序章
「−−ッ!!?」
ーー夢を見ていた。
黒衣の軍服に身を包んだ和樹が強張った身体を寄り掛かっていた壁面から離し、凝り固まった首を解す為、回してみるとゴキゴキと音が鳴った。
「ーー起きたか?」
「……あぁ。…俺は…眠ってたのか?」
「応。一時間くらい」
「…起こしてくれ…」
「まぁまぁ副長。隊長もお疲れなんですし−−あぁ了解」
「……そろそろか?」
寝惚け眼を擦り、エンジンのけたたましい爆音を耳へ受けつつ、背後にある円状の窓から眼下を睥睨する。
「いえ到着しました。現在、洛陽上空です」
一機のUH-1が着陸したMi-26の上空を旋回している。
機体後部の二枚貝の如きハッチが開き、ランプが降りてきた。
それが地面に着くか否かで小銃を携えた二名の隊員が昇降ランプを駆け降り、機体の両側面の警戒に移る。
「……相変わらず、惚れ惚れする動きね。黒狼隊の兵士達は…」
「はい華琳様。…流石は…天下無双の名を欲しいままにしただけはある」
彼方でローターが激しく回るMi-26へ視線を向けつつ騎乗する三人の美少女と美女。
その後ろには護衛なのだろう500名程の兵士達が待機している。
彼等が掲げる牙門旗の旗印は曹と夏侯。
魏の君主にして漢王朝の丞相である曹操こと華琳に、彼女の側近である夏侯姉妹−−春蘭と秋蘭だ。
機体のランプから馬の手綱を引きつつ降りてくる数人の人影。
機体から降り立ち、次々に騎乗した彼等が彼女達の下へ駆けてくる。
先頭を駆けるのは二名は漆黒のコートを羽織り、それに続く隊員達は迷彩服あるいは黒い軍服を着用している。
エンジンの爆音−−ローターが段々と回転を緩めていくと、幾多の蹄の音がはっきり彼女達の耳朶を打つ。
目と鼻の先で馬を止めた二人の男の顔を見て、華琳が僅かに表情を綻ばせる。
「…久しぶりね、和樹、将司。…半年ぶりかしら?元気そうで何よりだわ」
「会ったのは以前の会議以来だから…半年と十日ぶり…か?」
「あぁ、そんぐらいだろ。とにかく、お久し−♪華琳、春蘭ちゃん秋蘭ちゃん♪」
「お二人とも、お久しぶりです」
「…お久しぶりです…。あの−−」
「なんだね?」
慇懃に礼をする双子の片割れ−−春蘭が和樹達へ視線を向ける。
「…基桓は…来ていないのでしょうか?」
「基桓−−あぁ…曹長か。名前で呼ばれると一瞬、判んなかったぜ」
「奴は寿春だ」
「彼は貴方の最強の矛にして最強の盾では無かったのかしら?」
「……まぁ正直に言うと、誘ったのに野郎が来たがらなくてさ。向こうで留守番だよ」
「…まだ負い目を感じているらしい」
「そう…凪達も残念がるわ。−−さて、そろそろ行きましょうか」
−−帝への謁見に。
終わったのに性懲りもなく始まりました。
和樹「……俺、本当に三十路が間近になったぞ?」
将司「…そろそろガチでヤバいんだけど…年齢的に」