104. <亡霊都市>
1.
かつて、人ならざる種族による、広大な王国があった。
古の帝都、セブンヒルを首都とし、各地に軍団と民を住まわせたその王国は、
それぞれの地方に、地方色を滲ませつつ彼らの種族の特徴を伝える都市を作った。
アルヴによる王国である。
だが、王国は滅びた。
<六傾姫>という、怨念が具現化したような数輪の徒花を遺して。
そして、<六傾姫>すらも歴史の闇の彼方に消え果てた時代。
かつて壮麗を極め、周囲を睥睨した彼らの都市は、無数の土砂が作り出した洞窟の中に、
往古の姿を化石のように留めている。
今は自由都市ラインベルクと呼ばれる街の下にも、それは在った。
「寒いな……」
ニーダーベッケルの声に、ユウは静かに頷いた。
いかなる魔法の働きによるものか、地下都市は薄暮のような薄暗い光に包まれ、
朽ち果てた廃墟の不気味さをなお一層醸し出している。
「よく見ればグライバルトの旧市街に似ているな。だが、受ける印象はぜんぜん違うね」
ユウが言うように、ラインベルクの地下に広がる古代都市は、京都や中国の都城のように碁盤の目に区切られ、街路は広く、整然としている。
だが、それらが美しい景観を作り出していたグライバルト旧市街と違い、ラインベルクのそれはただ違和感を覚えさせるだけだ。
まるで、生きながら死者の国を訪れたテセウスのように。
黄泉の国へと下りた伊弉諾大神のように。
そこは、生あるものを否定する、無機質さに満ちていた。
「不死者が出る、といったな」
「ああ」
ユウの言葉に市長が返す、その返事が引き金となったわけでもないだろうが、
不意に3人の耳に奇妙な息遣いの音が響いた。
やがて、かつては商店だったと思しき廃屋の中から、ゆらりと人影が現れる。
レベル60、ノーマルランク。
その顔は、漆を塗ったように黒く染められ、細い手が生者を求めて揺らめいた。
「湿地の不死者……」
元はアルヴなのだろうか、死の際の苦悶を表情に色濃く残したまま、
もはや動くことのない眼球が顔ごとぎょろり、とユウたちを見る。
あわせて前後左右から、同様におぞましい声だ。
「待ち伏せか!」
剣を抜くニーダーベッケルを尻目に、ユウは真っ先に姿を見せた<湿地の不死者>へと飛んだ。
ぶちり、と繊維をちぎるような音と共に、不死者の首ががくんと傾ぐ。
返す刀で胴体を切り裂くと、HPを失った不死者はよろめき、倒れて光と化した。
無論、ユウはそれを待ってはいない。
その横で怨念のこもった声を上げる、女性らしい不死者を、<毒薙>が文字通りなぎ払っている。
「敵の数はどれだけいるかわからない。特技は温存してくれ」
そういいながらもユウの動きに乱れは微塵もない。
前後左右から不死者に襲われるという、普通の人間なら恐怖で気絶しているような状況でも、
彼女は冷静に相手の間合いを計り、的確に屠っていく。
「ゾンビ相手はやり慣れているよ!」
時折現れる、HPの高い個体を優先的に排除しつつ、ユウは一人叫んだ。
後ろでは、市長を壁際で守りつつ、ニーダーベッケルが剣を振るっている。
彼も、速度を身上とする<暗殺者>だ。
動きの鈍い<湿地の不死者>に一撃を受けることはなかった。
やがて、あちこちで光が瞬き、つかの間の戦闘は終わった。
さすがに顔を青くしている市長に、ユウがじろりと視線を向ける。
だが、市長は震えながらも、にやりと笑って見せた。
戦えない彼の、精一杯の矜持だ。
3人が3人とも、戦意を失っていないことを互いに確認すると、ユウたちは再び街路を歩き始めた。
地下都市が、かつて地上の都市だったころ、ここは大通りだったのだろう。
左右に立ち並ぶ廃墟は、読めない文字で看板らしきものを掲げたままの家すらあり、
売る人も買う人もいなくなった物悲しさを強調していた。
「かつて、アルヴ時代、ラインベルクは周辺諸都市の首府ともいえる町だったと聞いている」
ぽつりと、市長がそう言ったのは、彼方に荘厳なデザインの建物が見えてきたころだった。
多くの尖塔や付属の屋敷に取り囲まれたそこは、天井から落ちてきたと思しき土砂に半ば押しつぶされ、
かつての威容のほとんどを失っているが、それでもなお、美しい。
「この街は反乱者たちの中にいた<妖術師>によって、天より無数の土砂を降り注がれて滅びたそうだ」
「それが今の地下都市、というわけか?」
ニーダーベッケルの返事に、市長は黙って頷きを返す。
「ほとんどのアルヴは死に、生き延びたわずかな者は奴隷となった。
女の一部は反乱軍の兵士に分け与えられた……わしの、そしてラインベルク伯の祖先だ」
アルヴに反抗した反乱軍、それに捕まったアルヴの女。
その関係に、暖かい心の通いあいなど在ろうはずもない。
「アルヴの血を引く……この都市で、あるいは周辺都市でそれは、特権階級を意味すると同時に、
家名に拭いがたい怨みを背負った証なのだ。
あの<湿地の不死者>ども……かつてのアルヴの民衆たちがわしを襲うのも無理はない。
侵略者にして虐殺者の末裔なのだからの」
「<冒険者>を呼んで掃討しなかったの?」
「したよ、無論。じゃが、どれほど狩っても不死者は現れた。
怨みじゃ。何百年を経ても消えない怨みが、この地下都市に彼らを縛り付けておる」
「……それって単にここがダンジョンエリアだからじゃないのかな」
「<冒険者>はそう言うのう。 この地下都市から亡者が湧き出てくるのは、単にそう定められたからであって、怨みでも、ましてや復讐心でもないと。
あの<七花騎士団>の者どももそう言っておった。
じゃが、この町に住み、家名を背負って生きておれば分かるものもある。
やはり、彼らは消しがたい怨みを抱いてこの場を彷徨っているとな」
ユウも口に出しては何も言わなかった。
どのみち、ここは<エルダー・テイル>の世界でありながらも、根本的にどこかが違っている。
ゲームを楽しむために作られた無数のゾーン、設定……それらが本当となっている、と考えるのはナンセンスに思えるが、
そもそもこの世界自体が、誰かがゲームとして電脳上にデザインした、『あるはずのない』世界なのだ。
何を笑えるだろうか。
ユウの苦笑に、ニーダーベッケルが訝しげな目を向けたとき、不意に市長が路地の一つを指差した。
「こちらだ。短縮経路がある」
◇
「道か、これ?」
生前も使っていただろう寝台に横たわる<湿地の不死者>に止めを刺しながらニーダーベッケルがぼやく。
彼の愚痴も無理は無い。
市長が『最短経路』と示した通路は、厳密に言うまでもなく道ではなかった。
それは、店の中、住宅の庭、集合住宅の一室、それらを無理やりつなげただけの、『人が通れる』という以外には道と何の共通点も無い空間の連なりだ。
確かに、正方形にきちんと街区を区切る道には、当初の静寂が嘘のように不死者たちが集まっている。
強行突破は不可能ではないだろうが、市長は勿論のこと、他の二人も回復が間に合わない可能性があった。
だからこそのショートカットだ。
市長からすれば、持っていた知識を吐き出しただけの事だろうが、二人の<冒険者>にとっては、複雑な思いの道行きではあった。
通行が難しい、というわけではない。
心に来るのである。
死者の都市、という土地がある。
二つの意味を持つ言葉だ。
一つは、最初から特定の死者の為に、人為的に作られた死者の街だ。
秦の始皇帝陵や古代エジプトのギザ西岸を代表に、洋の東西を問わずこうした施設は多い。
葬られる王侯貴族、有力市民、時には庶民の為に、生前の彼らが使っていた品物、
あの世の生活に必要なもの、時には家臣や奴隷すら、共に葬った。
もう一つの定義が、生きていた街が滅びて死者の住まいとなったというものだ。
ユウにとっては、忘れもしないテイルロードの街――あるレイドボスによって住民全員をゾンビに帰られた町が、その代表格と言えるだろう。
そして今、この古ラインベルクと呼ぶべき街は、まさしく後者だった。
家の軒先に吊るされた枯れた薬草の束。
おそらく触れれば塵に還るだろう、古いアルヴ語の書物の本棚。
台所には朽ちた食器が静かに佇み、子供の落書きが壁のあちこちに残される。
そこには、これ異常ないほど鮮明な、人の生活の痕跡があった。
陽光から閉ざされ、人間、エルフ、ドワーフの恐るべき怨嗟を受けて滅びた人々の、
そのささやかな営みがあった。
両親にささげたお守りだろうか、拙い折り方で折られた、何らかの神印らしい布が、
ぽつんと主のいない家のダイニングテーブルに置かれている。
不意をついて襲う<湿地の不死者>を警戒し、土足で家々を踏み荒らしながらそうした痕跡の合間を縫って通るのは、さすがのユウもいささか堪えた。
過去の思い出のためか、剣呑な顔をますます苦くする彼女に、「大丈夫か」とばかりにニーダーベッケルが目を向ける。
そんな気遣いにユウが気付く前に、二人に挟まれるように歩いていた市長が、
机のお守りを見て、ぽつんと呟いた。
「民、だったのだな」
市長の独白に答える声は無い。
思考の中に沈殿する彼が返事などを求めていないことを、<冒険者>たちは察していた。
「時代は違い、種族も考え方も違うが、やはり彼らは民であった。
アルヴの暴虐に立ち上がった先祖を否定はせぬ。ただ、彼らの怨みも理解できるように思う」
「……そうか」
ニーダーベッケルと目を見交わし、ユウが代表して答える。
応諾を返して市長はふと、傍らの壁に掛けられた、外套らしい布の塊を手に取った。
それは、市長の指が触れるや否や、最初から何も無かったかのように、微細な粒子となって床に積もっていく。
「時折、わしは思うのだ。アルヴとはそれほどまでに悪であったのか?
アルヴを滅ぼし、独立したわれら人間は正しかったのか?
同じ人である以上、良い者もいれば悪しき者もいる。同じ人でも、時と場合によって
善にも悪にも、優秀にも愚劣にもなるのが人と言うものだ。
ある種族を悪と断じ、その全てを滅ぼすことが、人の正しいありようとは思えぬのだ」
「話が出来れば、妥協も出来る、ということか?」
ニーダーベッケルが尋ねる。
歴史上、無数の国々と相克してきたドイツ人である彼には、ある意味で深く考えさせる言葉だ。
だが、市長の次の言葉は、直接的な答えではなかった。
「アルヴというのはの、学者の一説に寄れば、神代の民の生き残りが、生きるために己を変容させた、
その末裔という話がある」
「アルヴが、神代の?」
「そうじゃ。われらヒューマン、エルフ、ドワーフはその後に生まれ、やがて神代の叡智も記憶も失い、おごり高ぶったアルヴをわれらの先祖が滅ぼした、という。
……<冒険者>は神代の時代の魂だそうであるな」
「……!!」
さく、さくという足音が不意に途切れた。
ユウとニーダーベッケルが足を止めたのだ。
耳が痛くなるほどの沈黙の中、滅びた都市の、モノトーンに沈むある家の庭で、
2人は黙ったまま、市長の言葉を反芻していた。
「アルヴが……神代の人々の子孫だったと?」
「あくまで一説だがの。神代の世界が崩壊した時、僅かな生き残りは生きるために己の身を変えたとか。
その末裔がアルヴじゃとか……まあ、わからぬよ、すべては歴史も何もない時代のことだからの」
風があるわけでもないのに、放置された古代のタペストリーがはらり、と揺れた。
「……そういう説も、あるのか」
やがて、首を振って歩き出したニーダーベッケルの背中を追って歩き出しながら、ユウはぽつりと呟いた。
神代、そしてアルヴ時代。どこか不連続な、いびつな歴史。
<緑頭鬼>や<醜豚鬼>といった亜人はアルヴの呪いによって生まれた、という話がある。
この町の死者と同じように、散っていった無数の魂を収斂し、変成して、悪意ある怪物として生み出すという呪いが、過去のある時期、セルデシアに対して用いられた、とも言う。
それは、酒場の与太話めいた、何の根拠もない仮説だと、ユウは思っていた。
生きるのに必死だった彼女にとっては、この世界からの脱出が最優先課題であり、
この世界の成り立ちなどはどうでもよかったのだ。
だが、死の影を色濃く漂わせる地下都市という異常な空間。
アルヴの血を引く<大地人>の独白。
そして、いまだ憶測に過ぎないが、普通の<冒険者>なら考えることすら躊躇う行為に手を染めつつある、と思われる<冒険者>。
そうしたあれこれが、今までの思い出と合わさって、ユウの中で組み上げられていく。
ゲームの世界だと思っていた。
死んでも生き返る世界、普通の生物の枠を超えた生存能力を発揮できる世界。
経済的、政治的にありえない配置の国々、高位モンスターと<大地人>との圧倒的な格差。
各地に残る、説明のつかない遺跡。
それらはすべて、ゲーム上で『そう創られた』からであって、いかなる理由もないと思っていた。
世界五分前仮説のように、<大災害>の起きたある日突然生み出された、
架空の世界だと、思っていた。
だが、歪な世界配置は、最初からそうだったのではないとしたら?
この幻想の世界が、最初はファンタジーでなかったとしたら。
それを仕掛けた何者か、神代の人々か、アルヴの祖先たちか。
彼らが何らかの形で、実在する世界に干渉してできたのが今の世界であるとすれば。
それは、セルデシアがその名前でないころにも世界があり、歴史が存在したということだ。
それを、徐々に歪め、世界のルールを書き換えて、今の世界にした何者かがいる。
その残滓が、<神峰デヴギリ>の山頂の神殿であり、各地に残る遺跡であり、ここ、古ラインベルクの地に眠る魔法装置だったのではないか。
そして、その「何者か」とは。
かつて別の名前で呼ばれ、後にアルヴと呼ばれた人々。
世界にぬぐいがたい傷を負わせ、呪いともいえる怨嗟を遺し、消えていった人々。
彼らは……ユウたちのよく知る人類の、その末裔なのかもしれなかった。
刀が震える。
次の敵が近づいているのだ。
今までは、おぞましい姿の<レベルという数値を与えられた敵>でしかない彼らを、
その時、初めてユウは恐ろしい、と思った。
2.
いつしか、庶民の暮らしが遺された素っ気無い家々は、壮麗な円柱と回廊で飾られた邸宅の群れに姿を変えていた。
そのデザインは、ローマ風とも言えるし、ルネサンス風と言うこともできよう。
どこか、ヤマトで見た<エターナルアイスの古宮廷>に似ている。
「アルヴ貴族の邸宅じゃ。貴族や有力市民、上級騎士などが住んでおったと言われておる」
観光案内ではないだろうが、市長の言葉がどこか空々しく、沈殿した空気の中に響いた。
豪華であればあるほど、その光景は虚ろさを際立たせている。
死後の世界があるとするならば、あるいはこのような世界なのかもしれない。
<冒険者>として死を迎えたときに見た、あの美しいまでの浜辺とは対照的なようで、どこかが決定的に似ていた。
それは、周囲を漂う空気の重さ、なのかもしれない。
重厚な石畳の歩道を進む彼らに、不思議なことに襲ってくる<不死者>はいなかった。
死の苦しみに悶えるように、ただ虚無的な顔で通りを徘徊するだけだ。
「……襲ってこない敵なのか……?」
あたりの死者たちを憚ってか、そう小声で聞くニーダーベッケルだが、
問われたユウも答えを持っているわけではない。
ただ、無駄な戦闘をせずに済む幸運に感謝しつつ進むだけだ。
◇
馬車の轍が微かに残る歩道は、やがて尽きた。
目の前には地下にあるとは思えないほどの巨大な門がかかっている。
かつて、アルヴたちの威容を目にする者に思い知らせ、
最後の戦いでは恐らく、恐怖に怯えるアルヴたちの最後の心の拠り所になったであろう、その重厚な門は
幾百年の時を経てなお、通る者に無言の威圧を与えていた。
「『この門を潜る者、一切の希望を捨てよ』……」
「……昔時人 已沒、今日 水猶寒」
それぞれの言葉で門を表現した二人の<暗殺者>に、市長は振り向いて問いかけた。
「ここから戻ってもよいのだぞ」
「正直言って、そろそろぞっとしてきたぜ」
ニーダーベッケルが肩を竦めれば、 漢詩を吟じたユウもまた首を横に振った。
「同感だが……今更逃げるわけにもいかないよ。
なに、ユーセリアの奴が何も企んでいなければ、のんびり観光して帰るだけさ」
苦笑とともに吐き出した軽口が、場を和ませる何の役にも立っていないことに気づき、
ユウは笑いを収めて門の奥を仰ぎ見た。
「とりあえず、行こう……市長、この中の敵は」
「騎士や衛兵の<不死者>が出ると聞いておる。わしも詳しくは知らぬ。
歴代の市長、そして伯爵にこの城のあらましは伝わっておったが、
地下都市を踏破して城に入ったものは誰もおらぬ……だが」
ぎゅっと、胸元の印章を握った市長の声は不安と、それを覆す決意に満ちていた。
「この印章は往古、この城の城主の息子に相伝されたものと聞いておる」
市長の声にこたえるように、水色の光が老いた手の中で小さく揺らめいた。
◇
ポン。
「侵入者……です」
「グンヒルデか? それともランズベルクの<大地人>どもが気付いたか。
エゼルベルトに盛った毒が弱すぎたかな」
部下の<辺境巡視>の男に小さく答えたユーセリアは、どうでもよさそうに小声で答えた。
彼の目は、目の前にそびえる巨大な構造物から、一瞬たりとも離れていない。
まるで異星のパイプオルガンのような、その螺旋状の配管と配線、そして何かを抱え込むような不気味な塔槽の混合物から、報告した部下は思わず目を逸らせた。
その異形の建造物に身を乗り出すようにアクセスする上司の姿を目の端に捉えて男は考える。
いつから、この男はこうなってしまったのだろうかと。
大規模戦闘でもダンジョンアタックでも、常に頼れる味方だった<妖術師>。
寡黙でありながら親しみやすい、自分たちのリーダー。
少なくともゲームがゲームでなくなったあの日から随分遠くなった今でさえ、
ユーセリアは、智謀は回っても正義に悖る行為は決してしない男だったはずだ。
だが、彼は変わった。
騎士団の長たるローレンツを蹴落とし、<大地人>たちの権力争いを利用して、
ユーセリアは今、自然光の差さぬこの不気味な廃墟の奥で、
男には一片の理解すらできない魔法装置の解読に全神経を集中させている。
<辺境巡視>はそれ以上何も言うことなく、黙ってきびすを返した。
侵入者が入ったと思われる場所を、仲間と点検に行くためだ。
もちろん、扉の外には、いかなる理由かわからないが自分たちを襲いこそしないものの
死を濃厚に纏う<湿地の不死者>たちがいることは承知している。
だが、今のユーセリアを眺めているくらいなら、死者に囲まれていたほうがまだしも安らげるように
その男には思えたのだった。




