密談
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令嬢が養父に伴われて去り、ロビーに会食し歓談に興ずる人々の和やかな喧騒が戻った。マダムと呼ばれた老女のもとへ褐色の肌をした大柄な男が、別の方向から小柄な男が歩み寄る。
「どうだった」
「あまり話せなかったようですね」
「そうなのよ。思わぬ邪魔が入ったわ。一回負けたくらいで取り乱すなんて使えない男ね。――でもあのマキナフィニティ」
老女は小首をかしげた。無邪気な仕草のわりに青い目に凝る光は冷たい。
「普通の子どもに見えたわ」
「常人離れした機械親和度の高さだとサイキから聞いていますが」
大柄な老人が他の二人を制する。近づいてきた給仕バイオロイドが丁寧な物腰で飲み物を勧める。それぞれにグラスを受け取り三人は次の客のもとへ向かうバイオロイドを見送った。
「血のつながりはないがサイキにとって初めての子どもだ。――いわゆる親ばかというものではないか」
大柄な老人が砕けた様子で肩をすくめた。小柄な老人もうなずいた。
「そうかもしれませんね」
「子どもはきっとこちらの思惑通りに動かせるわ。でもサイキは――」
老女の視線が窓の外へ向かう。
「読めないわね」
「あのロボットを回収しますか」
「必要ないわ。あのロボットはあの娘のそばに置いておくのがいいのよ。アライブズ=テクノロジー社の正体を暴き完全に我々の手中に収めるために」
「アライブズ=テクノロジー社のトップだったら抑えたが……」
大柄な男が口をつぐんだ。続きを引き受けたのは老女だった。
「おかしな会社だわ。あなたの国の法律にのっとった企業形態、ちゃんと代表権を持つ人物も存在しているのになぜかその人物の安全など考慮しない。まるで――」
「どうでもいいもののように、ですか」
「そうね」
老女は目を細めた。
「あの会社の真のトップは別に存在するのかもしれませんね」
「代表権を持つ人物が失踪しても別の人物が経営に携わるというわけか」
「見せかけのトップをとらえても意味はないというわけでしょうか」
男たちから目を背け、老女は再び窓の外を見た。
「ええ。別の方法でアプローチしなければ。だからあのロボットをマキナフィニティに与えるのよ」
激しく降りはじめた。屋内にいても雨のにおいがする。丹念に刈り込まれた芝生も灌木も、窓からの眺めは夜の闇と篠突く雨に塗りつぶされた。
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