39. <竜>
オヒョウさまのお許しを得て、『私家版 エルダー・テイルの歩き方 -ウェストランデ編-』の主人公、西武蔵坊レオ丸法師を出演させていただきました。
オヒョウさま、ありがとうございます。
なぜ彼がバイカルと一緒に来たのか、そもそも彼はどんな理由でこの場にいるのか、それは次の回に説明できるかと思います。
1.
降り注ぐ土砂を突き崩すように地竜が駆ける。
その口に無造作に咥えられたテイルザーンは、90度傾いた視界から必死で逃れようともがいていた。
その頭上からくすくすと笑う声がする。
テイルザーンからは見えないが、そこには地竜の突撃を正面から浴びて昏倒したレンと、その彼女を足置き代わりにした<鏡像>のレンがいるのだった。
「少し急いでいますので、我慢してね、テイル」
「偽者が!俺とレンを離せ!!」
叫んだテイルザーンに、困った人ね、といわんばかりの声が浴びせられた。
「私がレンよ。何度も言ってるじゃない」
「やかましいわ!!」
必死にもがくテイルザーンだが、しっかりと咥えこまれた体では、振りほどくための力を出せない。
意味もなくじたばたと手足を動かすテイルザーンの、洞穴の暗闇に慣れた目に、突然まぶしい光が映った。
風が、大きく彼の周囲に孕む。
出口に出たのだ。
山は大きく揺れていた。
カシガリの山の中を縦横無尽に広がる<洞穴>が崩れ、山の形すら変わろうとしている。
なおも地竜を全力疾走させながら、竜の背にいる<鏡像>のレンは後ろを振り仰いだ。
その口から、からかうような声が届く。
「あーら、あれじゃ誰も助からないわね。残念ねえ。
テイルのお仲間はアキバで無事でしょうけれど、あの戦闘狂はおしまいかもね。
ま、どうでもいいけれど」
「同族の<鏡像>なんやろ!?助けにいかんでええんか!?」
「なんで?」
心底不思議そうなレンの声に、テイルザーンの言葉が詰まった。
「だって、あの人と私は同時に生まれたってこと以外、何のつながりもないもの。
どうせあの人、戦って死ねば満足なんでしょうから、好きにさせればいいわ」
「……分かったから、離せや。こんなことをして、俺がおどれについて行くと思うとんのか」
「あら。思ってないわよ。もちろん。だからそう思うようになるまで二人で暮らしましょう」
夢見るようなその言葉に潜むのは、紛れもない狂気。
思わず身震いしたテイルザーンの顔を、地竜の無表情な目がちらり、と見下ろした。
「ならせめてレンは離せ!」
「いやよ。だって私、この子が嫌いだもの」
十分距離をとったと思ったのか、ようやく地竜の足が止まる。
寒々しい広場で立ち止まった竜に、なおも体を噛みとめられながら、テイルザーンが言葉を失い、
<鏡像>はあははは、と晴れやかに笑った。
「この子はね、自分が嫌いなの。何もできない、する勇気のない自分が。
いつもいい子で、あなたのいい仲間の振りをする自分が。
本当はこんなにどろどろした気持ちを抱えていたのにね。
だから私もこの子が嫌い。自分で自分を痛めつけても苦しいだけだけど、私がこの子をどれほど苦しめても私は痛くもかゆくもないわ。
だから苦しめるのよ。永遠に、奴隷としてこき使ってね」
「イカレとるわ、おのれは……」
「それはこの子に言ってやってよ。私はただの<鏡像>だもの。
この子が望むように動くのが、私の存在意義」
会話を続けながらも、テイルザーンはじりじりと動く。
その手が小柄に触れた瞬間、彼はささやかな刃を勢いよく抜くと自分に噛み付いた地竜の顎に叩きつけた。
「<叢雲の太刀>!!」
「きゃあっ!!」
ダメージを一時的に無効化して、かつ大ダメージを与える<特技>が、地竜に叩きつけられる。
思わず浮いた竜の顎を膝で蹴り上げ、テイルザーンは転がるようにそこから逃れでた。
唾液で汚れた体をごろごろと回転させ、立ち上がったテイルザーンの前で、激痛を浴びた地竜が悶える。
その背中から何かぼろきれのようなものがすべり落ちた。レンだ。
「<電光石火>!」
続いて優雅に飛び降りた下着姿の女―<鏡像>のレンが何かをする前に、すさまじい速度で近づいたテイルザーンが、救い上げるようにレンを抱き上げる。
そのまま距離をとった彼を、熱狂的な目で<鏡像>が見つめた。
「その女……で、どうするの?あなた」
夫の不貞の現場を見た妻のように、怒りを抑えた口調の<鏡像>。
その目を正面から見返して、次の瞬間、<武士>は叫んだ。
「おうい!!ここや!!」
◇
「ここや!」
本格的に崩壊した<カシガリの洞穴>から飛び出した一行は、少し離れた場所でその声を聞いた。
「テイルザーンの声だな」
11人目の男、立て続けに立ち木を蹴り倒しながら進むバイカルが頷いた。
「地竜と戦っているのかも知れん、急ごう」
馬上からゴランが言う。
最後の12人目、アキバから届け物を持ってスワまでやってきたソロプレイヤー、
西武蔵坊レオ丸が、自ら召喚した<獅子女>の勇猛な姿態を横目で見ながら叫んだ。
「せやな。……カフカSさん、二人と離れたところに待機しとってや!
ユイAさん、アキNさん、護衛を頼むわ!くれぐれも傷つけさせんといてな!
なんせマイハマの騎士様とその御母君やさかいな!」
「はいな、旦那さん、任しとき」
「オッケーでーす。マスターも油断が大敵で!」
カルスと<鏡像>のシャーリアを両足に抱えた<誘歌妖鳥>が大きく旋回する。
それにあわせるように、<首無し騎士>と<喰人魔女>、2体の召喚獣が背を向けた。
「すげえもんだな。あんなモンスター、見たことがないぜ」
馬を走らせるジュランが併走する幻獣たちに思わず、といった調子で呟く。
ヤマトを出たことがない彼にとっては、見たことも聞いたこともないモンスターばかりなのだ。
「セルデシアもまだまだ広いもんやで?青年よ。可愛い子には旅をさせよ、ってなモンやな!!
ああ、はじめましての人ははじめまして、知り合いならまたよろしゅうに、西武蔵坊レオ丸です。
名前の由来は想像したってな」
「ところで野武士軍団、今はどうしたよ」
「聞くな!!聞かんといて!!必ず復活するから!するんやから!!」
カイリのツッコミに、自己紹介した法師風の<冒険者>は乗馬代わりの<麒麟>、チーリンLの鬣に躊躇なく顔を埋める。
馬そのものの顔立ちながら、チーリンLがうんざりしたような表情をするのを仲間達は見た。
呆れたように額を揉みながら、立て続けの<ワイヴァーン・キック>を放つバイカルが言う。
「ともかく。相手は<召喚術師>だ。いくら手持ちの召喚獣のレベルがミニオン級であろうが、<竜遣い>なんぞにまともに襲い掛かられたら普通ならおしまいだ。
戦術目標は仲間の奪還と<鏡像>の撃破、戦闘を切り上げての撤退は、この場合下策だが…・・・
それはともかく、なんであいつがあそこにいるんだ?」
胡乱げな視線の向いた先、彼らよりさらに先の木々をすり抜け、2人の<暗殺者>の、まさしく合わせ鏡のような背中が、すさまじい速度で走っていた。
「おい、こっちでいいのか」
<鏡像>の声に、返事すらせずにユウは走っていた。
隣には、つい先ほどまで死闘を繰り広げていた<鏡像>のユウがいる。
ユウは、ちらりと隣を見た。
自分の最も好戦的な部分を引き継いだモンスターは、口を引き結んで走っている。
「……おい」
「なんだよ」
「なぜ、私や仲間に協力しているんだ?」
「さあねえ」
そう。<鏡像>のユウは、戦いを中断して後、ごく自然に一向に合流していた。
当たり前のようにシャーリアを背負い、崩壊する洞穴から共に脱出したのである。
突き刺すような<本物>の声に、面白そうに<鏡像>は哂った。
「一応さ、俺の望みは一貫しているわけよ。強い敵と戦いたい。
あの色情魔は<竜使い>だろ?なら竜と戦えるわけだな。
俺もお前をあっさり沈めて欲求不満だからなあ。竜と戦いたいんだよ」
「なるほど」
善悪、人とモンスター。そうした垣根を越えた戦闘狂らしい返事に呆れつつ、ユウは正面を見据えた。
一行の最前線に立つ二人に、怒鳴るテイルザーンの声が聞こえる。
戦場は、もうすぐだった。
◇
「お前な。恋愛ごとには順序ってもんがあるし、そもそも俺は子持ちの既婚者で公務員や。
倫理上できんことがあるやろが!」
「コウムイン?よく知らないけど、そんなの抱き合えばどうでもよくなるわよ」
にこにこというより、にたにたとした笑みを浮かべながら<鏡像>がいう。
友人と同じ顔で堕落しきった言葉を吐く<鏡像>を、しかし冷静にテイルザーンは観察していた。
特技で放った大声は、<洞穴>にも届いたはずだ。
あの場にいる面子なら、仮に<鏡像>のユウが邪魔をしたとしても、カルスたち<大地人>を連れて無事脱出しているはず。
であれば、自分の声も聞き逃すはずがない。
そう信じ、彼はさらに会話を長引かせるべく話を続けようとした。
その時。
「<飛竜>、<炎竜>、<鋼尾翼竜>、出なさい」
唐突にレンが両手を掲げ、空中に巨大な魔法陣が描かれた。
光を突き破るように、3体の竜種が飛び出しては咆哮をあげる。
地竜とあわせて4体もの竜に囲まれた<鏡像>のレンは、愕然としたテイルザーンと顔を伏せたままの<本物>のレンを眺めて、心底うれしそうに笑った。
「時間稼ぎはおしまい。仲間が飛び出したときが最期」
「この、ど畜生めが……」
歯軋りしたテイルザーンの横で、がさりと梢がなり、光が走った。
「そこね!」
レンの声と同時に、<炎竜>が灼熱の吐息を放つ。
一瞬で木々が炎上し、熱風にあおられテイルザーンの髪がばさばさと揺れた。
「これで1人……かしらね」
「いや、無理だろ」
声は別の場所からした。
同時に、首下を斬り割られた地竜が悲痛な叫びを上げる。
「「<デッドリーダンス>」」
呟きは同時だ。
2つの影が、あっという間に地竜を切り刻んでいく。
断末魔の悲鳴を残し竜が沈んだ後には、まったく同じ姿の二人の<暗殺者>が立っていた。
「<ワイヴァーン・キック>!」
「バイカルさん、ずっとそれですね」
「何を言う、ゴラン、100の技を覚えるより誰にも負けない1を磨くのがいいのだ。
『半歩崩拳遍く天下を打つ』とか知らんのか」
「郭雲深やな。そういや中国サーバやと、形意拳も学べたそうやね」
続いて、レンの背後から、5人の<冒険者>が姿を現す。
思ったより早くの登場に、テイルザーンは思わず喜色をみなぎらせ、<鏡像>のレンは対照的に爪を噛んだ。
「どうやって<洞穴>から」
「簡単なことですわ。ワシが<風妖精>を呼んで、帰り道はその子に案内してもらいましてん。
あとは崩落したところをバイカルはんの蹴りやら、ジュランはんの呪文やらで壊していっただけですわ」
「だけど、こんな短時間でここまで」
「そら、愛と友情の力でっしゃろ!!」
代表して答えたレオ丸に、思わず全員の肩が落ちる。
見れば、3体の竜も、どことなく呆れたような表情だ。
レオ丸本人だけが、そんな空気を気にもせず、朗々と声を張り上げる。
「古来、人の恋路を邪魔する輩はなんとやらと言います。
わしらの世界では、古の都都逸から丸っこい機体に乗った某首相まで広く人口に膾炙した言葉ですな。
つまりは……無粋なことをしでかす前に、黙って謝れ、ちゅうことでんがな!」
「うるさい、年寄り!!」
頭の沸点をオーバーしたのか、<鏡像>のレンが金切り声を上げる。
その声にこたえるように、空に無数の召喚用の魔法陣が浮かび、次々と巨大な影が飛び出した。
バイカルが叫ぶ。
「テイルザーン!レンはどんな竜を持ってるんだ!?」
「大規模戦闘の戦利品をあわせてきっちり16体。
残りは15体や!中身は……ほら、目玉商品はあれやな。
<紅竜>と<碧竜>」
「……早く言えよ!!」
赤と青の優美な肢体をくねらせ、眼下の人間を憎悪に満ちた目で眺める2匹の巨竜を見ながら、
バイカルは呆然とした顔で呟いた。
2.
<鏡像>とは、特定のレイドランクイベントでのみ現れる、特殊なモンスターである。
このモンスターの恐ろしい点は、対峙する<冒険者>の能力を『そっくりそのまま』写し取ることだ。
それは、レベルに限らない。
手持ちの武器、習熟した<特技>、持つアイテムや召喚獣までもがその対象となる。
とはいえ、<エルダー・テイル>がゲームであったころは、それは脅威であったが強敵ではなかった。
彼らは、プレイヤーがプレイヤーたらしめる最大の能力、<操り手の腕前>をコピーできなかったからだ。
彼らは、<エルダー・テイル>の優れたAIに基づき、自由自在に特技を連発して見せたが、プレイヤーのように他者と連携するといった行動はできなかった。
それだけではない。
<鏡像>にはひとつの攻略のセオリーがあった。
<召喚術師>を多く連れて行き、<鏡像>が出てくる前に召喚獣をすべて片付けてしまう、というものだ。
それは、ゲーム時代のAI処理に原因がある。
召喚獣の乱発は、容易にプレイヤーのPCスペックを超過してしまう。
<鏡像>の<召喚術師>が雲霞のごとく召喚獣を呼び出したせいで、処理落ちをするプレイヤーが続出し、全世界からの抗議にアタルヴァ社はAIの設定を変えざるを得なかった。
すなわち、<召喚術師>の<鏡像>は1体までしか召喚獣を呼び出せない、それも最後に使った召喚獣のみ、というものに。
しかし。
「私のかわいいドラゴンたち!そこの<武士>とその後ろの女以外、全員を滅ぼしなさい!」
飛竜の背に飛び乗って舞い上がる<鏡像>のレンの指示に従い、居並ぶ14体のドラゴンたちが一斉に歯茎をむき出した。
すかさずユウの短剣が飛ぶが、飛竜は風圧だけで毒の混じった剣を叩き落とす。
「どうするんだ!」
「みんな、俺を中心に陣形を組め!」
叫ぶジュランにテイルザーンが吼え返す。
指示によれば,ドラゴンはテイルザーンと<本物>のレンを狙わない。
そのレンはなおも虚脱し、意識があるかどうかも不明だ。
テイルザーンの指示に動こうとする7人を、しかしドラゴンたちはそのままにしなかった。
GYAAOOOO!
咆哮とともに、走るバイカルが炎に飲まれる。
炎竜の特技、<炎の吐息>だ。
「うわっちっちっち!!」
辛くも炎の渦から飛び出した彼の禿頭を、別の巨大な爪が鷲つかみに持ち上げた。
「うわ!離せ!俺は精進料理ばかりだからうまくな……へべっ!」
持ち上げかけた爪が外れ、バイカルが奇妙な声とともに地面に墜落する。
<鏡像>のユウがとっさに投げた<ペインニードル>が、蒼天竜の腕を麻痺させたのだ。
忌々しげに舞い上がる蒼天竜を尻目に、<鏡像>のユウはバカにした口調で声をかけた。
「どうした?おっさん。ボールみたいな頭してると、そんな羽目になるんだぜ」
「うるさいわ!ああでも……気の強いヤンデレ俺っ娘口調のユウか……これはこれでありかもしれんな」
「ぶち殺すぞ!黙ってヘイトを集めてろ!」
うっとりと呟いたバイカルに、隣にいた<本物>のユウが思わず叫ぶ。
とはいえ、状況は阿鼻叫喚の一言に尽きた。
14体もの竜、しかも本来レイドランクの竜が2体もいるような状況は、普通なら大隊規模戦闘でもおかしくないのだ。
わずか9人、しかもうち1人は虚脱し、1人はマークされて動けない状況では、全滅すらありえる状況だった。
そもそも、<ホネスティ>にはいったのが<大災害>後であるレンが、なぜここまで高レベルの召喚獣を持っているのか。
カイリがあせった顔で問うと、テイルザーンは一瞬後ろを振り向いて悲しげな顔をして答えた。
「<ホネスティ>は多くのダンジョンや<妖精の輪>の情報を集めとった。それを使って、新しく入ったメンバーにも積極的に戦力化をはかっとったんやて。
……まさかこうなるとは、アインスはんも夢にも思ってなかったやろうけど」
「クソ!」
カイリが舌打ちをし、次の呪文を唱える。
もはや回復役、攻撃役の区別もない。ただ目の前の竜の強襲をかわし、激減する仲間のHPを見ながら彼は呪文を唱え続けた。
◇
ユウは、<鏡像>と並んで戦場を駆け回っていた。
戦局が、最悪の予想の斜め下をはいずっていることは彼女自身承知している。
いまさらながらに、なぜ当初に<鏡像>のレンを狙わなかったのかを彼女は悔やんでいた。
「だからいったろ、最初にあの女を狙えってさ」
後ろを走る<鏡像>が言った。
頭上から降ってくる牙をかわして、なおも<鏡像>が続ける。
「何も殺せっていうわけじゃない。目でも抉って、ついでに喉をつぶして、声が出せないようにしてしまえばよかったんだ。<冒険者>が変な情で無傷のまま捕えようとしたからこのザマだ」
「確かにな」
軽くうなずく。
突撃してきた鋼尾翼竜に、<ヴェノムストライク>を2連撃で叩き込み、なおも二人のユウは言葉を交わした。
「もうこうなれば、手段はふたつだ」
「ふたつ?」
「ああ。ひとつはあそこの<武士>をわざと殺しかけて、あの女に攻撃をやめさせる。
もうひとつはわざと俺たち以外を全滅させて、奴がテイルザーンを捕まえに降りたところを殺る。
どうする?俺はどっちでもいいが、やるなら前者がおすすめだぜ」
そういって、最初の女を誘惑した伝説の蛇に似た表情で、ユウと同じ顔のモンスターは昏く笑った。
その時、初めてユウは振り向いた。
「……なんだよ?」
その表情に、神経を逆撫でされた表情で<鏡像>が呻く。
同じ顔の女を笑って眺めながら、ユウは視線を合わせないまま飛び込んだ炎竜の爪を断ち割った。
悲鳴を上げる竜を背に、ユウが断定する。
「お前は私そのものだと思っていたが、やっぱり違うね」
「はぁ?」
視線を別の方向に向ける。
そこでは召喚獣の<獅子女>を指揮して竜をあしらうレオ丸と、その横で蒼天竜に拳を叩き込むバイカルがいた。
別の方向には、テイルザーンを中心に方陣を組んだジュランたちがいる。
彼らの、特にジュランとゴランの攻撃は貴重な遠距離火力だ。
<ラミネーションシンタックス>で範囲魔法に強化された電撃の渦が、竜たちを縦横に焼いていく。
その、後ろ。
突っ伏していたレンが、徐々に身を起こそうとしていた。
「私たちの選択はこうだ。このまま真正面から竜どもを全部ぶちのめし、あの女を引き摺り下ろして土下座させる」
「おいおい、マジかよ」
「お前こそ冗談言うなよ。せっかく全身全霊で挑む戦いだってのに、そんな近道をするつもりか?」
「近道だと?」
頭がおかしくなったのか?という目の<鏡像>に、ユウは仲間を見ながら心底楽しそうに言った。
「せっかくの強敵との戦いだ。勝った負けたよりどれだけ戦いを楽しめるか考えるべきだろう。
……少なくとも私はそう考えるけどね」
そういって飛び出したユウに、<鏡像>は思わず足を止めて見送るしかなかった。
少々文章を手直しさせていただきました。




