騎兵中隊を指揮し、左翼は曹長に委任します」


「あぁ、任せた」


失明した左目を黒い眼帯で隠している朴中尉が愛馬の腹を蹴り、待機していた騎兵140騎を伴って右翼へ駆けて行った。


それを見て和樹が馬上で腕を振ると顔をフードで隠した曹長が首肯し、同じように140騎の騎兵を引き連れ左翼に駆けて行く。


総勢280騎を擁する騎兵大隊の騎兵達は騎兵銃として配備されたKar98kを負い紐で背中に吊っていた。


大隊が二手に別れて両翼へ着いたのを確認した和樹が愛馬の黒馗の腹を蹴り、Gew98へ銃剣を着けた歩兵連隊の先頭に立つと佩刀した愛刀を鞘から抜く。


「ーー突撃にぃ………ッ」


蒼天へ愛刀を掲げた和樹が刀身を一閃させ、撤退を始めた敵勢に切っ先を向ける。


「ーー前へぇぇぇッ!!」








「ーー九江を拝領して一年経つが、交戦する敵はどいつもこいつも盗賊や流行遅れの黄巾の残党とはどういう事だ?」


「ーーそれはどうぞ敵にお尋ね下さい」


「ーーきっと膝をガクガク笑わせながら喜んでお話になるでしょう」


本拠地の寿春へ凱旋の途に就いていた孫呉の驃騎将軍 韓狼牙が馬上で不満を漏らせば、それに隻眼の側近と顔を隠した忠臣は素っ気なくも的確な返答をする。


「ーー第一、賊相手に喧嘩をするのが隊長の役目ではないでしょう。本分は領地経営。インフラ整備に税の徴収、検地や作付けの調査、その他諸々。小競り合い程度の喧嘩に興じるくらいなら書簡へ目を通して、決済を願います」


「ーー中尉の申す通りです。だいたい孫呉の驃騎将軍ともあろう方が賊程度の討伐に出馬すること自体がおかしい」


両脇から諫言の集中砲火を浴びせ掛けられ、和樹が更に不機嫌となり唇をへの字に歪めた。


「……だって戦いたいんだもん…」


「…もん、って……間もなく三十路迎える大の男が気色悪い」


「隊長、教えて頂けませんか?来年の夏にはおいくつになられるので?」


「…29…」


「市井の子供らにおじさん呼ばわりされても訂正は願えなくなりますな」


「それに三十路間近で独り身とは…嘆かわしい」


「勝手に言ってくれるが、それはブーメラン発言だぞ。お前らも俺と大差なかろう」


和樹が釘を刺すとーー三十路が間近となったのに淋しい独り身なのは、この場にいる全員が共通している事に気付き中尉と曹長は固まった。







寿春へ帰還し、戦後処理を始めた和樹は城の執務室に置かれた大量の竹簡や書簡を見て、頭痛がしてきたのか片手で頭を覆った。


ーー治安維持の為に出動して四日と経っていないのに、この有り様か。


心中で毒づきながらも彼は椅子へ腰掛け、机上に所狭しと置かれた決済を求められている書簡へ目を通し始める。


火が点いたタバコを銜えつつ一本、二本と書簡を片付けているとーー書簡と書簡の間へ埋もれるように大陸では珍しい紙で作られた書簡があった。


外交用に使われる物だ、と気付いた和樹がそれの留め紐を解いて内容を読み始める。


ーーそれが知り合いからの物だと気付くのにそれほど時間は掛からなかった。


書簡を読み終わった彼がそれを机上へ放り投げ、腰掛けた椅子に深く座り込むと溜め息と同時に紫煙を吐き出す。







「ーー洛陽への召喚命令だと?」


「ーー応。それも魏王ではなく漢朝の丞相からという名目でな」


城を訪れた相手との一月ぶりになる熱い逢瀬の夜を休止し、寝台の上で互いの裸体を晒しつつ寝物語に興じているのは和樹としょうだった。


彼女の背中の中程まで伸びた銀色の髪を片手で優しく梳きつつ和樹は問い掛ける。


「葉、どう思う?」


「…ふむ…分からん」


「奇遇だな、俺も分からん。心当たりが多すぎる」


「…お前の女癖と似たようなモノだな」


「………抱かれた男の腕の中で言う台詞か?」


「言うさ。言うだけなら無料タダだ」


彼の腕を枕に頭ひとつ分も離れていない至近距離から彼女がじぃぃぃぃっと見詰めれば和樹が耐えきれず視線を逸らす。


「いつか背後から刺されるぞ。月夜ばかりと思わぬ事だ」


「刺される前に排除するぐらいは可能ーー…いひゃい(痛い)」


「……………」


葉が無言で和樹の頬へ両手を伸ばし、唇の両端を指先で引っ張りだした。


突然の事に和樹が抗議を上げるが彼女は構わず、両頬をグニグニと弄ぶ。


一頻り弄んで気が済んだのか葉が摘まんでいた唇を離せば、和樹が痛む箇所を撫で始める。


「…いきなり何を…」


「お前の胸に心当たりがないか聞いてみたらどうだ?」


「…………」


反論出来ず和樹が押し黙る。


それを見た彼女がしてやったりと心中でほくそ笑む。


「…いっそのこと、お前の子を孕めば関係は変わるのだろうがな」


「…冗談だろう…?」


「ほぉう?冗談と?そんな覚悟もなく、この華雄の初めての男となり、逢瀬の度に私を抱いていたと?」


「いやそれはーー」


「加えて……私は女だ。好いた男の子供を産みたいくらいの気持ちはあるのだが?」


「…悪かった…俺が全面的に悪い。先程の発言は撤回する。だから虐めてくれるな…頼む」


更に畳み掛ければ和樹が片手で顔面を覆い、声音が困ったようなそれへ変わる。


顔こそ無表情を保ったままだが、葉は内心で更にほくそ笑んだ。


「……最近ーーというか初めて抱いた晩からキミは俺に対して容赦なくなったな……」


「ふふん。あの晩が年貢の納め時だったと後悔するのだな?」


言葉こそ辛辣だが、彼女は甘えるように彼の鍛え上げられた胸板へ顔を寄せたーー

Q:いつ初めてベッドインしたの?

A:和樹「…初めて葉が手作りしたジャーキーを馳走になった夜」

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