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木の葉

作者: 桜華咲良

この木の葉が全て無くなったら、私は消えてしまう。なんて、まるで絵本のような、まるで小説のような、まるでオー・ヘンリーの「最後の一葉」のような、そんな馬鹿げた話を僕は信じることができない。でも事実この小さな木の前にいる少女は「きえちゃうの」と言い続ける。少女のきえちゃうはきっと死を意味しているのだろうと僕は推測した。だが、ジョンシーのように重い病を患って弱っているようにも見えない。血色も良いし纏っている服は少し季節外れの薄着だが、とても元気そうに見える。死んでしまうようには到底見えないのだが、何故か少女からはとても悲観的でそしてなにか尽きていくようなものを感じ取れた。

 僕が、 老画家ベアマンのように馬鹿げてると一蹴した後、こっそりと壁に葉を描けば最後の一葉のような心温まるお話になるのかもしれない。でも少女の前の木は、壁を這うツタではなく、1本の小さな木だ。植樹されてまもないくらいの小さな木。葉はちらほらとしかない。そして辺りに壁はない。あっても少女は動き回れる。そもそも私には絵は描けない。

そんな悲しい事言わないで、楽しいことを考えよう。そう少女に言っても「きえちゃうからいい」としか返ってこない。対処に困った。なんと言えば良いのか。

 結局、そのとき僕はなにも言えず、その場を立ち去ってしまった。

 翌日一晩考えても答えがでないままにその場へ行ってみると、少女は立っていた。木を見ると、木葉が減っていた。少女の悲壮感はより一層強いものになっていた。消えるのが嫌なのかい?そう問いかけてみると少女は「ううん。こわくない」と言った。死ぬのが怖くないというのは余程意志が強いのだろう。偉いね。僕はそういって頭を撫でることしか出来なかった。

また翌日。その日は風が強かった。もしかすればすべてくなってしまっているのかもしれない。そう思って行ってみるとまだ数枚、ほんの数枚が風に耐えていた。この数枚があとどれくらい耐えれるかな。そう僕は少女に問う。「あとちょっとでなくなっちゃう」こう言う少女からは儚さを感じた。僕は何故か、それまで嘘にしか感じれなかった少女の言葉が、本当なのではないかと思い始めた。

その翌日、とうとう葉は2枚になっていた。少女は僕を認識するや否やこちらへ向かって頭を下げた

「おはなししてくれてありがとう」

 突然だったので面食らった。え。としか言えなかったかも知れない。少女が言い切るといきなり強い風が吹いた。身構えてしまう程の。コートに顔を埋め一瞬少女から目を離す。風が止み、前を見ると、そこにいた筈の少女が居なくなっていた。葉は、全て無くなっていた。

 翌日、行ってみても誰もいなかった。

 また翌日、誰も居なかった。

 そのまた翌日、居ない。翌日、居ない。

 来る日来る日、行っても居なかった。

 そしてとうとう、もう行くのをやめてしまった。雪が降り積もる冬の事だ。




 春、花咲誇る季節。不意に少女のことを思い出す。どうせいないだろう。消えてしまったのだから。でも久しぶりに行ってみた。

 そこに、少女は居た。花が咲いた小さな木の前、おめかしして、少し背が伸び目鼻立ちが整った成長した姿で。

 そして少女はこう言うのだった。「前世でお世話になりました。今世もおはなししてくださいね。」と。僕は唖然としてなにも言えなかった。

「輪廻転生」という言葉を聞いて「木の年輪」を思い浮かべたのは私だけでしょうか?針葉樹は年中青々としていて、一目で「ああ、生きているな」と感じ取れますが、冬になれば葉をすべて失う広葉樹はそうはいきません。いや、あれは死んではいないということぐらいはわかってます。春に向けての準備をしているのだと、その間に木の中ではしっかりと生命が成長していっているのだと。だけど、なぜか葉をすべて失った木を見ると、どこかしこでも同じことを毎年繰り返し見ているはずなのに、寂しさを感じるのは見た目の印象からでしょうか?

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