140. <宣教師たちの嘆き>
1.
瞬く間に数日が過ぎ去った。
<クレセント・シティ>の街角で、変な神の教えを唱えて変わった歌を奏でる3人のことは、町のちょっとした風物詩になっている。
特に、<冒険者>とも、<大地人>とも違うエキゾチックな顔立ちの黒髪の美女のことは、口さがない男たちには格好の噂の的だった。
<冒険者>らしく応対はつっけんどんだが、それでも話しかければ普通に世間話に応じてくれるとあって、ユウを狙った若い男たちが、アンディの説教を聴きにくるようになったのだ。
もちろん、彼らの目当てはアンディではなく、よこで必死にアコーディオンを奏でるリアラと、前で座るユウであったのだが。
「盛況ですね」
蛇のような目の<冒険者>、インヴィクタスが訪ねてきたのは、一日の説教が終わり、3人が演台を片付けていた時の事だった。
ちなみに、ユウはこの時点でルフェブルの家を離れ、アンディの家に間借りしている。
彼女も当初は男の家ということでそれなりに気を使っていたが、アンディが異性に対してきわめて禁欲的であったことから、数日たつと彼女の生来の性格である戦闘以外ではズボラなところが顔を出していた。
「ああ、インヴィクタス牧師」
顔を上げたアンディからいつものように金貨の入った袋を受け取ると、インヴィクタスはちらりとユウに目を留めた。
「おや? あなたは確か……日本人でキリスト教徒ではなかったはずでは」
ぬらり、と目が光る。
生理的に合わないものを感じつつ、ユウはつとめて慇懃に答えた。
「ええ。ですが、こちらもヨーロッパからアメリカへ移って、なんとも不安でして。
アンディの話を聞いて、少し考えてみようかと思ったところで」
「それはいいことです。神の愛は常に異邦人にこそ開かれている」
にこり、と笑ったインヴィクタスの言葉は、いかにも聖職者だ。
ふと、彼の僧衣の後ろがもぞりと動くのをユウは見た。
見上げれば、綺麗になでつけた髪の横に、ちいさな獣の耳が見える。
(狼牙族だったのか)
アンディはヒューマン、リアラは法儀族だ。
どうも<教団>というのはゲーム上の種族に関係なく成り立っているらしい。
ユウの無言をどうとらえたのか、インヴィクタスは親しげに彼女に手を振ると、一言二言アンディと話して去っていく。
その後姿を見ながら、当たり障りのない口調でユウはアンディに尋ねた。
「……インヴィクタス牧師はどこに住んでおられるのですか? いつもふらりとおいでになりますが」
「…それは」
顔を曇らせるアンディを、ユウはこっそりとイヤリングを起動させてから見つめた。
数日の付き合いだが、目の前の青年がほぼ外見どおりの年齢で、かつかなり誠実であることは分かっている。
それなりにかいがいしく働くユウに対し、どこまで言っていいのか悩んでいるのだろう。
だが、アンディはしばらく口ごもった後、首を振った。
「……すみません、私も知りません」
「それは変ですね。同じギルドでしょう?」
畳み掛けたユウに、苦しげにアンディが答えた。
「ですが……私の権限ではギルド外の方に教えられないのです。
そして、あなたをギルドに誘う権限も私にはない」
ちらりと横を向くと、リアラも悲しげに首を振っていた。
彼女にも話す権限は与えられていない、ということだ。
イヤリングのむこうのルフェブルとこちら側のユウ、両方からため息が漏れる。
といっても、ユウのため息の半分は、この善良というしかない男女を悩ませたことへの罪悪感からだった。
ユウも日本史は知っている。
戦国時代、他国を侵略するためにまず白人が送り込んだのは強圧的な支配者ではない。
善良極まりない宣教師と、珍奇なものを持ち込む商人だ。
南米や北米はさておき、それなりの文化と国家のある国に対しては、彼らはまずそうした柔らかな侵略から始め、信奉者が増えたところで侵略に移るのだ。
アンディやリアラはいわば、その最初の宣教師役なのだろう。
だが、それでも面と向かって彼らに接していれば、情も湧く。
そんな内心の葛藤も知らず、アンディとリアラは顔を見交わすと、ため息をついた。
「すみません。だが、我々は決して変な組織ではない。
ただ、あなたも含む多くの<冒険者>や<大地人>を救いたいだけなのです」
「……ふうん、そうか」
◇
重い口をアンディが開いたのは、その日の夕暮も沈みきった頃だった。
三人は、粗末な蝋燭の明かりが照らす、テーブルとも呼べないほどの板に集まって食事をしている。
別に古代の教父を気取っているわけでもなかろうに、食事は粗末なパンとワイン、そしてチーズだった。
当たり前のようにパンに味はない。
かろうじてチーズとワインはまともに味がしたのが救いだ。
チーズを噛み、パンをかじってワインで流し込む。
そんな味気のない食卓の最中、ぽつりとリアラが呟いた。
「……いつまでこんなことをすればいいの」
しくしくと泣きだす彼女の姿は、この世界において老いからも死からも解放された無敵の<冒険者>の姿はどこにもない。
泣く<冒険者>はどの地域にもいる。
<大災害>から1年を過ぎても、数日前の奴隷の少女のように、苦しむ境遇に置かれる<冒険者>は少なくない。
当たり前だ。どれほど無敵の武勇を誇っても、中身は人はおろか、動物を傷つけたこともないであろう一般人なのだから。
むしろ、あっさり適応できた自分や一部のプレイヤーのほうが異常性格者なのではないか、とユウは顔を覆ったリアラを、黙って撫でていた。
彼女の奏でるアコーディオンの音がどこか物悲しいのも致し方ないことだ。
音楽ほど、人の気持ちを雄弁に語る言葉はない。
「もういやだ……こんなところで毎日暮らすのも、死んでも死なないのも、助けが来ないのも、パパやママに会えないのも。
路上でずっとアコーディオン弾いて、誰も聞いてくれなくて、アンディもいつも辛そうで。
あのインヴィクタスにいつもお金を巻き上げられて、食べるものもなくて、こんな風に過ごして。
ヒューストンに帰りたい……」
「……リアラ」
『泣き言を言うな』とは言えなかった。
彼女より悲惨な境遇の<冒険者>や<大地人>を、ユウは何人もその目で見てきたが、そんな彼女ですら口を開かなかった。
もとよりユウの境遇も、人から見れば十分に不幸なのだ。
「……だからこそ、僕たちは<教団>を頼ったんじゃないか、リアラ」
アンディが、苦しそうに口を開いた。
「もう人もモンスターも殺したくない。同じ<冒険者>がいくら悪党でも、殺しあう敵をこれ以上作りたくない。僕も君も、そう思って教団の門を叩いたはずなんだ」
「……でも。来る日も来る日も、聞いてもらえない説教をし続けるだけ。
私は横で一人でアコーディオンを奏でているだけ」
「かつての司祭たちは、そうやって伝道を続けたじゃないか……」
「でも、その人たちは死ねたじゃない!! 私たちは死ねないのよ!!
これからずーっと、仲良くなった<大地人>の子が大人になって結婚して子供を育てて年老いて死んでも、その子供も孫も死んでも、ずっと私たちは生き続けなきゃいけないのよ!!
こんな世界、地獄以外のなんだっていうのよ!!」
リアラの絶叫は、家を浸す青い闇にかすれて消えていく。
普段の物静かな物腰が嘘のように、感情を爆発させた彼女の声だけが、はぁはぁとやけに騒々しく響いた。
「……アンディ。ユウさんに教えましょうよ」
主語を欠いたその言葉に、アンディの顔色がさっと変わった。
「……だめだ! 誓約を破ることになるぞ!」
「でも、救ってくれないなら、<教団>も誓約も、私はもう、どうでもいいわ」
「リアラ!!」
アンディが立ち上がる。リアラも猫のように飛び上がり、二人の<冒険者>がにらみ合った。
ユウは静かに、両者を見比べる。
そして、彼らの中にある屈託を解きほぐすように、彼女はゆっくりと、確かな発音で告げた。
「私は、<盟約の石碑>に行く」
「「!!」」
はっと振り向いた二人に、意味が明瞭にとおるように、彼女はもう一度繰り返す。
「私は、<盟約の石碑>に行く。この世界から脱出する道を探すために」
「ユウさん……じゃあ、あなたは、やはり」
「そうだ。私は本心からお前さんたちの活動に参加したわけじゃない。
これが証拠だ」
かたり、と置かれたのはルフェブルから預かった、念話機能のあるイヤリングだ。
凝視する二人を見て、さらに言う。
「ルフェブルは町の治安を預かる騎士長だ。怪しげな新興宗教が暴動の種になることを、百も承知だ。
だからこそ私に密偵役を命じた。お前さんたちを通じて、<教団>の動きを探れとな」
「あのルフェブルさんが……そんなことを」
<冒険者>と<大地人>が混在する街の片隅にあって孤独な彼らにとって、自分たちを気にかけてくれるルフェブルの存在は大きかったのだろう。
裏切られたような顔で絶句する二人に、ユウは「もちろん」と言い添えた。
「彼に悪意はない。……今のところはね。彼が警戒しているのは、善良であろうお前さんたちの裏で暗躍する――あのインヴィクタスのような――得体のしれない存在のことだ。
お前さんたちを排斥しようと思っているわけじゃない――その顔ということは、過去も何度も排斥されたな?」
彼女の確認に、二人が躊躇いながらも頷く。
「……この町に来るまで、何度も町から追い出されました。ビッグアップルの混沌を離れ、ここまでに、立ち寄った村、そのすべてで。
みんなが私たちを<冒険者>は悪党だ、人殺しだ、悪漢だと言って。
……リアラなど、何度売春宿に連れ込まれたり、奴隷として売られそうになったか。
やっと、ここでこうして生きていけるようになったんです」
「<妖精の輪>を潜らなかったのは何故だ? ヤマトやほかの落ち着いた町まで流れることもできただろうに」
「サーバを超えることだけは、したくなかったんですよ」
苦笑するアンディの顔は、深い陰影に照らされて泣き顔のように見えた。
「私たちはアメリカ人です。 アメリカが、好きなんです。あなたは、後にしたヤマト――日本が恋しくないのですか?」
◇
何度も自問自答した。
ヤマトになぜ残らなかったのかと。
あの地にはクニヒコやレディ・イースタルたちがいる。ほかにも友人と呼べる人間も何人かいる。
セルデシアを半周するこんな旅に出るより、よほど幸福で安穏な一年を過ごせたことだろう。
かつては、贖罪のためだと思っていた。
<冒険者>を気まぐれに殺しまわった自分には、ヤマトで――あの懐かしいアキバで生きていく資格などないと。
あるいは、家族のためだとも思った。
経緯や状況はどうあれ、ユウは殺そうと思って人を殺した。
人が苦しみ、もがき、助けてくれと哀願するのを、笑って踏みにじった。
相手が糸のもつれたマリオネットのように断末魔の痙攣をするところを、指をさして嘲笑した。
殴られれば殴り返し、襲われれば襲い返し、自分の心の赴くままに、殺戮を楽しんだ。
そこに、殺した相手にも事情があるんだなどと、一欠けらも考えなかった。
そんな自分が紛れもなく快楽殺人者であると思い、そんな自分が家族のもとに帰れないと思い込み、
それでもかすかな希望に縋って旅に出たのだと。
だが、そうした嵐のような感情も、やがて色あせる。
(まるで残り火……)
<大災害>直後の焦りも怒りも、仲間たちとの温かい日々も、この世界の奇観への感動も、望郷の念すらも。
まるで薄皮を一枚一枚めくるように、すべてが今のユウから剥がれ落ちてしまっていた。
きっかけは、いくつもある。
この世界で生きていくことを決めた者。
この世界に責任を負うべき仕事を見つけた者。
そして……故郷を望むあまり、人としてしてはいけない領域に手を出した者。
ユウが見てきた彼ら、彼女らは、言葉ではなくその背中でユウに問いかけていた。
我々と肩を並べるに足る、強い思いがお前にあるのかと。
復讐が、嚇怒が、望郷が、贖罪が、好奇心が。
彼らに比肩するユウの思いだと思っていた。
だが、それらは違う。
残らず、違う。
だからこそ、アンディの問いかけに、ユウは黙って首を振った。
その仕草をどう解釈したのか、アンディは立ったままだった自らの体を力なく落とす。
そして、呻くように言った。
「……僕は、アメリカ人です。アメリカ人であることが、今の僕を支えるたった一つのよりどころなんです。
顔も体も生活も人間関係も声も、何もかも失って、それでも残ったものがそれなんです。
……ここが<ウェンの大地>でアメリカでないことも、合衆国じゃないことも、わかっています。
だけど、僕たちは、あなたのように遠い国に飛び込む勇気がない」
「……」
「リアラが苦しんでいるのはわかっています。この<教団>が何をしているのかも、本当に僕たちは知らない。
……目的も、奴隷たちを連れて行ってどうしているのかも。
ただ……僕たちは……それでも……」
「港に、行ってください」
最後は消え入りそうな声で、それだけを言ったアンディの横から、声がした。
リアラだ。
ユウが初めて見る決然とした瞳で、彼女は言った。
「港に行って、<JPJ>という船を探してください。
……これを持っていけば、<教団>の協力者だと思ってもらえます。
あなたのレベルも93なので、彼らも粗略には扱わないでしょう。
…そして、これを」
テーブルに置かれたイヤリングを、彼女の小さな手がそっと差し出す。
受け取ったユウが問い返すように見つめる、その黒い瞳を、リアラはしっかりと見据えた。
「私とアンディは、これからもこの町で生きていきます。 精一杯……たとえ報われなくても。
だからユウさん、私たちとフレンドになってください」
「……フレンドに?」
「ええ」
リアラが微笑する。
「ユウさんが目的どおり帰り道を見つけたら、どうか私たちにも教えてください……約束です」
「……わかった。約束しよう」
そうして交わされた握手に、おずおずとアンディが手を伸ばした。
2.
その夜。 アンディとリアラを起こさないように、ユウは寝床をするりと抜け、夜の街路を走っていた。
<大地人>の街なだけに、深夜ともなれば人影は完全に絶えている。
月光だけが街路樹を照らす中、影にまぎれるようにユウは疾走していた。
向かう先は、港だ。
インヴィクタスは<JPJ>にいるのではないかと、ユウは当たりをつけていた。
あの老保安官、ルフェブルの推測が当たっているとすれば、港には証拠となるべき船があるはずだ。
その言葉は、リアラの言葉によってある程度の裏付けが取れている。
果たして、船はあった。
木製の舷側に、巨大な帆を支える帆桁。
かつて、あのエルと対峙した廃船ほども巨大なその船の横には、ただの<大地人>の船にはついていない、外輪がふたつ、両側につけられている。
帆汽併用船――現実の歴史では18世紀から19世紀の一時期しか見当たらなかった船だ。
そして、何よりその舳先付近には、<大地人>の文字ではなく、英語で<John Paul Jones>と記された黄金製の銘板が取り付けられていた。
その名前を知るものは、同時に名前の裏に込められた、密かな意味にも気づくだろう。
平和のために建造された船が、米国の伝説的な海将の名を授けられる訳がないのだ。
(どうする)
ユウはあたりをちらりと見回し、内心で考えを整理した。
港らしく、近くの酒場にはまだ灯が点っている。
船にどれほど船員が残っているのかは分からないが、少なくとも見張員はいるはずだ。
ましてや、<冒険者>の船であれば。
(危険なのは<辺境巡視>、そして<狩人>あたりか)
いくらユウが上手く闇にまぎれたとしても、絶対に勝てない相手こそ、その二つのサブ職業だ。
特に<辺境巡視>の能力はほとんど魔法に近い。
『同一ゾーンにいる<冒険者>の数や名前を把握する』
これだけの能力が、こと侵入者を警戒する場面では、絶対的なアドバンテージを発揮する。
ましてや、元々一般的なサブ職業である上に、<大災害>以降は需要が激増しているだろうことは容易に推測できるだけに、中に<辺境巡視>がいたとしても、全く驚くには当たらない。
(強襲するか)
一瞬、好戦的な笑みを浮かべたユウは、あわてて首を振り、首から下げたペンダントを握った。
リアラとアンディの証言を信じるならば、出航は夜明けだ。
インヴィクタスがアンディのもとに来る頻度からして、おそらく彼は毎回乗船しているわけではなく、定期的にいくつかの街を回り、アンディたちのような宣教師のもとを回っているのだろう。
今回の出航に彼が同船するのかは分からないが、朝まで待っていれば乗り遅れる。
そう言って、かけっぱなしの桟橋に足をかけた瞬間、頭上から鋭い声が落ちた。
「誰だ! この船に立ち入るな!」
「アンディ牧師のもとでお手伝いをしている、ユウです。アンディ師に乗船するように言われました」
「何!? ……ちょっと待て。そこを動くな」
風が巻き起こった。
目も眩むほどの高さから、人が飛び降りたのだ。
墜落死してもおかしくない行動だが、男の顔には汗どころか、恐怖の影すらない。
あまつさえ、男は堅牢な皮鎧をまとい、腰に剣すら提げている。
<冒険者>に間違いなかった。
だが、そんな人外の行動をした男は、視界にはっきりと捉えたユウを見て眼をぱちぱちとさせた。
「え……? 娘……?」
今の彼女は、もちろん普段の黒装束ではない。
開拓時代アメリカの女性がよく着ていたような、ふわりとしたスカートにブラウスだ。
もちろん、刀などは<暗殺者の石>に仕舞っている。
深夜の港にはおよそ場違いと言える服装の美女を前にして、先ほどの武勇もどこへやら、妙にそわそわとしながら、ちらりとユウの胸を見た。
そこにある、十字をかたどったペンダント――現代風のロザリオのような意匠だ――を見て、ようやく彼はほっとする。
「なんだ、お仲間か。……え? 94レベル!?」
「ヤマトサーバから流れてきた、ユウです。……この船に乗りたいんですが」
ステータスを見て驚いた男に、あくまでユウは下手に出る。
「い、一応船長に確認しておかないといけないけど……あの、何か証明するものはある?
アンディ師の手紙とか」
「これを」
差し出した紙は、封もしていない粗末なものだ。
ぱらりと開き、中身を一読してから、男はようやく任務を思い出したように言った。
一瞬緩んだ目も、今は歴戦の<冒険者>らしく、警戒に鋭く研ぎ澄まされている。
「……船長を呼んだ。 悪いが、しばらくここで待っていてもらおうか」
男の固い声に、ユウはつとめて敬虔なキリスト教徒らしく、両手を胸の前に組んで軽く頭を下げたのだった。
◇
「……間違いなく、連中は<クレセントシティ>に停泊しているのだろうな」
「ああ。あの町の<冒険者>が調べてくれている」
「…あいつら。俺達の船の名前まで、盗りやがって。許さねえ」
「化け物どもが」
「神の名前を騙る、ゴミクズどもめ」
洋上。
小さな声が闇に消えていく。
そして。
「……沈めろ。板切れ一枚、世界に遺すな」
旗が揚がった。




