#005「家庭教師」
明日、家庭教師が来る。といっても、俺は普段と変わらず書斎に篭り、本を読んでいた。傍らには普段と変わらず、ロノウェとアギレットがいる。
二週間半ほどこの兄妹と接してきた。ロノウェとの関係は最初の頃からあまり変わっていない。
毎回、ロノウェの仰々しい軽口を、反応はしつつもスルーする。だが、彼が素直に面白いことを言えば褒め、調子に乗りすぎてまずい言動を行った場合は叱った。
劇的に変わったのはアギレットである。最初、あからさまに俺を怖がっていた彼女が、あのリボンを渡した日以来、笑顔を見せるようになったのである。
笑顔の彼女はめちゃくちゃ可愛かった。
しかし、まずい。相手は四歳児だ。四歳児の笑顔に夢中になっている自分が恥ずかしい。俺は女に免疫のない自分を呪った。
気づくと、俺は本を読むことよりも、アギレットやロノウェと話すことのほうを楽しみとしていた。『アンデルシア史概略』は、唯一の娯楽の座から滑り落ちたのである。
そうなると逆に、読むペースが早くなった。
俺は自分の語学力が、本を読むことが苦にならない程度まで成長したことを確認した後も、この「娯楽」を精一杯楽しもうと、一文一文噛み締めるように、ゆっくりと読んでいたのだ。
俺はその読み方をやめた。
結果、家庭教師の来る前日の今日、俺は『アンデルシア史概略』を読破することができた。二〇〇ページ程度とはいえ、三週間弱での読破は新記録だった。
『アンデルシア史概略』は、俺の知りたい情報が載っていた。それは、前々々(中略)々々世の俺のことである。
『約四〇〇年前の貴方は、立派な人物だったらしく、
その子孫は王侯貴族として続いているようです』
神の言葉どおりなら、前々々(中略)々々世の俺、そして今の俺――シトレイの四〇〇年前の先祖は立派な人物だったらしい。現に、父アガレスは伯爵だ。それならば、その先祖、身を立てた人物が歴史書に名を残しているかもしれない。
その人物はすぐに見つかった。
『アンデルシア史概略』は俺が生を受けた国の通史を扱っている。冒頭、「我が国は四〇〇年の歴史を誇る――」の一文を見た時、俺は自分の先祖についてなんとなく予想を立てることができた。
「父上、私は太祖アガレスの子孫なのですか?」
「お、早速あの本を読んでいるのだね。
勉強熱心で何よりだ。
シトレイの言うとおり、私たちは太祖アガレスの子孫だよ」
もしかしてと思ったその日の夕食の席で、俺はずばり父に答えを聞いた。父と同じ名前を持つ前々々(中略)々々世の俺は、この国の建国者だった。
しかも、本の内容をそのまま信じるなら、昔の俺――太祖アガレスは人も羨む大人物だったらしい。人を惹きつけるカリスマ性に富み、弁舌は爽やかかつ説得力があり、強力な指導力を持ち、政治的才能豊かで、そして美丈夫。
美丈夫。
美丈夫……。
前世でも今生でも、無縁の言葉である。四〇〇年も昔とはいえ、何個も前の前世とはいえ、俺がイケメンだったのだ。信じられない。
さて、どの国の歴史でもそうだが、建国の話は国家の根幹に関わるためかとても重要視される。『アンデルシア史概略』でも、建国譚と建国の祖アガレスのために、三十ページ弱を割いていた。知りたい情報であったから、俺にとってはありがたい話だ。
太祖アガレスは地方の弱小貴族の出身であったが、当時の強国アルカエストの国主バアルが大伯父であり、その遺言で後継指名された。十代半ばで一国の主となったアガレスは、反対者を討ち、足元を固め、大陸統一戦争に乗り出したのである。
十年かけて大陸の三分の一を制覇したアガレスは、皇帝に即位した。
彼の征服戦争と皇帝即位は、彼自身と、有能な部下たちの力もさることながら、神の寵愛を受けたことが大きな助けとなった。
『女神ドミナの寵愛を受けた太祖アガレスは、
聖地ドミニアへ入城後、女神ドミナと結婚し、自ら神の代理人たらんことを宣言した。
後年、太祖アガレスと女神ドミナの結婚の日は、
彼の即位および建国の日として認識されるようになった』
もし前世でこんな内容の話を聞いたら、ただの建国神話だと思っていただろう。あるいは、神の寵愛云々ならまだしも、「神と結婚した」などという記述に鼻白んだかもしれない。
だが、俺は死んだ後、神と対面した。今の俺は、神様という存在を肯定している。
きっとこれは事実なのだろう。
「では、父上や兄上や私は、女神様の子孫なのですか?」
「そう、私たちには女神ドミナ様の血が流れているんだ。
シトレイは神様の子孫なのだから、それを誇りに思い、
毎日良い子にしなければならないのだよ」
歴史書や父の話を全部信じたとする。すると、俺は自分の子孫に四〇〇年の時を経て転生したということになる。太祖アガレスの子孫とは、すなわち女神ドミナの子孫でもある。神を名乗る面接官の話だと、それを望んだのは他ならぬ女神ドミナだという。
「何のためだろう。
まったく想像つかない」
応接間に並ぶ絵画を見つめ、俺はつぶやいた。ロノウェとアギレットと別れ、夕食を済ませた後、俺は応接間にやってきたのだ。前に入った時は気にも留めなかったが、そこに並ぶ絵画のひとつに、太祖アガレスと女神ドミナを描いたものがあった。
勲章を所狭しと身に着けた黒い軍服の凛々しい青年と、その傍らに並んで立つ、優しそうな美女。二人の背後には、その神性を現しているのか、後光が差している。
「本当にイケメンだな。
そりゃあ、神様が惚れ込むのもわかる」
横に並ぶ女神と比較してだが、青年はとても背が高そうだった。漆黒のような黒髪と、吸い込まれそうな青緑の瞳。眼力は強いが、どこか温和そうな印象も併せ持つ。少なくとも、今の俺が持つ、視線だけで人を殺すことができそうな凶悪な目つきとは似ても似つかない。
横に立つ女神も大変な美女だ。長くてまっすぐな銀色の髪と碧眼。整った鼻立ちと、少し丸みを帯びた頬。赤ピンクの健康そうな唇。
「はぁ……」
俺は応接間を後にし、子供部屋へと戻った。何個か前の前世の俺は、男の俺が掘られてもいいと思えるほどの美男子で、しかも見たこともないような美女かつ文字どおり女神に惚れられていたというのだ。
まったく信じられない。
建国の話は信じたが、その当事者本人のリア充っぷりは信じられなかった。
そういえば、この世界に生を受けてから、正確に言えば、あの神を名乗る面接官の話を聞いてから、気になっていたことがある。
『こちらの世界の神は約四〇〇年おきにしか活動しないようなのです』
『こちらの神との約束は約四〇〇年後に送り戻してくれ、というものです』
こちらの神――女神ドミナの活動に合わせて、俺は転生した。女神ドミナは、自分の愛した男を自分の活動に合わせて転生させた。
だとすれば、俺がドミナと相対する日は、きっと来る。
俺は両目の外側の端を指で押さえ、引っ張った。狐目のように目が伸びる。
「俺、こんな顔に生まれちゃったけど、
神様はがっかりしないかな」
明日は、家庭教師が来る。もう寝よう。俺はいつもより一時間ほど早く床につくことにした。
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「今日より、皆さんの家庭教師を務めることになりました。
バーラム・ヴロアです。ヴロアとお呼び下さい」
家庭教師として現れたのは、六十代ぐらいの白い髭を蓄えた老人だった。いかにも魔法が使えそうだ。
「シトレイ・ハイラールです。
よろしくお願いします、ヴロア先生」
「ロノウェ・リュメールです!
シトレイ様第一の側近です。どうぞお見知りおきを」
「アギレットです。
シトレイ様第一の側近の妹です」
俺たちは一通り自己紹介をした。それに合わせ、ヴロア先生も自己紹介をする。
聞くと、ヴロア先生は貴族の出身らしい。若い頃は軍人をやっていたそうだ。
「我が家の先祖が軍人として身を立てて爵位を頂きましたのでね。
家の方針として男は皆軍人になるべく教育されたのです」
だが、四十代中盤で体力の限界を感じ、退役。退役後は、ヴロアの実家と同じように、子供を軍人として育てることを希望していた貴族の家の家庭教師となったのだが、そこで経験した教師という仕事を天職と感じたらしい。以後二十年間ずっと、時には公立の学校に身を置き、時には家庭教師として、次世代の教育に務めてきたのだという。
「四十代と言えば、まだまだ体力のある時期に思えますが」
「フォフォフォ、お恥ずかしい話ですが、
子供の頃から軍人になるべく育てられたにしては、
私は体力に自信がなかったのです。
なまじ術が使えたので、騙し騙し軍人をやっていましたが、
四十代になってそれも限界が来ましての」
「術!」
術。
剣と魔法の世界の、根幹を成す概念。
『……魔法も、魔法という名前ではないようですが、存在しています』
神が言っていた、魔法という名前ではないが存在しているもの。それが術だ。
術は、正式には神聖術という。この世界の人間は、魔法を女神ドミナから貰った力と考えていた。「神聖」という名の由来である。
俺が今まで読んだ六冊の書物には、術の詳細は書いていなかった。どうやら、よく戦争で使われるものらしい。一度、父や母に術のことを聞いたことがあるのだが、「シトレイにはまだ早い」と言われるだけで、詳しい使い方までは教えてくれなかった。ただ、術を使えば、火の玉や雷を出すことができるらしい。
俺の想像する魔法そのものだ。
「伯爵様や奥方様が、術はまだ早いとおっしゃったのは理由があるのですよ、シトレイ様。
術の使用は体力と精神を大きく消耗させますからな。
幼い者が術を使うことは、死の危険すらあるのです」
そう言われても、俺は食い下がった。将来のために聞くだけ。絶対に使わない。そう約束して話を聞くことができた。そして、話を聞くうちに、術こそ俺の想像する魔法そのものだ、という前言を撤回することにした。
術の概要はこうだ。
一、術は才能に大きく依存する
訓練さえすれば、誰にでも術は使えるが、戦闘に適した術を仕えるか否かは、使用者の才能によるところが大きい。これは想定の範囲内だ。術士タイプと戦士タイプがいるってことだろう。
二、術の発動には儀式、時間、集中力を要する
あれ、ちょっと違うぞ、と思ったのはここからだ。
術の発動は、三十分から一時間にわたって発動のための儀式を行わなければならない。この時間もあくまで平均であって、術士の体力や集中力によって大きく違うらしい。この間、発動のために集中し続けなければならない。呪文を唱え、MPを消費すればすぐに発動するようなものではないらしい。
そもそも、MP……魔力という概念はないようだ。
三、術は基本的に一人、一種類しか扱えない
努力すれば様々な術を使えるようになる、ということは決してないらしい。例えば、火の玉を発現することのできる術士は、いくら訓練してもそれしかできない。訓練で威力は上がるらしいから、火の玉は火の柱になるかもしれないが、決して雷の術を使えるようになることはないのだそうだ。
四、術の発動は、体力と精神を大きく消耗する
どのくらい消耗するかといえば、大の大人が一発術を放ったら、発動した直後に失神し、数日は眠り続けるほどの疲労を強いられるらしい。ダンジョンに潜り、術を使って魔物をバンバン倒す。ありえない話だ。
幼児が術を使えば死の危険すらある。納得した。
「では、実際に術が使われる場面というのは、どのような時なのですか?」
「大体が戦争の時ですね。
戦争では高い威力の術を発動できる術士が、勝敗を握ります。
術が発動するまでの時間を、前面の兵士が稼ぐ。これが基本的な戦術となります」
五、訓練すれば上がるのは威力だけ
威力は上がる。
前述したとおり、使える術の種類は増えない。術発動後の消耗も、訓練によって軽減はできないそうだ。
六、術は自然の操作しかできない
温度の変化で火の玉や氷の刃を発現させ、気候の変化で雷や雨を降らせることはできる。地震を起こすこともできる。(尤も、地震を起こせば自軍にも被害が出るため、戦争で使われることはないらしい)だが、空から岩石を降らせることはできない。また、回復魔法もないし、ましてや死んだ人間を蘇生させることなんて絶対にできない。
俺は落胆した。これじゃあ、俺の思い描く魔法ではない。
用途が戦争目的になるのは仕方ないが、一発討てば砲身がイカレて使い物にならない、大昔の大砲のようだ。言葉は悪いが、使い捨ての兵器である。
「術を覚えるつもりなら、十五歳の成人まではお待ち下さい。
十五歳の成人の儀の際、教会で術具を使い、術の適性を見るはずです。
術の適性があり、日々の訓練を怠らなければ、
二十歳ぐらいで立派な術士になれるでしょう」
ヴロア先生はそう言ったが、先ほどの術の説明を受けて、俺は術への憧れを完全になくしていた。
「フォフォフォ、シトレイ様、思い描いていたものと違いましたかな?
でも、術もいいものですよ?
軍では重宝されるのでお給金は良いですし、
何より術を発動した後は倒れこむので、
たとえ自軍が負けても意識のないうちに死ぬことができます」
「先生」
「なんですかな?」
「授業を始めて下さい」
「フォフォフォ。
では、初日は貴族としての礼儀作法を少々勉強いたしましょう」
小さい頃から魔法、いや術の勉強を重ね、将来は大術士として活躍する。術の存在を知ってから、そんな妄想をした日もあった。
だが、俺は夢を諦めた。
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俺は勉強ができた。当たり前だ。五歳児でも、中身は三十路男なのだ。五年間の精進で、言語の問題はクリアしている。国語は完璧だ。本の知識があったおかげで五歳児にしては語彙が多いくらいだった。貴族の礼儀作法だって、ルールさえ覚えれば難しくない。数学に関しては言語より簡単だった。幸い、この世界にはアラビア数字に相当する文字があり、計算の方法も前世のものと変わらなかった。俺は一ヶ月ほどで、ヴロア先生に「シトレイ様は、正に天才児です」と言わしめさせた。
問題になったのは、だから俺ではなかった。三十路男と一緒に机を並べさせられた哀れなリュメール兄妹である。
ロノウェは勉強が得意な方ではなかった。
彼は俺より二歳年上であったから、できないぐらいの方が俺の学習ペースに合わせられると思われたのだろう。大人たちのその判断は、大きく外れてしまった。
逆にアギレットは、家でもよく本を読み、四歳にしては勉強熱心なように思われていた。だから、一歳年上の俺と同じ学習ペースでも無理なくついていけると判断されたのであろう。これも、大きく外れてしまった。
兄妹が四則計算をやっていた頃、俺は微分積分に手を出していた。兄妹、特にアギレットにしてみれば、四歳で割算をやらされているのである。一方俺は、天才児だと騒がれたが、三十歳の男が高校時代の復習をやっているだけだった。
「このままでは、三人ご一緒で学ばれるのは難しくなって参りますな」
授業が始まって一ヵ月半。俺とリュメール兄妹との差は歴然であった。その状態を見たヴロア先生がある日言った。
「三人の差を見れば、明らかです。
この状態は、シトレイ様にとっても、
ロノウェ殿やアギレット殿にとっても良くない」
「お待ち下さい、先生!
このロノウェ、シトレイ様の第一の側近であるこのロノウェに!
シトレイ様のお側を離れろと、先生は仰るのですか!」
ロノウェに同意だ。小姓と言えど、俺はこの兄妹のことを友人と思っていた。今のところ、この世界では、この兄妹しか友人がいないのだ。俺から唯一の友人を奪わないで欲しい。
「私も、嫌です。
もっと頑張ります。シトレイ様と一緒に授業を受けさせて下さい」
アギレットも俺と別々の授業は嫌らしい。
やった。
俺はつい、顔が綻んだ。その顔を見たアギレットが、ビクッと肩を震わせた気がした。
「シトレイ様はどう思われますか?」
「ロノウェやアギレットと同意見です」
「ふーむ」
「先生、この者たちは、私の小姓です。
将来は、私の家臣として仕える者たちです。
学習ペースも大切ですが、
私とこの者たちが一緒に授業を受けることも、大切なことなのです」
「なるほど」
「いかがでしょう、先生。
授業全体のペースはロノウェとアギレットに合わせて下さい。
私はロノウェとアギレットに勉強を教えます。
人に教えることは、それ自体が勉強になります」
この提案は採用された。
俺は数学と国語の時間、自由に本を読んでいいことになった。そして、ロノウェやアギレットから質問を受ければ、それに答える。一方、俺が本を読んでいて疑問に思ったことは、ヴロア先生に質問した。
「しかし、シトレイ様は、失礼ですが本当に五歳なのですか?
人に教えることが勉強になるなんて、教職についたことのある人間の意見ですよ」
そりゃあ、そうです。人に教える仕事をしていましたもの。塾講師でアルバイトではありましたが。
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シトレイが天才らしいという話は、両親の耳にも入っていた。
「読書好きな子だと思っていたが、
ここまで優秀だとは思わなかったよ。
将来は大学教授だね。私は帝都大学にツテがあるのだ。どうだ、シトレイ?」
「あら、シトレイは大学教授よりも、財務府に入って官僚を目指すべきよ。
成人したらすぐに役人になれるよう、
今からお義父様にお願いしたらどうかしら」
夕食の席で、父アガレスも、母フェニキアも、満足そうにワイングラスを傾けていた。
「いいえ、父上、母上。
私は、今現在、五歳児にしては勉強ができるかもしれませんが、
将来もこのまま能力が伸びるとは限りません。
過度な期待は禁物です」
神童と呼ばれた人間が成長後も天才的な才能を発揮するのは例は少ない。『あの神童は今』というテレビ番組で得た教訓だ。
「才能に溺れることもなく、謙虚だ。
これは大人物になるぞ」
息子の才能にご満悦な両親は、酒が進む。ワインを一本空けてしまい、メイドに命じて、次のボトルのコルクを開けさせた。
ここで一人、俺の天才ぶりに不満を持つ人物がいた。俺の兄アーモンである。
俺とアーモンの接点は少なかった。家庭教師が来るまで、俺は書斎にこもってばっかりであったし、アーモンはアーモンで、俺よりも二年早く自分の小姓たちと共に授業を受けていたのだ。
食事の際は顔を合わせたが、俺がしゃべる時は、専ら、両親に対して、自分の知らない事柄の質問に充てていた。一方、アーモンは寡黙な人間だったので、あまり発言することもなかった。
両親が俺のことを褒めている間、アーモンは一言もしゃべらなかった。端から見ても、不機嫌なのが見て取れる。
そのうち、アーモンの不満が俺にぶつけられるかもしれない。
そう思ったが、その後、アーモンから何か言ってくることはなかった。アーモンを持ち上げるようなことを言っても、両親は俺の謙虚さと受け取るだろう。そうなれば、アーモンの不満は募るばかりだ。
この件について、俺は触れないことにした。教師や親の立場ならともかく、弟からフォローされても、それはそれで不満の種になるだろう。
まったく、仕事でもプライベートでも、何でもそうだが、人間関係こそが、一番面倒で厄介な代物だ。