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ある毒使いの死  作者: いちぼなんてもういい。
第7章 <西の大地にて>
143/245

番外12 <人形の家>(後編)

やっと終わりました。

1.


 彼は、他の誰とも同じく、当初は混乱と困惑の最中にあった。


PCの中に存在していたはずの世界への漂流。

そんな現実味のない出来事は、時間が一時間、一日、一ヶ月と過ぎるうちに、

紛れもない『現実』として彼の心を蝕んでいった。


自分のそれまでとも、これからとも切り離され、ただ無為に過ぎ去っていく日々。

元の世界に帰るあてもなく、元の世界がどうなっているか知るすべさえなく、

生きるために生き、生き延びるために戦う、そんなことが当たり前になった日常。


暴力的で野蛮な世界に自らを慣らした者もいる。

元の世界のすべてを忘れたように、新たな世界で生きる者もいた。

中には『元の世界にいいことなんてひとつもなかった。俺はここでは英雄になれるんだ』と嘯き

別人のように快活に過ごす者さえ現れた。


彼はそのどれでもなかった。

すべてをなかったことにできるほど達観もできず、隠遁に入れるほどに孤独にもなれず、

新たな世界に向き合えるほど冒険心もなく、そして自分の中の悪心に抗い続けられるほど善人でもなかったのだ。


だから彼は探した。

元の世界に戻れる道を。

仲間とも別れ、狂おしいほどに。


その中で聞いたのは、二つの噂だ。


『<エルダー・テイル>最大、最難関のレイドダンジョンの果てに、地球への道が示されるクエストがある』

『世界で唯一、<ノウアスフィアの開墾>がアップデートされたサーバがある』


酒場で、街角で、ダンジョンの片隅で囁かれるその言葉には、無論のこと何の信憑性もなく――

――だからこそ、抗いがたい魅力に満ちていた。


だから彼は探した。

単純な武器としての能力に加え、『目の前の<妖精の輪>の到着地点が事前に分かる』<幻想(ファンタズマル)>級装備、<鷲獅子王の手甲>を。

それを持って、最難関の大規模戦闘地域(サンガニカ・クァラ)か、もしくは新パッチの適用先に向かうために。


途中で、気が狂った女<冒険者>を助けたのは、ほんの偶然だ。

暴力と陵辱の果てに、いるはずのない家族の姿を怪物に投影していた、女<召喚術師>。

独仏国境のある町の奴隷市で競りにかけられていた彼女に、持ち金をはたいたのは、

その女をどこかのパーティで見たことがある、それくらいの気持ちからだった。

もちろん、邪な思いはある。

孤独な旅の連れ――彼はそのために同じプレイヤーを金で買うことを躊躇わない程度には下種で、

買った後もすぐにはー彼女が夫と勘違いして迫ってくるまではー手を出さず、むしろその哀れな妄想に付き合ってやる程度には、善良だった。


そして彼は考える。

雛を山賊に奪われたことから始まる、北欧サーバの定期レイド、『鷲獅子の黄金王』のボス、

<鷲頭獅子の黄金王>は、人と会話すら行う、知性あるという設定のレイドボスだ。

ならば、あえて擬似的にレイドクエストを発生させ、

雛を交渉材料にすれば、戦わなくても<手甲>を手に入れられるのではないか。

どうせ失敗したら失敗したで、どこかの<大神殿>で蘇るだけだ。


そして彼はそこにいる。

見上げるほどに巨大な、そして平伏してしまいそうに荘厳な、鷲頭獅子たちの王の御前に。


何も語らない、怒りと威圧感に溢れた目が、彼を見下ろしていた。



2.


 ゲフィオンはずきずきと痛む全身を、壁に身をもたせかけたまま、ゆっくりと立ち上がらせていた。

目の前では、ジョセフと<鷲頭獅子の黄金王>が静かに互いの視線をぶつけ続けている。


声は、ない。

聞こえる音といえば、潮騒の音と、かすかに地面が鳴るような低い音、

そしてしくしくと泣くヘレナの小さな嗚咽だけだ。

力なく地面を引っかく虫を足元に、顔を覆うヘレナをゲフィオンは少しだけ哀れに思った。

『夫』は文字通り黄金王に踏み潰され、『娘』は瀕死の体を横たえ、

理解者だった『隣人の旦那』は、自らの家族を贄に鷲頭獅子に和を請うている。

彼女は、<五月の異変>に引き続き、再び家族を失ったのだ。

今度は、信頼していた友人(ジョセフ)の手によって。


哀れだとも思う。

ヘレナが過ごしてきた境遇が、常に静かな『家族』との生活だったとはゲフィオンには思えない。

ゲフィオンが想像すら厭うほどの苦悩の果てに、彼女はおそらく壊れたのだ。

<冒険者>の肉体は強靭だが、精神は決してそうではないのだった。


「<黄金王>!」


ゲフィオンが顔を歪ませたとき、再びジョセフの声が響いた。

その口調は先ほどよりわずかにだが早い。


「<黄金王>! 言葉を聞いてほしい! 俺はあなたや雛に危害を加えようとは思っていない!

あなたの持つ、<鷲獅子王の手甲>が欲しいだけなんだ!」


沈黙を続ける<鷲頭獅子の黄金王>を見上げ、必死の形相で訴えかける。


「俺はあんた同様、家族ともう一度一緒に暮らしたいだけなんだ!

あんたがこいつらの父親か、母親かは知らないが、子供に会いたい気持ちは一緒だろう!

だから手甲を貸してくれ! あの手甲の力があれば、この世界の隅々を巡って、元の世界に戻る方法を探せるんだ!」


グルル、と低い声が響いた。

鷲頭獅子の黄金王が、嘴を奇妙に歪ませて唸っている。

それを了解の合図に捕らえたのか、ジョセフはぱっと顔を輝かせた。


「あんたは知性あるレイドボスだ! 頼む! あんたを散々狙ってきた<冒険者>の一員である俺だが

今はあんたにも、誰にも危害を加えるつもりはない!」


それは限りなく誠実な訴えだった。

人質を盾にして、という一言を除けば、だったが。

<鷲頭獅子の黄金王>の視線がゆっくりとジョセフの頭から胸へ、そこに抱えられてもがく二匹の雛に向かう。


じっと親に見つめられた雛が、暴れていた足を止め、びくりと小さく震えるのを、

ゲフィオンは確かに見た。



 ◇


 <鷲頭獅子の黄金王>の前足が、ゆっくりと持ち上げられた。

太い筋肉を束ね合わせたかのような獅子の足の甲に、ふわりと、浮かび上がるように見えたものがある。

それは、周囲の黄金色の毛並みを圧する程の、黄金色の手甲だった。

鷲頭獅子の翼が意匠として精緻に彫り込まれ、その輝きはあくまでも華やかだ。

どこか落ち着いた、柔らかい色合いを持つ一般の黄金とは異なり、清冽なまでの鮮やかさを見る者の網膜に焼き付ける、それはまさに幻想の世界の武具だった。


「<鷲獅子王の手甲>……」


陶然としたように、ジョセフが囁く。

夢見るようなその瞳には、もはや周囲の景色も、黄金王自身さえ映っていなかっただろう。

王者が宝物を下賜するように、差し伸べられたそれに魅入られたかのように

ジョセフはふらふらと数歩、歩み出た。


ばさ、と音がする。

彼の腕に抱えられていた雛たちが拘束を脱した音だ。

その雛たちが後ろに駆けていくのももはや見ず、ジョセフは夢遊病者のように手を伸ばした。


「それだ……それさえあれば……どこにだって……元の世界にも……<サンガニカ・クァラ>にも…」


ジョセフの手がなおも伸びる。

手甲を差し出したまま微動だにしない<鷲頭獅子の黄金王>を前に、男はあと一歩で手甲にたどり着くところまで来ていた。



転瞬。



 ジョセフには、何がおきたかすら分からなかっただろう。


すさまじい速さで持ち上げられた前足が、鉄槌のごとき重さを持って彼の頭に落ちたのだ。

すべては一瞬のことだった。

人質たる雛を手放した脅迫者にして略奪者を、<鷲頭獅子の黄金王>は許さなかったのだ。


特技を用いる間もなく、ジョセフの頭蓋がかち割られる。

ゲフィオンに、むしろ爽快ささえ感じさせるほどのあっけなさで、『レイドボスと交渉しようとした男』は首から上を失った屍骸と化し、

直後、風に溶け込むように光となって消えた。

見下ろす黄金王の目は、あくまで冷たい。

だが、その嘴が奇妙に歪んでいるのは、哂っているからだろうか……とゲフィオンは思った。


ゲフィオンもヘレナも、何もできない中、ばさりと身を震わせて黄金王が羽ばたいた。

空中に浮かぶ王に、衛星のように二頭の雛が寄り添う。

その姿を見つめるゲフィオンを、不意に黄金王の眼差しが射抜いた。


「……!」


一瞬だった。

優雅な浮遊から、瞬時に突撃に移った黄金王の巨体が、反応できないゲフィオンに激突する。

鋭い体当たりは、あっけなくゲフィオンの腹腔を突き破り、彼女は血反吐と内臓を吐きながら空中を舞った。


<暗殺者>が、まるで早贄(はやにえ)のように木に突き刺さって止まる。

その姿は瀕死そのものだ。


<鷲頭獅子の黄金王>は無残な姿になったゲフィオンを一瞥すると、視線を転じた。

その視線の先にいるのは、もう一人の<冒険者>。

自分を巣から引きずり出した、憎むべき小動物の同族。

ヘレナ、だった。


 黄金王が羽ばたく。

与し易しと見たのだろう、大空へ向かうその動きは奇妙にゆっくりだ。

ゲフィオンはかすむ目で、見る見る小さくなっていく黄金王を見つめていた。

このまま去る気は毛頭ないだろう。

王は不遜な交渉者だけでなく、それに協力して同族たる鷲頭獅子を殺戮した<冒険者>にも、区別なく鉄槌を与えるつもりのようだった。


見下ろせば、不気味な海毛虫もどきがはいずりながら、ヘレナから離れていくのが見える。

思えばこのモンスターも不思議だ。

ゲフィオンが見る限り、この海毛虫もどきは<召喚術師>の従者ではない。

普通のモンスターだ。

であれば敵対こそすれ、ペットのように傍に控えることはあり得ない。


(だから、逃げているのか)


先ほどの雛と同じなのだろう、とゲフィオンは結論付けた。

自分を容易に殺す<冒険者>に捕らえられては、いかに幻惑を操る怪虫といえど、おとなしくするしかなかったのか。


はるか高空、点になるほどの高みで<鷲頭獅子の黄金王>が体をひねるのがかすかに見えた。

もはや意図するところは明白だ。

高高度から急降下し、自らの体重そのものを破壊力にしてヘレナを叩き潰すつもりなのだ。

当のヘレナはといえば、いまだに顔を覆って泣きじゃくっている。

反撃するつもりも、逃げるつもりも見受けられない。

とはいえ、人をはるかに超える機動力とタフネスを誇る相手に何をしようが、死ぬ時刻が若干遅れる程度のものだろう。

轟音が響いた。

サイレンのような甲高い音は、黄金王の翼が風を切る音だ。

不気味なサイレンのように鳴り響く音が途絶えたとき、ヘレナの命運は尽きる。

ゲフィオンがそう思い、思わず目を閉じた、その時だった。


 視界が歪む。

自分の知覚がパッチワークの材料のように寸断され、めちゃくちゃに貼り合わされる。

地面に足が向いているのか、それとも頭が向いているのかも分からない。


(……これは!)


ゲフィオンはこの感覚に覚えがあった。


この視界がぐるぐると回るような不気味な感触は他にない。

それを証明するように、全身から体液を流しながら、海毛虫もどきがふるふると揺れている。

揺れながらも、その甲羅に覆われた体は、しっかりと地面を踏ん張っていた。


視界が奇妙な色彩に歪み、半透明の甲羅から放たれる光だけが網膜の中を乱舞する。

ゲフィオンの視界に映る怪生物が奇妙に伸び縮みしているようだ。


「エリー……ゼ……?」


ヘレナが顔を上げた。

彼女だけは幻惑の効果を受けていないのだろう。その目がはっとして『娘』を正面に捉える。


「エリーゼ! だめ、全力を使っちゃ!」


『母』の声に首を振るように海毛虫もどきは甲羅を左右に振ると、ますますその光を強めた。


「エリーゼ!!」


ヘレナが叫ぶのと、幻惑によって視界を乱されたであろう<鷲頭獅子の黄金王>が失速し、

目標であったヘレナではなく、『エリーゼ』のいた場所に激突したのは、

ほぼ、同時だった。




3.


「ゲフィオン!」


アールジュが叫びながら、地面に倒れていたゲフィオンに駆け寄ったのは、

すでに夕方近くの時間だった。


<鷲頭獅子の黄金王>が大地に激突した衝撃で、刺さっていた木から外れた彼女は、

そのまま地面に突っ伏して激痛に悶えていたのだ。

すぐさま回復特技が掛けられ、<激痛><朦朧><気絶>といった状態異常効果(バッドステータス)が剥がされる。

そうして目を覚ました血まみれの彼女を、アールジュは急いで抱え起こした。


「ゲフィオン! 大丈夫!? しっかりしなさい!」

「……やあ…アールジュ」


切れ切れながらもゲフィオンが返事をしたことに、<吟遊詩人(スカルド)>も安堵のため息をつく。

その隣に立つロージナも、複雑な表情のまま、自身が死地に置き捨てにした<冒険者>を見下ろした。


「……ゲフィオン。状況の報告を」

「ロージナ!!」

「いや、いい」


抗議の声を上げたアールジュを片手で制し、ゲフィオンはゆっくりと起き上がると胡坐をかいた。

ぽつりぽつりと声がその口から漏れる。


「……どこから、話そうか?」

「私への報告以降のすべてだ。……鷲頭獅子たちはどうなった?」

「倒した。残りは帰ったよ」


<修道院>の仲間の一人から受け取った水筒で口を湿らせ、ゲフィオンは続けた。


「ここには2人の<冒険者>が『いた』。そいつらに鷲頭獅子が襲い掛かった。

理由は、連中の雛を救い出すためだったらしい。

第一波を皆殺しにしたところで、2人の<冒険者>は私を殺そうと……いや、餌にしようとした。

その時にボスらしい大きな鷲頭獅子が来た」

「<鷲頭獅子の黄金王>……レイドボスだ」


ロージナが注釈する。

頷いてゲフィオンが続けた。


「2人のうち男のほうの目的はそいつのドロップする報酬――<鷲獅子王の手甲>だったらしい。

そいつは雛を人質に、黄金王にアイテムの譲渡を迫り――失敗して死んだ」

「馬鹿な、レイドボスから報酬を交渉で手に入れるだって?」


口を挟んだのはその場にいた一人の<冒険者>だった。

腕を組み、首をかしげる。


「どうやって? あのクエストは交渉ごとなんてなかったぞ」

「<鷲頭獅子の黄金王>は、クエスト紹介によれば知性があるモンスターだった……と覚えている。

知性があれば、交渉も可能、とそいつは思ったんだろう。

だが、なぜ手甲なんだ…? <武闘家>だからか?」


その<冒険者>の後に続いて疑問を呈したロージナに答えたのはアールジュだった。


「<鷲獅子王の手甲>は幻想級装備のひとつ。単純な攻撃力では<黄金王の剣>に及ばないけど、ひとつの特殊能力がある。

それは、<妖精の輪>の行き先を、飛び込む前に確認できること。リストの形でね」

「……思い出した。確かにそんな機能があったな。 ゲーム時代は、どうせHPを見れば済むと思って、誰も気にもしなかった」

「でも、今のこの世界じゃ、そのアドバンテージは圧倒的だわ」


アールジュの答えに、その場の全員が頷く。

ゲフィオンもひとつ頷いて、言葉を再び発した。


「黄金王は、鷲頭獅子を殺しまわった私たちも許すつもりはないようだった。

私は突撃をまともに受けてごらんの有様、ヘレナ――もう一人の<冒険者>も攻撃を受けるところだった。

それを助けたのがエリーゼ……そいつが娘扱いしていた変な虫型モンスターだ」


今となっては、『エリーゼ』が何を思って幻惑を掛けたのかは分からない。

単純に危険を避けようとしたのか、『娘』と呼んでくれた<冒険者>を守ろうとしたのか。

あるいは虫の本能で、寄生すべき相手に死なれては困ると思っただけなのか。


海毛虫もどきが黄金王の一撃で潰された以上、それは永遠の謎だった。

モンスターと<冒険者>が心を通わせることができるかどうか、今のゲフィオンには分からない。

ただ言えるのは、あのおぞましい姿のモンスターは結果的にヘレナを守り、死んだことだけだ。


そこまで話したところで、ロージナが再び話を遮った。


「状況は分かった。……で、その話では女<冒険者>――ヘレナ・ディーターのほうは生き延びたのだろう?

どこにもいないのは何故だ?

それに、黄金王はどうした? 目の前で言うのもなんだが、なんであんたに止めを刺さなかった?」


ゲフィオンはゆっくりと目を閉じた。


「後者については、よく分からない。ヘレナにも私にもそれ以上攻撃を掛けてくることなくどこかへ行った。

そもそも、正式なイベントトリガーでなかったろうし、元の巣へ戻ったんだろう。

ヘレナは……自殺した」


ゲフィオンは、朦朧とした意識の中で、女<召喚術師>の最期の声を聞いていた。

彼女は、『娘』が叩き潰され、黄金王が飛び去った後も、ひたすらエリーゼの名を呼び、

泣き崩れ、地面をたたいて喚き――手元に落ちていた短剣を手に取った。

そして、ゲフィオンが痛みで気絶していく寸前、その短剣で自分の喉を裂いたのだった。


「私はこの有様だ。止めることもできなかった。……哀れだと、思う」


既に日は没している。

暗くなる広場で、誰もが声も発せず、顔も知らない<冒険者>の最期を黙って聞いていた。


今頃、ヘレナは最後に立ち寄った大神殿のベッドの上で、意識を取り戻していることだろう。

だが、こと彼女に限ってはそれは福音ではない。

絶望の中で死を選んだ彼女に待っているのは、更なる絶望だけなのだから。


「……その人に、せめて少しでも、安らぎを…」


アールジュがゆっくりと手にした竪琴を爪弾いた。

音が虚空へと静かに消えていく。


それぞれは、それぞれの思いを出すことなく、黙ってその音を聞いていた。


「……少し運命が違っていたら、私たちも…」


ロージナの小さな声だけが、伴奏のように旋律に寄り添い、消えていった。



それからしばらくの後、ゲフィオンは『ゲフィオン』としての最後の戦いに赴くことになる。

彼女が本当の名前を取り戻してからも、この島で起きた奇妙な出来事は、彼女の心の片隅に終生、小さなとげとなって残されたのだった。

ちなみにヘレナが幻惑の影響を受けなかったのは、<混乱>の状態異常効果を無効化するアイテムを持っていたからです。

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