21. <廃工場>
夜が来る。
恐怖に満ちた夜が来る。
親たちはまだ日も高いうちから子供たちを家に閉じ込め、じっと息を殺す。
すると深夜、やってくるのだ。
きらびやかな装備を身にまとい、美麗な剣を携えた化け物たちの群れが。
1.
「<冒険者>!!?」
ユウが声をかけた瞬間、その初老の男は甲高い悲鳴を上げて逃げ出した。
周囲に悲鳴が交差し、人々が我先にと逃げていく。
子供たちを抱き上げ、家に飛び込み、雨戸を閉め、挙句にバタン、と音を立てて扉が閉められた。
「な、なんだ?」
ユウ、クニヒコ、レディ・イースタルの3人は、見る見るうちに人っ子一人いなくなった町の大通りで顔を見合わせた。
ひゅう、と風が吹き、打ち捨てられた買い物鞄をバタバタと揺らしている。
ロカントリの町を出て6日目、午後のことだった。
「あの、旅の者ですが、すみませんが宿を……」
レディ・イースタルの精一杯女性らしく淑やかな声に返されたのは、悲鳴とガチャ、という鍵のかかる音だった。
「出て行け!出て行ってくれ!化け物!!」
内側からたまりかねたような叫びが上がり、そして消える。
まるで誰かに無理やり口をふさがれたかのようだった。
「化け物とは失礼な。これでも伯爵だぜ、俺は」
宿屋らしい建物から戻りながらレディ・イースタルが憤懣やるかたない、という表情で悪態をついた。
「しかしここまで差別されるもんかな、<冒険者>ってのは」
とクニヒコがぼやけば、
「〈Plant hwyaden〉のアホどもが乱暴狼藉でもしたんじゃねえの?」
とこれはユウだ。
いずれにしても、初めて出会った<冒険者>への完全な拒絶に、3人はやれやれという顔を見交わす。
「別の町に行くか?」
「しかし、ここから先は当分町はなさそうだぜ。ホウフくらいまで行けば何とかなるけどな」
「汗血馬でも日暮れまでに到着するのは難しいだろうな。それにたぶん夜から雨だぞ」
西の空を見れば、不吉な黒雲が湧き上がってきている。
雨の中の野宿は、風邪を引く心配はないにせよ、精神年齢の老いた3人にはさすがに御免だった。
はぁ、とため息をつく。
やがて諦めたようにユウが言った。
「しょうがない。ここの軒先か納屋でも借りて寝よう。
黙って寝る分には文句もあるまいよ」
その日の夜。
ユウは寝苦しそうに足元の藁を蹴っていた。
さすがに<大災害>当初の廃墟暮らしに比べればマシとはいえ、藁はちくちくと痛く、
気づけば汗の浮いた耳に入り込んでは奥でガサガサと響く。
暑そうに寝返りを打ち、ユウは諦めたように起き上がった。
「これじゃ寝れん」
随分自分も贅沢になったもんだ、と軽く自嘲しながら、耳に入った藁をかき出す。
ついでに顔でも洗って寝汗を取るか、と納屋の外に出た彼女の視界に、ふと人影が入った。
ネチケット守ろうぜ
<冒険者>、<武士>、70レベル。
重厚な拵えの太刀を鎌倉武士のように刃を下にしてたばさみ、古式ゆかしい大鎧を着たその姿に
ユウは見覚えがあった。
「お、ネチじゃないか。私だよ、ユウだ。久しぶりだなあ。いつ復帰してたんだ?」
その<武士>は黙りこくり、明かりもなく暗闇に立っていたが、10年前に引退した古い友人を見つけたユウは、その違和感に気づかなかった。
寝ている仲間を起こさないように小声だが、嬉しげに近づいた<暗殺者>に、古馴染みのその男は奇妙に制止して見つめていた。
その唇が動き、かすかな声がユウの耳に届く。
「……いか?」
「なんだ?あの馬鹿でかい声のネチが、何ひそひそ声出してるんだ?」
「そこへ……入っていいか?」
「なに言ってんだお前、ここはただの納屋だぞ。勝手にはいりゃいいだろう。
それに、寝てるのはお前も知ってるタルとクニヒコだ。
懐かしいだろう。レベル差はついちまったけどな」
ははは、と笑ったユウの横をすっと通り抜け、旧友だった<武士>は納屋に入っていく。
その姿が半分闇に沈んだとき、ようやくユウも彼の違和感に気がついた。
「おい。ちょっと待て。ネチ。お前本当にネチか?」
男は答えない。
溶けるように納屋に消えた男に、言い知れない不安を感じ、ユウは思わず刀を鞘ばしらせた。
リィィィン、と<堕ちたる蛇の牙>が鳴く。
それはここ最近、敵を前にしたこの刀が必ず出す音だった。
「おい!ネチ!!」
納屋に走りこんだユウが見たものは、信じられない光景だった。
<ネチケット守ろうぜ>がすやすやと眠るレディ・イースタルの白い首に向け、口を大きく開けている。
それが情欲からでないことは一目で明らかだった。
彼の口には無数の牙が生え、そして兜の眼庇の奥の瞳は爛々と真っ赤に輝いていた。
「きさま!!」
叫びざま、ユウが床を蹴る。
その刀を、ガキィィン、という音ともに、いつの間にか抜かれた太刀が受け止めていた。
今こそユウは、彼のステータス画面の最後の一行を読んだ。
サブ職業:<吸血鬼の下僕>
「お前!ネチの皮をかぶってなにしてやがる!!」
ユウが叫び、クニヒコとレディ・イースタルが身じろぎしてしょぼしょぼした目を開けた。
ユウはそんな二人のことなど気にすることも出来ない。
縦横無尽に太刀を振るうかつての旧友―の皮をかぶった何か―と剣を打ち合わせる。
<吸血鬼の下僕>は、プレイヤーでは選択できないサブ職業だ。
職業というより呪いそのもので、そうなったキャラクターは死ぬしかない。
ユウの知る<ネチケット守ろうぜ>は<調理師>だったはずだ。
であれば。
「別人だな!ネチの姿を借りやがって!」
怒声とともに、ユウの刀が振り下ろされる。
同時に繰り出された<アサシネイト>が致命傷だったのだろう。
<ネチケット守ろうぜ>は無言のまま倒れ、後には光だけが残された。
ユウはふう、と息を吐くと、レディ・イースタルとクニヒコに向き直った。
呆然と目の前の戦いを見ていたクニヒコが、ようやく搾り出すように声を出す。
「おい、今の……ネチか?」
「その皮をかぶった吸血鬼の下僕だ。どうやら、この町の人が俺たちを異様に恐れていたのはこいつらのせいらしい」
ユウは刀についた血を一振りして落とすと、断言するように言った。
◇
翌日は案の定雨だった。
納屋で寝ていた3人を発見し、即座に卒倒した老<大地人>を見つけたのはクニヒコだ。
残り少ない霊薬を分け、老人を蘇生させた3人を、ようやく村の人々は人間として認識した。
とはいえ、その待遇は口の悪いレディ・イースタルにして
「普通、会話と言うのはこんなにはなれて、ついでに武器を突きつけられてするもんじゃないんだが、こいつらは人間様の会話のやり方も知らん緑小鬼の亜種かなんかか?」
と言わしめる程度のものだ。
とはいえ、心底びくびく、おどおどした<大地人>たちの姿に3人が哀れみを催したのも事実だった。
正面に、護衛らしき猟師で両脇を固めた村長が座ったのを見て、クニヒコは腕を組んで尋ねた。
「でさ。あんたたち、一体何があったんだ?」
「お前ら<冒険者>が人を襲うんだよ!襲われた奴は変になって還ってくるんだ!」
口を開きかけた村長の前に、周囲の輪から叫び声が上がる。
3人はその声にぴんと来た。
村長だけでなく、周囲の村人達―その主だった人々―に声をかける。
「もしかしてさ、それ目を真っ赤にして、口から牙生やして、夜中にドアを叩いたりしない?」
「そうだ!よく知ってるなんてやっぱり」
「待った」
パニックに陥りかけた村人をレディ・イースタルが制する。
腐っても伯爵というべきか、馬子にも衣装と言うべきか、落ち着いて優雅に手を下ろす仕草は
さすがに中身が男とは思えないほどに堂に入っていた。
「ここってライトニングの村だったな。もしかして、お前さんらのじいちゃんかひい爺ちゃんかもっと前くらいの時も、同じようなことがなかったか?」
「……夜に出歩いた村人が消え、化け物になって戻ってくる、という事件はあったようじゃ。
そのときは<冒険者>が来てくれたとも。
しかしその<冒険者>が化け物に成り果てることなどありはせん」
「分かった。こりゃ<廃工場の吸血鬼>事件だ」
パチン、と場違いに明るく、レディ・イースタルが指を鳴らした。
<廃工場の吸血鬼>。
現実世界で5年おきに発生する小規模クエストだ。
適正ランクはその時点における最高位ランクであり、パーティ規模の戦力を必要とすること、
何より5年に1度というそのレアさから、挑戦者が少ない割りに知名度は高かった。
その特徴は何と言っても現実世界でのコンビナート地帯、セルデシアでは巨大な神代の廃墟が舞台であることだろう。
近代コンビナートの成れの果てに吸血鬼、というギャップが面白く、類似したクエストは世界各地にあったという。
「そういえばそろそろだったな。前回が2014年の春先で、1年遅れだとか騒がれたっけ」
「その時はザントリーフだったか?そういえばその前がこの向こうのフォーリンパインの街だったな」
「前回って吸血鬼がみんなリアルの企業の作業服着てたんだっけ。ヘルメットにトランシーバーで」
「……よく文句つかなかったな。あ、PRの一環でタイアップしてたのか」
「聞いた話じゃ、事前に企業の広報に頼んで、案内のNPC役をしてもらったんだと」
いきなり雰囲気を変え、和気藹々と騒ぎ出した3人に、しばらく黙っていた村長が耐え切れず怒鳴った。
「何がおかしいのじゃ!こっちは人がいなくなっとるんじゃ!!
お前ら<冒険者>には遊び半分かもしれんが、村の危機なんじゃぞ!!」
「いや、それはわかるけどね。正直なところを言えば、大変だね、くらいしか」
あっさりと答えたクニヒコに、村長の額の青筋がこれ以上なく浮き出る。
「……ふざけおって!さっさと行かんか!!お前ら<冒険者>の落ち度じゃろうが!」
その声に、クニヒコだけでなくユウとレディ・イースタルも押し黙った。
そのまま白い目でにらむ3人に、村長の怒声が徐々に小さくなっていく。
「な、なんじゃ・・・・・・」
「村長さん。ちょっと想像してみてくれ。いきなり俺たちが『金よこせ!』と言ったとする。
当然、断るよな」
「もちろんじゃ」
「でさ。俺たちが『俺達はどこそこの村の<大地人>に荷物を盗まれた。同じ<大地人>のお前らが補償しろ』なんて言ったとすると、村長さんは納得する?」
「……う」
「主客転倒して考えてくれ。この場合、理不尽を言ってるのはどっちだ?」
「<冒険者>は運命共同体じゃねえんだよ。何で同じ<冒険者>だからって、赤の他人の為に苦労しなきゃならんのだ」
クニヒコの言葉尻を捉えてレディ・イースタルが言い募る。
黙りこくった村長の代わりに、今度は初老の女性が進み出た。
「あんたたち、屁理屈こねずにさっさと行ってきな!<冒険者>の相手が<大地人>に出来ると思ってんのかい!」
「イヤだね、おばさん」
即答したユウに、女性はいきなりつかつかと近寄るとその頬を張った。
「化け物が出た!<冒険者>が戦う!これがこの世の当たり前ってやつで……へぶっ!?」
突然女性がへなへなと崩れ落ちた。
一瞬色めきたった村人だったが、いびきをかき始めた彼女の声にほっとため息が漏れる。
正面に座ったユウがこっそり鞄に瓶を入れたのを目ざとく見つけ、ユウたちはひそひそと話した。
「毒使っただろ、お前」
「ああいう手合いは説得しても無駄だ。そしてやられたからってやり返せば連中の首の骨が折れる。
というわけで<快眠>の毒の出番だ。多分腰痛、肩こり、高血圧くらいなら治せるだろう」
「アン○ルツとカル○ロックを混ぜたような毒だな……」
しれっと答えたユウの前で、重量級のその女性を苦労して片付けた村人達からは、しわぶき一つ聞こえなかった。
誰もが途方に暮れたような顔で左右を見交わしている。
(こりゃ怒ってるわけじゃないな。戸惑ってるんだ。
<冒険者>はおせっかいで世話好きでトラブルメーカー、位に思ってるのかな。
彼らにとって<冒険者>は何十年かに一度来ては村の困りごとを解決する、便利な神くらいの扱いだったんだろうな)
内心で思いながらも、一旦振り上げた手をユウは降ろす気はなかった。
お互いに沈黙が落ちる。
誰もが、交渉を打開する方法を考えていたとき。
ばぁん、と突如扉が開かれた。
「こ~んに~ちはっ!!」
誰もが予想し得ない侵入者に、その場にいる人々の目が点になる。
扉の前に佇んでいたのは、妙に幼い顔立ちの下に神官衣と思しき衣装をまとった、ドワーフの少女だった。
「……お前さん、誰じゃ?」
やがて、沈黙に耐えられなくなった村長がおずおずと口を開いた。
さまざまな感情が抜け落ちた平板な問いかけに、少女は元気よく返事をする。
「ナカスの<アイガー修道院>のエルですっ!はじめましてっ!」
「<冒険者>か!?」
色めきたつ村人をよそに、少女はくりくりと動く目で周囲を見渡した。
その目がユウたち3人を捉える。
「あれ!あなた<黒剣騎士団>のクニヒコさんじゃ?それにそっちは<グレンディット・リゾネス>のレディ・イースタルさんじゃないですか。となるとお隣は対人家のユウさんですよね!
わあ、すごい!!
サーバの有名人に3人も会えるなんて!」
きゃあきゃあ、と黄色い声を上げてはしゃぐ。
その彼女に、レディ・イースタルが声をかけた。
「……あんた、<アイガー修道院>の人か」
「ええ!といっても栄えていたのは昔、今は弱小ギルドですけど」
<アイガー修道院>とは、プレイヤータウン、ナカスが実装されたころに、ナカスに住む回復職を中心に結成されたギルドだ。
その名のとおり、神職しかギルドに迎えないというルールを持ちながら、
ナカス勃興期には大規模戦闘を含め、数々の戦場で活躍した集団だった。
最盛期の人数は200人近くもいただろうか。
だが、その名前が過去のそれとなって既に久しい。
3人にしてからが<アイガー修道院>のギルドタグをつけたプレイヤーを見るのは何年かぶりだった。
昔、耳に親しんだギルドの名前を目にしてほっとしたのか、ユウが尋ねた。
「久しぶりの名前だ。懐かしいよ。ところでエルさんはどうしてここに?」
「旅をしていたら吸血鬼の噂を聞きまして。私たち<施療神官>にとってアンデッドは敵ですから。少しでもお役に立てればとやって来たんです」
溌剌と答えた彼女に、ユウも思わず顔をほころばせた。
「いや、嬉しいよ。見てのとおり3人パーティでね。回復役が増えるのはありがたい。
それに、昔<アイガー修道院>にはずいぶん世話になったもんだし」
「私は新人ですけどね!村長さん!」
「な、なんじゃ」
「吸血鬼退治は<冒険者>の仕事です!この依頼、<アイガー修道院>の名にかけてエルが請け負います!」
「おいおい、勝手に言うなよ……」
レディ・イースタルがぼやくが、快活な彼女が現れたことで雰囲気が変わったことを感じ、
どことなくほっとした表情だ。
それは<大地人>も変わらない。
<冒険者>の吸血鬼への怒りはあるが、それによってもしユウたち3人を怒らせでもすれば、
よくて吸血鬼を倒せないままの日々が続き、悪ければ3人によって皆殺しにあう可能性もあったのだ。
明らかに愁眉を開いた村長に続き、村人たちが話し合う。
結局、ユウたちの意見は半ば無視され、エルと村人たちとの間で、とんとん拍子に吸血鬼退治は決まってしまったのだった。
◇
夕暮れである。
村人はそそくさと家に帰り、ユウたち4人は村長の家でささやかな夕食をとっていた。
「ナカスはどんな感じなんだ?」
「いろいろ大変です」
ぽりぽりと漬物をかじって問いかけたクニヒコに、エルは浅黒い顔を向けてやや沈んだ口調で答えた。
「ミナミの<Plant hwyaden>は遠征軍を派遣するし、ミナミから逃げてきた<第11戦闘大隊>とか<ハーティ・ロード>だとかが、レジスタンスだ、なんて騒いでて。
私たち<アイガー修道院>も、あちこち駆け回ってます。
ただでさえこの辺や北九州あたりは、ウェストランデとの国境線ですからね。
<大地人>の人たちもかわいそうです」
「だろうなぁ……」
頷くクニヒコに、今度はエルが質問を投げかけた。
「あなた方はどうしてここに?私もそんなに知りませんが、クニヒコさんもユウさんもアキバの<冒険者>でしょう?」
「まあ、いろいろあってね」
言葉を濁したクニヒコに何か閃くものがあったのか、エルが尋ねた。
「なら、ナカスに来ませんか?うちはともかく、大手ギルドだと引く手あまただと思いますけど」
「それも考えたんだがね。ナカスはナカスで面倒くさそうだしなぁ」
「<Plant hwyaden>をぶちのめすのは構わないが、町の中の権力争いに巻き込まれるのはゴメンだ」
ぼやくクニヒコに、肩をすくめるレディ・イースタル。
「すみません……」としょげ返るエルに、あわててレディ・イースタルが手を振る。
「いや、別にナカスに行きたくない……のは確かだが、別に嫌っちゃいないよ」
「そうなんですか?ありがとうございます!」
(くるくると表情が変わる娘だなあ。)
レディ・イースタルは、ぱっと目を輝かせたエルを見ながら思った。
ドワーフらしい小柄な体格、団子鼻にあどけない顔立ちとあいまって、エルは一人前の<冒険者>というより、柄に合わない服を無理やり着ている少女のようにすら見える。
年齢的に、こうした世代の若者とあまり接点のない3人にとっては、エルはまるで宇宙人のようで、
いまいち内心が読みにくい。
話すうちに温くなった川魚のスープを口に運ぶエルに対し、ユウは気にしていたことを尋ねた。
「ところで、ナカスに煙草は売ってるかい?」
「煙草……ですか」
不思議そうに答えたエルだったが、やがて思い出したのかぱっとその顔が明るくなった。
「ナカスにもありますけど、サツマのほうが有名ですよ。
あっちは煙草を作ってるとかで。うちのギルマスのトワイライトさんもよく買いに出かけてます」
「ほう。サツマのどのあたり?」
興味深そうに尋ねたユウに答えようとしたエルだが、ふとその顔が真剣なものに変わった。
「あ……すみません。ですがそろそろ寝ましょう」
「ああ。吸血鬼か」
「ええ」
思い当たったクニヒコに、エルが静かに頷く。
「吸血鬼の活動時間は夜です。ボスをたたく前に、できるだけこの村から吸血鬼を追い出さないと」
その顔は、ありすぎるほどの使命感に厳しく歪んでいた。
こっ恥ずかしい。