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ある毒使いの死  作者: いちぼなんてもういい。
第9章 <エリシオン>
225/245

168. <カイの口伝>

連続更新で申し訳ありません。

1.


 木材のへし折れる何とも言えない異音とともに、次々と生きた魚雷は<不正規艦隊>遠征艦隊の喫水線下に激突していた。

船に突き刺さった場所から船員たちが我先に逃げ出す中、しばらく経って大音響とともに雷魚のHPが掻き消える。

雷撃を受けた船は大きくよろめき、甲板上は絶壁もかくやという大傾斜に見舞われていた。


一方的に乗艦に雷撃を受けるという、いつの時代の軍人であっても青くなるような光景の中で、しかし何人かの<冒険者>たちはいつしか違和感に気づいていた。

水面にいる<雷魚>の数に比べて、爆発音が思ったよりも少ないのだ。

どのような仕組みで<時計仕掛けの雷魚(サンダーフィッシュ)>が敵を見分けているのかはわからなかったが、少なくとも彼らのうちの少なからぬ数が、突撃することなくうろうろと浅海面を遊弋している。


「なるほど。艦隊(こっち)は木造船だからな」


破口の空いた<マサチューセッツ>の舷側から海を見下ろして呟くエヴァンズに、ようやく立ち上がったユグルタが尋ねた。


「どういうことだ?」

「この世界の自動兵器(クロックワークス)共も我々の時代の兵器と同様の概念で可動すると仮定して、ですが」


 前置きしたあとで、エヴァンズはまるで目標を探す追尾魚雷(ホーミング)のような一匹の雷魚を見つめながら言った。


「連中が建造された時代に仮想敵として設定されたのは、おそらくは全金属製の船舶を運用する部隊だったのではないでしょうか。

音響か磁気か、あるいは事前のプログラミングによるものかはわかりませんが、少なくとも木造帆船を相手にするとは想定していなかったのでしょう。

それが連中の奇妙な襲撃の理由かと思われます」

「うーむ、分かる気がするのだが……だが、突撃してきた奴もいたぞ」

「それは、船の何か――<冒険者(われわれ)>かもしれませんし、金属の弩砲かもしれませんが――に反応したか、単にプログラムのエラーだと思われます。

もしかすると、突っ込んだ連中の方が正常で、今うろうろしているのがエラー持ちなのかもしれませんが」


ぞっとしない言葉の後ろで、また一匹の雷魚が突撃を仕掛けたらしく、一隻の船が大きく舵を切るのが見えた。

もちろん、狭い湾内でモーターボートのような機動が帆船にできるはずもなく、船尾に巨大な水柱が立つ。

しかし、それ以外は雷魚側も人間側も手詰まりの状態らしく、思った程に混乱は広がっていなかった。


「どのみち、今我々の足元に居る連中は、可動年数が少なく見積もっても数百年というシロモノです。

まともな兵器として運用がなされているとは思えません。

提督、ここは連中を無視して目標に取り付きましょう。

船から落ちた連中は、できるだけ交戦を避けて岸辺に上がって待機するよう命じてください」

「了解した」


 ユグルタの指示に、各船は再び前進を開始する。

ただし、それまでの秩序だった梯形陣ではない。

船ごとにばらばらに蛇行するそれは、一見して混乱しているように見える。

だが、正規の海軍士官が少ないからこそ、<不正規艦隊>は異様に思える自由航行でも戸惑っていなかった。


そして、そんな彼らに追いすがろうとする雷魚たちを阻んだのは、各船が俯角を取って放つ弩砲の弾幕だった。


「交互射撃、切磋に撃て!」


それぞれの船から号令が飛び、生き残った弩砲が立て続けに弾矢を放つ。

もとより、攻撃ではなく牽制が目的なのだから、全門斉射といった派手な使い方ではない。

隣同士の砲が交互に射撃する弾幕射撃だ。

いくら水中にいるとはいえ、各船の水面が絶え間なく揺さぶられている状況では、雷魚といえど一文字に突撃をかけることはできない。

その合間に、残る船は残骸をかき分け、目標の元へと進んでいった。



 ◇


 それは、一見すると人工物にすら見えなかった。


「島……中洲? ですかね」


見張り員を務める男の戸惑ったような声に、このゾーンを知る船員が苦笑する。

それほどに、その物体は土と緑に覆われ尽くしていた。


 そもそもが、この<サスーンの墓場>というゾーンは、本来は中規模のダンジョンエリアだ。

大規模戦闘(レイド)ゾーンでさえない。

そこは、白人入植以前の景色を色濃く残した静かな緑の湾内に、神代からその地に眠っているという、無数の<時計仕掛け>たちが朽ちた姿を見せている、異様な場所だった。

既に作られた経緯も、作った人々の存在すら現代に伝わってはいないものの、壮観ながらどこか物悲しい沈船の群れは、訪れる人々に独特の寂寥感を覚えさせずにはいられないものであった。

そんな船の墓場(サルガッソ)には、小型艇から大型船まで、大小無数の船が身を横たえているが、その中でも最大規模の物体が、目の前に広がる島だった。


「接舷するぞ。気を抜くな」


てきぱきした動作で、戦士職や武器攻撃職を中心にした上陸部隊が飛び降りる。

魔法職を中心とした後衛部隊は、一部上陸隊に選抜された人員を除いて当初はそれぞれの所属船に残る予定であったが、ユグルタは損傷の大きい船をいくつか、自分たちをぐるりと取り巻くように停泊させ、残った人員はすべて接岸した船に移すことにした。

無論、<時計仕掛けの雷魚>を警戒してのことだ。

また、上空を飛び回るモンスターが襲ってきても、魔法職が密集していれば船の保持は可能という見積もあった。


最悪のケースで、船が全て沈められたとしても、そのときは上陸隊の後を追ってダンジョンを踏破してしまえばいいのだ。

このサスーン湾は、静謐なサンフランシスコ湾をはさんで<聖域>とは反対側の位置にある。

今は広大な廃墟が広がるかつてのサンフランシスコ市街区を抜ければ、陸上から<聖域>に迫るのも不可能ではなかった。

だが、それはあくまで最後の案だ。

彼らの目標とは、この島そのものだからだった。


 


 ◇


 上陸は順調なものだった。

一歩足を踏み入れた瞬間、周囲の<時計仕掛け>たちが一斉に襲って来る可能性もあっただけに、幸運な結果だ。

艦隊の指揮をエヴァンズをはじめとする幕僚群に任せて上陸したユグルタは、おっかなびっくり周囲を見回す仲間たちを尻目に、さっさと緩やかな勾配を歩き始めた。


 そこは、ふわりとした土と、季節柄か瑞々しい草花に覆われた、なだらかな丘だった。

ネジが動くようなジジジという音とともに、普通の鳥らしい鳴き声が周囲に穏やかに響いている。

周りの沈没現場じみた――そのものだが――光景を無視すれば、ピクニックに来たかのような長閑さだ。


だが、ちらりと足元に目を落としたユグルタは、一人の<海賊>を呼ぶと黙って足元を指さした。

そして、片膝をつくと足元の土を掻き分けていく。

数十センチほど掘り分けただろうか。

カツン、とユグルタの手甲が硬いものに当たる音がした。


いつの間にか、殆どの人間が提督の行動に注目していた。

視線が集まる中、ユグルタの手が周囲の土を削ぎ落とし、その下に潜むものを見せた。

それは、わずかに赤い染料が残された、鈍色(にびいろ)の艶やかな断面だった。

土によって大気からほとんど遮断されていたためか、それとも黒錆で先に覆われてしまったためか、見て分かるほどの錆は浮いていない。


「船底ですな」


誰かの言わずもがなの指摘に、ユグルタはゆっくりと頷いた。

そして、誰言うともなく姿勢を正した上陸隊員たちを前に、落ち着いた口調で話しだした。


「諸君。 参謀長たちはまだ楽だっただろうが、我々が手に入れるのはこれなのだ。

この船の墓場が、我が合衆国(ステイツ)国防予備船隊(ナショナルディフェンスリザーブフリート)が持つ泊地のひとつをモデルにデザインされたことを知る者も多いだろう。

現役、予備役の軍人たる諸君であれば知っていると思うが、ここは有事の際、海事局の発議によって順次現役に復帰することを定められた保管(モスポール)船の錨地であった。

アタルヴァ社はそれを元に、ここを沈船とそれを守る<時計仕掛け>が出現するダンジョンとした。

 だが、ここは現在人も立ち入らず、半ば放棄された状態となっている。

我々の作戦はここの艦艇を戦力化し、海上から<聖域>に突入することにある」

「提督。 それなら参謀長が取ったように、ここのゾーンを買い取ってしまえばいいんじゃないですか?」


誰かの発言に、ユグルタは肩をすくめて答えた。


「それができれば楽だったのだがね。 ここは<時計仕掛けの廃都>と異なり、単一のゾーンからなる基地ではない。

諸君も見ての通り、我々がいる場所はフィールドゾーンである<サスーンの墓場>であり、ここを制圧しても意味はないのだ。

我々はこの残骸をかき分けて、目標とする物体があるゾーンにたどり着き、そこを強行制圧、ないし買収する必要がある」

「ですが、まさかこの船じゃないですよね?これ、船底が見えているってことは、完全に転覆してますよ」

「大丈夫だ、ここではない」


ユグルタはそう答えると、ぴしりと丘の向こうを指さした。


「この島は、かつて隣接した形で停泊していた数隻……もしかしたら十数隻の船が、そのまま島と化したものだ。

その多くは輸送船であったり海防艦であるから、陸上への戦力投射には役に立たない。

諸君らもここまで言えばわかるだろう?」

「……まさか」


誰かが怯えたように丘の手前を見た。

そこはこんもりとなだらかな膨らみを見せており、まるで崩れる寸前の洞窟のような、奇妙な地形が載っている。

その『洞窟』の屋根、そこが奇妙に丸いのを見たその船員に、ユグルタは頷いた。


「そうだ。 この地形を構成する最大のピース、現実に我々がいた地球では十年以上前にここから回航され、ロスで博物館になってしまった船だよ。

おそらくこのゾーンをデザインした誰かは、眠っているのが非武装の貨物船や輸送船ばかりではサービスに欠けると思ったのではないかな。

だが、今はアタルヴァ社のそのデザイナーを、我々は恩人として褒め称える他にはない。

……かつての合衆国海軍の象徴、そして第七艦隊水上砲戦部隊の旗艦。

戦艦アイオワこそ、我々の目的だ」


 ファンタジー世界で戦艦を蘇らせる。

おそらくこの世界の多くの<冒険者>にとっては質の低いジョークに過ぎないはずのその言葉がゆっくりと指揮官(ユグルタ)の口から放たれた瞬間、何者かが喜悦したかのように島は、小さく身震いしたのだった。




2.



 トーマスと名乗った男は、その風采の上がらなさそうな外見に反して、<聖域>の中では一種独裁的な権力すら持っているようだった。

カイたちを従えて進む彼に出くわした<冒険者>はそろって棒を飲み込んだような姿勢で礼を寄越したし、入口からカイたちを案内したジェニーすら、異国の<冒険者>たちがトーマスと一緒に歩いているのを見つけるやいなや、何とも言えない表情で視線を逸らしていた。

無論のこと、日本人たちが<盟約の石碑>に触れたことや、ほかならぬ<教主>を消し飛ばしたことなど、誰も問い詰めてこない。

あたかも<教主>という存在がいないかのようなその対応に、前を歩くトーマスに向かってテングは意を決して尋ねたりもした。


「もしかして……<教主>というのは本当は、あんたのことじゃないのか?」


しかし、そんな若い<暗殺者>の問い掛けに、トーマスは振り向くことさえしなかった。

どこか聞き覚えのある鼻歌が途切れたことから、どうやら鼻で笑ったらしい。

そんな態度にテングは内心むかっとするものを感じていたが、周囲を武装した<冒険者>に取り囲まれていれば、そんな不快感は心の底に押しとどめる他はなかった。

だが、重厚なカイの言葉には、さすがのトーマスも鼻哂することは出来なかったらしい。


「俺たちを、どうする気だ」

「……<教主>。 僕たちの指導者を暗殺した君たちに、それを問う自由がもとよりあるとでも?」

「襲ってきたのはあちらだ。 少なくとも、我々から斬りかかったりはしていない」

「誰も見ていないのだから、何とでも言える。 さすがは真珠湾の国だ」


 嘘を言うな、と怒鳴りそうになったテングを、片腕だけでカイが留める。

トーマスの測ったかのようなタイミングからして、彼が一部始終を見ていたことは違いなかったが、この場でそれを糾弾しても立場が悪くなるだけだ。

それに、襲いかかるにしても無理がある。

トーマス自身は丸腰のようだったが、周囲の<冒険者>からの殺気のこもった目をくぐり抜けて、彼に攻撃を当てられるとは思えなかった。

よしんばそれができたとしても、トーマス自身も<暗殺者>だ。

倒しきる前に、部下が指呼の間を縫って加勢に来ることだろう。

それらを覆して勝利をもたらし得るのは、ユウが<教主>に使った口伝しかないが、肝心のユウは今もまだ昏昏と眠っている。

その、どこかあどけなさの残る顔は、<盟約の石碑>のある空間を離れてからずっと、微動だにしないままだった。


 そんな状況に臍を噛むテングを尻目に、カイはちらりと片頬を上げてトーマスに言った。


「そう言って見知らぬ他人を敵に回すとは、随分心の狭いことだ。

うまく交渉すれば、お前らの味方になるかも知れないのにな。

それとも、90レベルオーバーの<冒険者>は、噛み付かれるのが怖くて手懐けることも出来ないか?」


 明確な罵倒に周囲の殺気が濃く揺蕩うが、肝心のトーマスは今度こそ嘲笑を返しただけだった。

ただ一言告げる。


「レベルなんて、今の<教団(ぼくたち)>にとってはどうでも良いことに過ぎない。

それに、90レベルオーバーの飼い犬なら、こちらにもいないわけじゃないからね」



 ◇


 招かれた――より実情に即して言えば放り込まれた――部屋は、思ったよりも広々としていた。

陰惨な牢獄に放り込まれるか、下手をすれば解剖のための手術台に据え置かれるかと思っていた2人にとっては、望外の幸運だ。

暖炉まで設えられた、小屋というよりログハウスのようなその部屋には鉄格子付きだが窓もついており、少なくとも住むだけならば並みの家よりはマシと言えた。


「そこでしばらく待機していろ。 指示は追って出す」


それだけを言ってさっさと消えたトーマスのことを思いながら、2人はベッドにユウを寝かせると、互いに顔を見合わせた。


「ここでのんびりキャンプ生活をしている間にあの機関車みたいな名前の奴が忘れてくれる、なんてことはないだろうなあ」

「最高に希望的で若者らしい前途に満ちた未来観だな。 だが生憎と実現性は低そうだ」


くっく、と笑うカイに、テングも自分でも随分久しぶりに思える笑顔を返す。


「……<エスピノザ>のほかの人たちに連絡を取ってみるかい、カイ」


 テングはふと思い出して言った。

カイとテングは未だにアキバのギルド<エスピノザ>の一員だ。

ギルドサーチからギルドチャットを用いれば、太平洋の向こう側にいるであろう彼らとも連絡を取ることは難しくない。

おあつらえ向きに、時刻は夕方だった。

ヤマトではちょうど日も高くなる頃間だ。

提案に頷いたカイだったが、いくら呼びかけてもあんにゃまたち、彼の仲間が応答する様子はなかった。

まだ眠っているか……あるいは、彼らだけで別の地域を探索しているのだろう。

肩をすくめたカイは、しかしやおらどかりと座り込むと、自らの<ダザネックの魔法の鞄>を開け、中のものをずらりと床に並べ始めた。

アイテムの整理か、と思うテングをよそに、彼は手早く呪薬(ポーション)をひとつ取り上げると、どこか決意したような顔で一人頷く。

そして、残された他の呪薬や邪毒をまとめてテングの側に押しやった。


「……これは?」

「お前が持っていて、適宜使ってくれ。 とりあえず、何があってもできるだけこの部屋を離れるな。

何もないことを祈りたいがね」


まるで他人事のようなカイのセリフに、テングが尋ね返す。


「……そういう、あんたはどうするんだ、カイ」

「こうするのさ」


カイは手にした呪薬を何の前触れもなしに煽った。

その表紙に、呪薬のラベルに書かれた日本語がカイにも読める。

<亡霊転生薬(レイスフォームポーション)>。

そこには、そう書かれていた。



 <亡霊転生(レイスフォーム)>という呪文がある。

死んだ人間を一時的に、肉体を持たない幽霊――亡霊(レイス)へと変えるものだ。

メイン職業の呪文ではなく、一部のサブ職業の特殊呪文であり、効果もそれ相応のモノでしかなかった。

<亡霊転生薬>とは、その効果を擬似的に再現したものだ。

ただし、<ロデリック商会>でも相当の数寄者が作り上げたらしく、そのようなアイテムがあるとは噂に聞いていても、実物を目にしたのはテングもこれが初めてだった。

もちろん、カイが持っていることを知ったのも、たった今だ。


「お、おい、カイ!」

「大丈夫だ……これは改良型だそうでな。HPは無くならん。 ただ、動けなくなるから無防備にはなるが」

「何をする気だ!?」


叫ぶようなテングの言葉に、カイは答えなかった。

気絶するようにその場で突っ伏したからだ。

慌てて助け起こせば、その顔色は文字通り土気色で一切の生気がない。

呼吸も途絶えかけており、あわててテングは彼を仰向けにすると、首筋に盾を当てて気道を確保した。


『ありがたい。ここの<大神殿>で蘇るのは正直ぞっとしないからな』


頭上から聞こえてきた声に、はっとテングは顔を上げ、驚愕に目を見開いた。

そこにカイが浮いていたからだ。

だが、表情をよく表す彼の瞳のあるはずの場所には、今は白濁したような光があるだけだ。

ぼんやりとした彼の姿は眠るカイそのままだが、背後の光景がうっすらと見えている他に、全身からどこか不気味な黄色みがかった光を放っていた。

紛れもなく、モンスターとしても存在する<亡霊(レイス)>そのままだ。


「カイ、あんた……何をする気だ」

『そこの眠り姫を起こしに行くのさ』


カイはそれだけを言うと、両手をかざした。

その手の間に、小さく、だが確かに虹色の円が姿を現す。

それは、<盟約の石碑>の前でも見た、


「口伝……!」


思わず呟いたテングに、カイは亡霊ながら器用にウインクすると、そのまま眠るユウに近づいた。

小さな輪を彼女の頭上に乗せるように置くと、支えもないのに輪がユウの額の上でくるくると踊る。

惚けたようにこの光景を見るテングにもう一度カイは頷くと、そのまま彼の姿は輪の中に吸い込まれるように消えていった。


数時間後。



尋問のために彼らの部屋を押し開けたトーマスの部下たちが見たものは、眠り込む3人の<冒険者>と、ベッドに横たわる女性の額の上で揺らめく、小さな<妖精の輪>だけだった。

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