#041「祖父と孫」
セエレに賛同するフリをして、俺とマルコ、フリック、そしてヴェスリーの安全を確保することができた。
ここまでは守勢に立たされていたが、次は攻勢に出る番だ。
セエレの考えには賛同できない。
彼は、口では大層な理想を語っていた。しかし、要約すれば「友人を殺されたくなかったら協力しろ」である。
信用できるはずがない。
セエレの話に乗ったフリをし始めたときから、俺は祖父に相談することを考えていた。
セエレは皇帝の直系である。そして、彼は人を殺すことも厭わないと言っていた。
ヴェスリーといざこざを起こしたときとはわけが違う。
今回ばかりは、他の生徒を巻き込むわけにはいかない。巻き込んでどうにかなるとも思えなかった。
それに、彼は転生者だ。
ネックなのは、その転生の話である。
もし、セエレが言うように、祖父が他の転生者に敵対心を持っていたらどうするか。あるいは、祖父が転生者でなかった場合はどうするか。
祖父に相談するということは、俺が太祖アガレスの生まれ変わりであることを告白することなのだ。
前世の記憶を持つ俺を、孫として受け入れてくれるだろうか。
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新年を迎えたばかりの一月。
俺は祖父アーモンの屋敷を訪ねた。
セエレに忠誠を誓うフリをしてから、俺は自分に尾行がついていないか用心していた。セエレが俺の行動を監視しているのではないかと思っての用心である。
そして、数週間様子を見た結果、セエレは俺を監視していないと結論が出た。
忠誠を誓い、ヴェスリーを説得してみせて、セエレの信用を勝ち取ることができたらしい。脇が甘い男だ。
セエレの甘さを見下した俺は、そんな男の風下に立っていることを思い出し、今度は自己嫌悪に陥った。
夜遅く、闇夜に紛れて、俺は祖父の家へ向かった。一応警戒し、ハイラール家の紋章を取り払った馬車で向かう。目立たないよう、少人数での行動だ。随行は馬車の御者と、腕の立つ従士が二名。
夜の闇と同様、俺の心は暗く、重かった。
祖父とセエレ、どちらが信用できるかと問われれば、間違いなく祖父だろう。しかし、これから話すことは、祖父との信頼関係が崩れるかもしれない内容だった。
俺は自分が慎重……いや、臆病だと自覚している。
祖父のことは信用できると自分に言い聞かせても、どうしても不安を拭い去ることはできなかった。だから、祖父の屋敷を訪ねる前に、最悪の事態を考えて手を打ってきた。
「もしものときは、手はずどおりに頼むよ」
「はい、伯爵様」
もし、祖父の考えがセエレの話どおりだった場合、俺は隣国へ亡命することを考えていた。財産は持てるだけ持っていく。同じく危うい立場にあるヴェスリーも連れて行く。
そうなれば、幼年学校の仲間たちも、ハイラールの友人たちも捨てることになる。普段なら、考えもしない選択だろう。だが、祖父はこの国で一番の権力者だ。味方なら心強い祖父も、敵に回ったとしたら到底太刀打ちできない。セエレの恐怖は理解できなくもなかった。
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「すまんな。食事中だ」
祖父を訪ねたのは夜半を目前に控えた時刻だ。てっきり、いつかのように応接間に通されると思っていたのだが、メイドに案内された先は食堂だった。
祖父は遅い夕食をとっていた。仕事が立て込んでいたらしい。既に六十半ばだというのに、随分と精力的である。以前祖父と食事をしたときのように、テーブルの上には肉料理の大皿が所狭しと並んでいた。
「食事はもう済ませたのだろう?
しかし、小腹が空いてくる時間でもある。
どうだ、食べるか?」
「いいえ結構です」
確かに、こんな時間に美味そうな料理を並べられては嫌でも食欲が湧いてくるだろう。だが、今日は大事な話をしにきた。俺の頭の中に食欲が占める余地はなかった。
「そうか。
まぁ、茶ぐらいは飲んでいけ」
そう言うと、祖父は脇に控えていた若いメイドに合図を出す。祖父の命を受けたメイドが、俺の前に紅茶とケーキを用意した。
「お爺様、夜更けに突然の訪問、申し訳ありません。
本日は大切なお話があって参りました」
「前にも言ったが、儂相手に畏まる必要はないぞ。
遠慮する必要もない。
お前の話なら、いつでも聞いてやる」
「ありがとうございます」
俺は祖父を見つめた。緊張を自覚する。話せば、祖父と孫という関係が失われるかもしれない。
「お爺様の、瞳を見せて下さい」
先ほどから俺と話をしながらも、食事をする手を休めなかった祖父。その祖父の手がとまった。祖父はナイフとフォークを置き、沈黙する。
沈黙は一瞬だったか、数秒だったか、数分だったか、わからない。長くも短くも感じられた沈黙の後、祖父は俺の目を見据え、そしてその細い目を開いた。
祖父の目は、白目に点を書き入れたような四白眼だった。
「やっと、お前から言ってきたか」
「それでは、お爺様も……」
「それ以上は、この場で話してはならぬ」
祖父の脇にも俺の横にも、給仕役のメイドたちが控えていた。扉の方には、俺に随行してきた従士たちも立っている。
祖父に制止された俺は、黙ってケーキに手をつけた。赤いソースはイチゴかと思っていたのだが、ラズベリーだったようだ。口の中に酸味が広がる。
祖父が食事を終えるのを待った後、俺たち二人は祖父の寝室へと向かった。
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「ここは……」
祖父の寝室に入ると、部屋の奥に扉があった。鍵のかかった扉を開けると、もう一つ部屋が続いていた。
金製の調度品に埋もれた寝室と違い、こちらは物が少ない。
屋敷の他の部屋に比べこの部屋は異様だ。
四隅の柱は鉄製のようだが、壁紙が張られておらずむき出しになっていた。壁は木製のように見えたが、よく見るとコンクリートの上に板を張った造りになっている。
椅子らしき家具も、この世界では見たことがないデザインをしていた。一本の鉄の棒を折り曲げて椅子の形を作っている。肘掛はなかった。前世で死んだときの、白い部屋で座ったパイプ椅子を思い出す。
「座れ」
祖父に促されると俺は椅子に座った。クッションの感触に違和感を感じる。手で触ってみると、どうやらゴムのようなもので出来ているようだ。
「ここはな、儂が前世で住んでいた部屋を模して作らせたものだ」
改めて部屋を見渡す。
椅子とテーブルのセットが一組。椅子と同じく、一本の鉄の棒を折り曲げて作った寝台が一つ。壁には大盾と刀剣、そして長槍が立てかけられている。部屋の中は、それで全てだ。
殺風景で、少し寂しく感じられる。
「儂は前世で兵士をしていた。
ここはその兵舎だ。
ここにいると、前世での惨めな境遇を思い出し、そして今生での幸福に感謝することができる」
祖父はパイプベッドのような寝台に腰掛けたまま天井を見上げ、黙った。
邪魔しては悪い。しばらく俺も黙った。
「慎重な性格のお前が、自ら転生を打ち明けてきた。
最終的には儂から打ち明けることになるだろうと思っていたのだがな。
何かあったのか?」
俺はこれまでの経緯を話した。
ヴェスリーと和解したこと。
彼女からセエレへの不信感を打ち明けられたこと。
セエレを問い詰めたこと。
そして、セエレとの会話の内容。
全て、洗いざらい話した。
「ふむ、なるほどな」
「お爺様。
お爺様はセエレを暗殺しようとなさったのですか」
祖父は宰相の要職にある。
手を汚さずに今の地位を手に入れ、守ってきたとは思わない。祖父は敵対者に対しては強硬な態度をとる。その態度が他の転生者へも向けられるのだろうか。確かめなくてはならない。
「まさか。
そのようなこと、できるはずがなかろう。
そのようなことをして神の勘気に触れたらどうする」
セエレの話は、転生者に関する限りは正しいものだったらしい。祖父も転生者が複数いることを知っていた。
祖父は、祖父自身や大伯父オリアス、セエレ、そして俺が太祖アガレスの生まれ変わりであることも知っていた。同時に、太祖アガレスの生まれ変わりが複数いることについて疑問に思っていたという。
「おそらくは、女神ドミナの意志だと思う。
彼女の意志によって、太祖の魂が複製されたのではないか、とな。
もちろんそれは仮定の話だが、もしそうだとすれば、他の転生者を殺すことは神の意志に反することになる」
セエレの暗殺未遂事件は、祖父の部下が暴走した結果だったらしい。
セエレは祖父と敵対する軍務次官の甥であり、年少の皇族だった。サイファ公爵が担ぐ神輿としては、これほどうってつけの人間はいない。祖父の部下は、セエレを始末することで祖父の寵を得ることができると考えたのだろう。中心人物よりもその周囲にいる人間の方が過激になることは、よくあることだった。
「人の気も知れずに、と思ったものだ。
儂はすぐに処断した。
セエレに手を出すつもりはないし、手を出してはならぬという儂の意志表示でもあった」
「それでは、オリアス・アンデルシアの暗殺事件は?」
「……それは、儂がやった」
偶然にも祖父の瞳を見てしまったオリアスに殺されかけたという。
「兄は、オリアスは言っていたよ。
自分こそが女神に選ばれるのだ、と。
オリアスは儂と話し合うことをしなかった。
儂を競争相手と認識した瞬間、兄の頭の中には儂を殺すことしかなかったのだ。
彼は臆病だった。
そして、儂も臆病だった」
オリアスを殺した祖父は、保身のみを考えた。暗殺者をでっち上げ、目の前で兄を殺された可愛そうな弟を演じた。
祖父は、オリアスを殺したことについては後悔してないという。
オリアスは転生者だった。同じ転生者同士の、対等な争いだったのだ。オリアスは女神ドミナの寵愛を独占すべく祖父に刃を向け、祖父は命を守るべくオリアスを殺した。
しかし、自らの証言によって五十人もの人間が処刑されたことについては後悔したらしい。
「前世では無能な上官の理不尽な命令を憎んだこともあった。
その儂が無関係な五十人の命を奪ったのだ。
理不尽にもな。
儂は自らの行いに愕然とした。
思えば、政治家を目指したのも、そのできごとがきっかけであった。
……まぁ、それはまた別の話だ」
オリアスに殺されかけるまで、祖父は俺と同じく他の転生者の存在を知らなかったらしい。そして、これまた俺と同じく、最初に知った転生者に敵意を向けられた。
それ以来、祖父は他の転生者を恐れ警戒した。我が祖母にあたる妻にすら、結婚してしばらくするまで瞳を見せなかったという。
「しかし、その後何十年も転生者に出会うことがなかった。
親族の中に四白眼を持つ人間がいるか探したのだが、それも見つからなかった。
全て調べつくしたわけではないがな」
皇族のご落胤騒ぎは後を絶たない。庶子やその子孫まで含めれば、太祖アガレスの子孫は把握できないほど多いのだろう。
「主な皇族の中には転生者らしき人間はいない。
一方で、儂は皇帝の息子だったのだ。
その事実は儂を安堵させた。
年月を重ねるにつれ、いつしか転生者のことも、自分が転生したことも忘れていった。
だが」
「私やセエレが生まれた」
「そう、忘れた頃にセエレとお前が現れたのだ。
儂はお前やセエレが、オリアスと同じ考えを持っているのかもしれないと思った。
そして、確認するために探りを入れた。
お前に散々聞かせた転生話は、儂からお前へのアプローチだったのだ。
お前にもセエレにも、知らん顔されたがな」
ずっと話し込んでいた俺は、尻がしびれているのを感じた。我慢できず、少し腰を浮かせてみる。
「ははは、座り心地は悪かろう。
だが、儂の前世の世界は、生活の快適さを求めないような味気ない世界ではないのだ。
ここは兵舎だからな。座り心地の悪い椅子も、兵士を鍛えるためのものだそうだ」
「私には同意できかねる考え方です」
「ああ。
下らぬ精神論だと、儂も思う」
俺たちは秘密の部屋から出て、祖父の寝室で話を続けることにした。
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「お前やセエレに鎌をかけても、反応は芳しくなかった。
まぁ、お前についてはあまり危機感を持っていなかったがな。
身近にいるお前は、儂に対し何もしてこなかった。
それに、お前の慎重な性格も知っていた。
だが、セエレの考えはわからなかった。
奴が外面を取り繕っているのは誰が見ても明らかだったが、内面は掴めなかった」
誰が見ても明らかだった。
この言葉に兄の忠告を思い出す。俺やヴェスリーはセエレに騙されていたと憤慨したものだが、見る人が見れば胡散臭く感じられたのだろうか。
「お前とセエレは、魂は別としても、今生では生まれも立場も似ている。
だから、お前をセエレに会わせれば何か反応が返ってくると思ったのだ。
しかし、まさか、あの暗殺未遂を儂が仕組んだものだと考えていたとはな。
儂としては部下を処断したことを以って、他意がないことを伝えたつもりだったのだが。
普段、貴族や政治家どもを相手にしているときと同じように考えていたのだ。
これは職業病だな。
そして、儂もセエレも臆病が過ぎていた」
「最初は不幸なすれ違いだったのかもしれません。
ですが、セエレは自分の計画のためにヴェスリーを殺してもいいと言いました。
彼だって、中身は既に大人のはずです。
もはや、彼を説得し考えを改めさせるという段階ではありません」
理想を語るセエレだが、彼は結局のところ帝位を得てドミナを迎え入れることを考えていた。そのためには無関係な人間を殺すことも厭わないという。
同時に、彼は自分の死を恐れていた。随分と自己中心的な考え方に思える。
すれ違いがなくても、彼に賛同することはなかっただろう。
「うむ。
しかし、面倒な相手だ。
ただの人間相手ならば、刺客を放って終わりだろう。
だが、セエレを殺すことはできない。
セエレを殺すことは神の意に反することになるかも知れぬ」
「……お爺様は、その、既にオリアス・アンデルシアを葬っていますが」
「ああ。
未だ神の裁きは受けていないが、それは女神ドミナがまだ降臨していないからだろう。
儂はドミナによって裁かれるかも知れぬ。
だが、それにお前まで巻き込まれてはならぬのだ。
殺すとしても、女神ドミナが降臨し、その意志を確かめてからだ」
一呼吸間を置いた祖父は、俺の顔を見つめた。
「儂はお前こそ、女神ドミナに選ばれるべきだと思っている」
いつも笑顔なのか無表情なのかわからない祖父の顔が、本当に笑っているように見える。
「私が?」
「儂は生き疲れた。
昔は自分が選ばれることを考えもした。
だがな、儂はもうこの歳だ。
前世から持つ記憶を合わせれば、既に百年以上の年月を生きている。
儂は、生き疲れた」
「お爺様……」
「女神ドミナは自分の愛した男をこの世界に呼び戻したのだ。
孫のお前になら、女神の伴侶の地位も喜んで譲るよ」
祖父は前世で兵士をやっていた。多くは語ってくれなかったが、前世では兵舎に住んでいたという。おそらく、退役を迎えないまま死んだのだろう。
祖父は今生では、皇子として生まれた。この国で一番といっていいほど恵まれた地位に生まれた。しかし、彼は十歳で兄に殺されかけた。成人し、政治家になってからも、辛いことがあっただろう。今現在も政争の渦中に身を置いている。
「お爺様、私は前世の記憶を合わせれば四十歳になります。
私の中身は……」
「お前の言いたいことはわかるが、無用の言だ。
お前は儂の孫だ。
それは変わらぬ。
それに、四十歳ならば百歳の儂の孫としては釣り合いがとれるだろう」
自分を孫として受け入れてくれるか心配だった。でも、それは杞憂だったのだ。俺は祖父を疑った自分を恥じた。恥じて、涙を流した。
「なぜ泣くのだ」
「家族の愛情に、感動しました」
「大げさな子だ。本当に四十路か?」
「すいません」
祖父の貸してくれたハンカチで涙を拭う。
「私は、お爺様を疑っていました。
もしかしたら、本当に、他の転生者に対し敵意を持っているのではないかと。
私を孫として受け入れてくれないのではないかと」
「シトレイ。
それで、儂を疑って、何か策を講じなかったのか?」
「考えました。
考えてしまいました。
私は、お爺様の敵意が本物だったら、ヴェスリーを連れて国外に逃げるつもりでした。
エルム王国あたりに、ハイラール家の財産を持てるだけ持って亡命するつもりでした。
実は既に船を手配し、荷も積んであるのです。
ヴェスリーの元へ使いを出す手はずも整っていました」
「ははは!」
祖父は大きく笑った。
「それでいい。
だが、港まで逃げることができなければ、その用意も台無しになる。
せっかく従士を連れてきたのに、儂に言われるがまま自分から離してしまっては意味がないではないか」
祖父の寝室に向かう際、俺は従士たちに待機を命じていた。よくよく考えると「この場で話してはならぬ」と言われ、そのまま自然な流れで従士たちと別れたのだ。やはり、祖父は恐ろしい。敵に回してはいけないと思う。
「それに、サイファ家の娘を連れ出すつもりなら、事前に話しておくべきでもある。
土壇場になっては、ことは上手く運ばぬものだ。
詰めが甘いぞ、シトレイ」
祖父はしばらく笑い続けた。
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祖父と話し合い、今後の方針が決まった。
目標はセエレを失脚させること。
「セエレを殺すことはできぬ。
だが野放しにもできぬ。
彼にはずっと、牢に入っていてもらおう」
「はい。
……あの、兄上にもこのことをお話したいのですが」
以前、兄からセエレに気をつけろと忠告をもらったことがある。俺は兄の忠告を「偏見が入っている」と拒絶した。しかし、兄の忠告は正しかった。
ヴェスリーは他人の意見を鵜呑みにし、自分の目で俺を見ていなかったと言った。俺は逆だ。自分が感じたことのみを信じ、人の意見に耳を貸さなかったのだ。
兄に謝らなければならない。しかし。
「アーモンに話してはならぬ。
セエレを追い落とすまではな」
「……やはり、そうですよね」
皇族同士の争いである。負けた方は全てを失うだろう。この争いは、当事者が太祖アガレスの転生者であるがために起きている。家族ではあっても、兄は無関係な立場にある。
「セエレとの決着がついた後も、転生の話はだめだ。
話した方はすっきりするだろうが、聞いた方は巻き込まれることになる。
家族として兄を思いやる気持ちがあるのならば、話してはならぬ。
少なくとも、女神ドミナが降臨するまでは黙っておけ」
「こうして話せるのは、私とお爺様の間のみですか。
仲間は二人だけ。
中々厳しいですね」
「そうだな。
だが、儂は楽観視している。
セエレがお前を仲間に引き込もうとしたのは、儂とお前が手を結ぶことを恐れたのだろう。
奴が恐れたことが実現したのだ。
儂とお前はセエレの敵意を知り、そして手を結んだ。
お前が儂に転生のことを打ち明けてきた時点で、我々は勝ったも同然だ」
祖父は席を立つと、窓の方へ向かった。祖父がカーテンを開けると薄明かりが差してくる。既に夜が明ける時間らしい。俺と祖父は夜通し話しこんでいたようだ。
「必ず勝ちます。
私自身や友人たちや、ヴェスリーのためにも」
「うむ。
しかし、先ほどから聞いていれば、随分とサイファ家の娘に入れ込んでいるみたいだな。
そんなに大事か」
「ヴェスリーは良い子です」
「そうか。
結構なことだが、お前の伴侶はドミナだ。
忘れるでないぞ」
日が昇る前に、俺は祖父の屋敷を後にした。
徹夜したため疲れを感じる。
しかし、闇夜に紛れ、重い気持ちで祖父の屋敷に向かっていたときと違い、俺の心は朝日のように清々しかった。




