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ある毒使いの死  作者: いちぼなんてもういい。
第四章 <侠の天地>
78/245

59. <開戦前夜>

1.


嵩山。

はるか太古より、漢族ー華夏民族にとって神々の地と謳われた聖山。

<大災害>から半年以上を経て、その地にはかつてゲーム時代にはなかった建物ー寺院や道観が建ち並び、威容を誇る山嶺に荘厳さを加えている。

それだけでなく、<大災害>以来、<正派>の<冒険者>の拠点として、曲がりなりにも治安が維持されているとあって、各地の難民と化した<大地人>は競ってこの山を目指し、彼らの住む村が山麓のそこかしこに炊事の煙を立ち上らせていた。

遥か頂上に壮麗な<道帝廟>を仰ぐ山々は、どんな即物的な人間にも人知を超えた神の威風を感じさせずにはおかない神聖さに満ちている。


「いつ見ても美しいね、我らが聖地は」

「ですな」


感極まったようなベイシアの声に、後ろに従う<邪派>の先遣隊長、<屠龍幇>の幇主が頷いた。

彼らの前で、巨大な門扉がゴゴゴゴと音を立てて開いて行く。

その動きは驚くほどに緩慢で、短気な人間ならば「あと半日の距離に賊がいるのだぞ」と怒鳴りつけたくなるほどの緩やかさだ。

だが、凄まじい暴力の波濤から耐えるのがこの門の役割であり、その重量は一説には数十トンとも言われる。

堅牢な防壁に文句を言う<冒険者>などいるはずもなかった。


「ご無事のお帰り、祝着です」


大きく開いた扉の向こうには何人もの<冒険者>が立っていた。

<少林派>のファンをはじめとする<正派>の幹部たちだ。

一歩進み出て礼をする僧侶姿の青年に、ベイシアも軽く手を上げた。


「やあ。いない間迷惑かけたね」

「そちらこそ。無事に<邪派>と和解できましたようで」

「混乱は?」


ベイシアの問い掛けに、穏やかなファンの顔が微かに苦衷に歪んだ。

その顔だけで察したベイシアが顔をしかめる。


「やはり、小競り合いはあるか」

「特に低レベルプレイヤーの中では。

我らの目が届かないところでリンチまがいの事もありましたようです」

「日本人たちは?」

「ええ。<ヤマト傭兵団>は全員、我ら幇主の護衛に貼り付けました。彼らにも、単独行するなと言い含めてあります」

「いい判断だね、大師」

「恐れ入ります……<邪派>の先遣隊を早く山門の中へ。気をつけませぬと」


ファンの声に急かされるように、ベイシアと<屠龍幇>は山門をくぐり、広場に出た。

広大な山域を誇る嵩山だが、いくつか人の集まる広場はある。

その中でも最大の面積を持つ一角にでたベイシアたちは瞠目した。

人々が<冒険者>と<大地人>とを問わず忙しく立ち働いている。

微かに空気に硬さがあるのはファンも告げた対立のためか。

しかし、木材を運ぶ馬車、一心不乱に鉄を打つ鍛冶屋、矢を積み上げる矢師。

そこはまさに戦時の城だった。


「どいとくれ!」


立ち竦んだベイシアを押しのけるように、肥満体の中年女<大地人>が武器を満載した馬車を引いて行く。

見窄らしい服装からして難民のようだったが、馬を御す彼女には難民特有の暗い目の光はない。


「総力戦です。ここでは休むものは一人もおりません。誰もが戦っている」

「敗戦のショックは?」


ファンに相槌を打ちながら、ベイシアは最も聞きたかった質問を口にした。

後ろで<屠龍幇>の幇主が身を固くする気配がする。

<邪派>のいわば顔としてやってきた彼らには負けることは許されないのだ。

だが、二人の心配を吹き飛ばすようにファンはからからと笑った。


「大丈夫ですよ。ランシャンのお陰でね」

「ランシャンの?」


ファンの後ろでむっつりと黙っている<嵩山派>の総帥の顔を見る。

彼を頼もしげに振り向き、ファンは言った。


「彼が身を以て、あのまやかしを暴いてくれたのです。

敗戦の責任を取ると称し、五十回も、わざと自殺することによってね」


斬首、縊死、窒息死、溺死、焼死、ギロチン。

あるいは魔法で、或いは<絶命招>で、彼は見詰める人々の前で何度も壮絶に苦しみながら果て、蘇った。

そして告げたのだ。


「大事な記憶は何一つ、失われてはいない」


と。

敗戦からくる自責の念はあっただろうが、どれほどの覚悟と勇気を必要としたものだったろうか。

聞いた<邪派>とベイシアが、揃って深々と頭を下げる。

向けられた敬意に、煩わしそうにランシャンが手を振った。


「わしは敗軍の将だ。処罰は当然のこと」

「ランシャン。あなたのお陰で<正派>だけでなく、全ての<冒険者>が戦える。ありがとう」

「よせよせ。わしは責任を取っただけだ」


ランシャンの声にはは、と明るい笑い声が広がった時、一人の若い<剣士>が走ってきた。

腰に砂色の剣を差し、動きを阻害しない簡素な鎧を纏っている。

その目はまっすぐにベイシアに注がれていた。


「大侠! <邪派>のご先輩がた!フーチュンが挨拶を申し上げます!」


膝をついて包剣礼をする彼のギルドは<崋山派>とあった。

その顔に見覚えがある一人の<邪派>の拳士があっと叫ぶ。


「お前は、お嬢さんの……」

「無礼だぞ、控えよ」


<正派>の一人の声にも怯むことなくフーチュンは叫んだ。


「レンインはどこに行ったかご存知ですか! あいつが最後の念話で伝えたんです、行き先は大侠に聞けと。ご存知なれば、どうか!」


必死の眼差しに思わず周囲が気圧された。

いつしか、働く周りの人々も、フーチュンを追ってきたらしい仲間らしき<冒険者>も立ち竦む。

ベイシアはゆっくりと目を閉じた。


(彼が、フーチュンか)


真っ直ぐな眼差し、その目に映るのはレンインを思う心だ。

どう、伝えるべきか。

いわば今の事態の直接的な引き金は彼女だと言うのに。


結局、ベイシアは自分でも嫌悪感を覚える選択をした。

先延ばしにしたのである。


「……ああ、大まかには知っている」

「では!」

「だが、今は教えられない」


フーチュンの顔が憤怒で、続いて絶望の色で染まるのをベイシアはしっかりと見た。


「レンインは<邪派>の重鎮だ。

彼女は今、メイファ新教主の特命で動いている。

具体的な行き先までは私も知らないし、知っても教えられない。

それに君の任務は今、レンインに会うことでは無いだろう。

仲間とともに悪を討つ事だ。違うか?」

「違い……ません」

「ならば義務を果たせ。全てが終われば、その後は彼女を追うこともできよう」

「はい……」


悄然と去っていくフーチュンをいたましそうに見つめるベイシアに、ファン大師が周囲に聞こえないよう囁いた。

既にレンインのしたことは、念話を通じて大手幇主クラスの<冒険者>には知らされている。


「辛いことを伝えるつもりですか」

「それで諦めるもよし、諦めず追うもよし、さ」

「厳しいですな」

「男が女に焦がれたならば、どんな苦難も乗り越えるものさ」


ベイシアは空を見上げた。

間も無く日没が来る。

戦火に彩られるであろう夜が。

レンインとフーチュンは無事に夜明けを迎えられるだろうか。



 ◇


 夜の<嵩山>は静かだ。

いつもなら木々を飛び回る猿や、夜鷹やフクロウの類が騒がしい夜も、今夜ばかりはひそかな鳴き声一つ立てない。


フーチュンは、<嵩山>の麓近くの森で、木に登って剣を抱いていた。

周辺には、彼のほかにも手だれの<剣士(スワッシュバックラー)>や<刺客(アサシン)>が、思い思いの格好でまんじりともせず闇を見つめているはずだ。

わずか数キロ先にいるはずの、草原のエルフを中心とする大軍。

彼らに対する最初の警報機(アラーム)。それが今のフーチュンなのだ。


 ベイシアを暫定の統領とした、正邪混合の<冒険者>たちは、<嵩山>に押し寄せてくる敵に対する防御策をあっさりと決めていた。

嵩山は、広大な山域を有する複数の峰から構成される連峰だ。

いくら<冒険者>の数が多いといえ、その全てを守りきれるわけが無い。

ベイシアは、特に<嵩山>の中心とも言うべき東の太室山(グランリアル)、中央の峻極山(ハイエスト)、西の少室山(レイクサイド)を結ぶ間道を塞いだ。

続いて、三峰に上る道のうち、太室山、峻極山に至る道も塞いだ上で、少室山への道のみただ一つだけ残したのだ。

少室山は、現実世界でも少林寺が聳え、この<エルダー・テイル>の世界(セルデシア)でも武林論剣堂(カンフードーム)大議場(グランドセクション)をはじめ、<嵩山>の象徴にして中心とも言うべき場所だ。

そこのみに敵の戦力が集中するよう、あえて他の山域を捨てたのだ。


(レンイン……)


共に冒険した西域で手に入れた剣が、力を込めたフーチュンの腕に僅かにたわむ。

当たり前だが嵩山にはもっと良い剣もある。

それでもあえて<砂塵剣>を戦場の友に選んだのは、レンインとの思い出ゆえだった。


 相手は、<日月侠>のサブギルドマスターである。

いくら正邪の連合がなったとはいえ、全ての江湖の<冒険者>が納得しているわけではない。

作られた憎しみであっても、1年近い抗争によって生まれた不和は、そう簡単に解消できるものではないのだ。

だが、それでもフーチュンはレンインに会いたかった。

ユウに会いたいといったのも、突き詰めて言えば彼女だけが知るレンインの行方を問いたいがためだ。


何度も念話を掛けた。

フレンドリストに記された<レンイン>の名前は沈黙を纏ったまま、鈍く光るだけだ。

だが、それでも彼女の名前が光っていることだけが、フーチュンの気持ちを僅かながら慰める。

不意に、がしゃりと音がした。


「フーチュン」


月影を踏み、静かに現れた大男が、押し殺した声を木の上に投げる。

カシウスだ。

<騎士>―<守護戦士>である彼は本来ならば前線ではなく、固く閉じられた城門の奥にいるはずだ。

魔法職である仲間のムオチョウやイェンイと共に。

だが、現在の彼は鎧をつけていない。短剣一本だけの身軽な姿で、カシウスはするすると木の上に登り、体重を掛けすぎないよう注意してフーチュンの隣に座った。


「おそらく、明日―いや、下手したら今夜から戦だな」

「ああ」


視線を闇の向こうに見据えたままフーチュンが呟くように答えた。

そのうつろな視線は、彼の目が目の前の光景を見ているわけではないことを如実に明らかにしている。


「お嬢さんの消息、聞けなくて残念だったな」

「ああ……」

「吹っ切れていないのか」

「華国は広い。人の噂を辿っても、無事見つかるかどうか」

「しょうがあるまいよ。……なあフーチュン」


カシウスの呼びかける声が、ふと変わったのを感じ、フーチュンは視線を上げた。

暗闇の中でも炯炯と光る騎士の眼が、悩む<剣士>を正面から刺す。


「なんとなく……だが。お前とは長くはないが、深く付き合ったなあ」

「あの<黒木崖(クリフ・オブ・ブラックウッド)>でウォクシンとやりあった時からだから、確かに長くはないな」

「お前は……いや、お前とレンインは俺の恩人だ。俺を、ただ虐殺される為に飼われる、家畜の境遇から救ってくれた」

「ああ」

「俺は<七丘都市(セブンヒル)>の騎士として、恩の返し方を知っている。俺は、お前とあの娘の剣になり、盾になることを誓った。

だが今、守るべきもう一人の女性(レンイン)の行方は知れず、共に誓った<暗殺者(ユウ)>は敵だ。

俺の誓いは、だが変わっていないぞ。フーチュン。

お前の戦いが終わるまで、俺はお前を守ろう」

「いきなり……何を言っているんだ、カシウス」


フーチュンは困惑して、この頭一つは高い異国の友人の引き締まった顔を見上げた。

彼の声が悲壮さすら漂わせていることに気付いたのだ。

そしてもう一つ。

自分が、この気のいい<守護戦士>のことを、ほとんど何も知らないことも。

どんな人間なのか。地球ではどういう暮らしをしていたのか。何が好みで、何が嫌いなのか。

突然気付いた、その疑問を恥じるように、フーチュンはわざとぶっきらぼうに問いかけた。


「俺とお前はいつでも友達だ。だが、お前は<第二軍団(じぶんのギルド)>と合流するんだろう?

誓いなんてものはいいよ。俺だって武林の侠者なんだ」

「いくら不滅の肉体を持つといっても、こういう戦乱だ。いつ離れるか、あるいは……とも限らん。

今のうちに言っておきたかったのさ」


よっ、と両手の筋肉だけで、カシウスの巨体が地に飛び降りる。

瞬く間に遥か足元へ降りていった友人が訪ねてきた意味が分からないまま、フーチュンは下を覗き込んだ。

足下のカシウスは耳に手を当て、誰かと念話で話しているようだ。

持ち場を離れたことを、指揮官に叱責されているのかもしれない、と<剣士>は思い、苦笑した。

今は隠密中だ。大声を掛けることはできない。

だから、ふと顔を上げたカシウスに、フーチュンは笑って<砂塵剣>を掲げて見せた。


 頷くカシウスの顔がくしゃくしゃに歪んでいるように見えたのは、フーチュンの気のせいだったろうか。



 ◇


 闇の向こうに、懐かしい人影が見える。

黒い鎧をまとった<守護戦士>と、動きやすい軽装の皮鎧をつけた<森呪遣い>だ。

ユウは、思わぬところで再会した友人に手を振り、そちらに向けて足を速めようとした。

だが、どれだけ足を動かしても、友人たちとの距離は詰まる気配が無い。

おかしい。

自分は<エルダー・テイル>でも速度に特化した<暗殺者>だというのに。


不意に視界に別の影が見えた。

頭巾姿の<召喚術師>と、禿頭の<武闘家>。

視線を別の方角に向ければ、そこには大鎧を着た<武士>と、寄り添うように立つ若い女性の<召喚術師>が見える。

いずれもユウが旅の中で親交を深めた、ヤマトのかけがえの無い友人たちだ。


(おおい!)


叫ぼうとしたユウは、不意に彼らの顔に気付いた。

悲嘆。

憤怒。

失望。

軽蔑。

全て、彼らが自分に一度として向けたことの無い感情だった。


ふと、腰に感じる違和感に気付く。

そこには二組の手があった。

ひとつはごつごつした、褐色の掌だ。

もうひとつはすらりとした、成熟しきっていない少女の手。


(だれだ?)


友人の元へ行こうとする自分を阻むように腰の帯を掴むその手を、苛立ったようにユウは振り払おうとした。

しかし、腕はあたかも呪いのように張り付いて離れない。


(なぜ、邪魔をする!)

「「あなたはもう、彼らの仲間ではないから」」


異なる二つの少女の声が、ユウの耳朶を打った。


「あなたは自分の道を自分で選んだ。決意をもって」

「私との友情のために、あなたはそれ以外の全てを捨てた」

「あなたは闘いたかったのよ。<冒険者>の、それも対人戦で栄えた華国の<冒険者>と」

「あなたは理解した。この華国を直すには、人を殺さない、町を滅ぼさない<優しい治療>ではダメだと。

より華々しく、残酷で、炎のような手術でしか、華国は正されないと」

「誇りも正義も失って、<大地人>からの信頼と友情も失って、なお気付かなかった<冒険者>を」

「あなたは見限った。アキバを見限ったように」


少女の声が交互にユウの耳を掠める。

片方はまるで低い男が無理をして高音を出しているように不自然だ。

もう一つの声は、半ば涙にぬれているように湿っていた。


「あなたはヤマトに続いて華国も捨てた」

「人を率い、人と生きることを良しとせず、人から離れる道を選んだ」

「わたしの愚かで無情な策に乗った振りをして」

「あなたは偽善者ですらない」

「殺人狂よ」


(違う……いや、違わない?)


「違わないわ」

「違わない」

「あなたは出来るだけ多くの、強い敵と戦いたいという欲望を、華国を救うという理性で味付けしただけ」

「貴女の元仲間たちとは違う」


(だがな、レンイン!エル! 今更それを私に突きつけて何を聞きたい?

悔やんで泣かせたいか?)


ユウの声なき絶叫に、くすくすという笑いの二重奏が返される。

片方は明らかな嘲笑、もう片方は泣き笑いだ。


「私は喜んでいるのよ、あなたが私と同じ道を選んでくれて」

「私は悲しい。あなたを、私の汚名で汚してしまった」


(……あんたたちの言葉は正しいだろう)


いつの間にか、懐かしい友人たちの影は消えていた。

どこまで続くか分からないような暗闇の中、見えるのは二人の少女だけ。

分厚い全身鎧をまとったドワーフの少女と、墨染めの道服をまとったたおやかな少女だ。

ドワーフの腰に差された、彼女の身長には見るからに不釣合いな剣が、蒼い燐光を僅かに放った。


(私は、あの偽りの<大演武>で華国を、<日月侠>を、ウォクシンを滅ぼしたいと思った。狂おしいほどに。

あの戦いは私の対人家としての誇りを根こそぎ奪った。

それを<大災害>以来、連綿と許し続ける江湖の<冒険者>たちも。

だからレンインの策に乗ったんだ。敢えてダークエルフに降り、華国周辺の敵対勢力を糾合して華国に攻め込むという案を。

分かっていた。

レンインが考え、自分が実行した策で、華国の、特に北の住民は地獄すら生ぬるい境遇に落ちたことを。

自分が<追憶の鏡>に録画していた映像が、多くの<冒険者>を悲嘆と絶望に追いやったことも。

全部、分かってやったんだ)


「私の策に乗っただけだ、と罪から目をそらして?」

(そうだ)


揺らめくレンインに、ユウは確りと頷く。


「どうやって罪を償うの?」

(私なりのやり方で)

「本当にあなたは悪いの? アメリカでもヨーロッパでも、そう、あの楽園のようなアキバでさえ、理不尽な暴力や陵辱はあったし、<冒険者>のせいで死ななくてもいい人が死んでいる。

あなただけが罪を償う理由は?」

(それは私の行為には無関係だ。彼らは彼らなりに罪を償うだろう。アキバも……償いつつある)


怜悧な印象の<吟遊詩人>を思い出す。

彼女たちは、ユウより遥かに若いにもかかわらず、必死で人を率い、無法の闇に法と治安のか細い灯明(バグズライト)を灯しているではないか。


「結局、自分の殺人欲を自己犠牲の心でねじ伏せているだけね」

「あなたはきっと死にたいのね」

「きっと死ねるわ」

「たった一人、誰にも看取られず、あなたは死ねる」

「<冒険者>の運命から自由になり、あなたは死出の旅に出る」


その声を最後に、ふっと目の前の二人が掻き消えた。


(ありがとう)


そう呟いた時、どこからか光が差し込んだ。




「……夢」


チチチチと、囀る小鳥の声がする。

薄暗い天幕の中で、ゆっくりとユウは目を開けた。

外は既に騒がしい。

乱雑ながらも、彼女が中原に連れてきた邪悪な人と亜人が、攻城戦の準備をしているのだ。


「行くか」


愛用の<上忍の忍び装束>に袖を通し、腰に<蛇刀・毒薙>と<疾刀・風切丸>、二振りの刀を差して。

ユウは、ゆっくりと天幕の扉に掲げられた布を捲って歩き出した。

そろそろユウの動機の一端を書きたくなりました。

一部ですけども。


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