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異世界でも現実は厳しい  作者: 懐中電灯
ハイラール編
1/79

#001「プロローグ」

「では、お名前からお願いします」


 唐突に面接が始まった。

 真っ白い部屋に机が二つ。会議室で使用されるような折りたたみのできる長机と、これまた折りたたみのできるパイプ椅子だ。一つは自分が座っている。向かいのもう一つには面接官と思しき人物が座っている。

 面接官は三十代後半から四十代前半に見える。自分よりも一回り上だろう。

 痩身、七三わけでメガネ。紺色のスーツと、白のワイシャツ。暗めの青いネクタイ。一昔前の典型的なサラリーマンといった風貌だ。メガネは分厚いわけでもなく、光を反射しているわけでもない。なのに、何故か目元を伺うことができなかった。


「鈴木と申します。鈴木――――」


 俺が名乗った後、面接官は頷き、視線を下に落とした。見ると、面接官の机の上には一枚の紙が置いてある。この紙も、俺の座る位置から見える距離にあるはずなのに、中身を伺うことはできなかった。


「では鈴木さん。これから面接を行います。

 事前に情報を頂いていますので、

 私の質問することに答えていただければ結構です。

 といっても、断言してしまいますが、

 貴方を採用することは既に決まっています。

 ですから、どうぞリラックスしてお答え下さい」

「はい」


 と返事をしながらも、頭は混乱している。

 状況から察するに就職か何かの面接のようだが、俺は志願した覚えがない。面接官の見ている紙は履歴書か何かだろうか。こちらからはどうしても中身が見えないのでわからないが、もちろんそんなものを書いた記憶もない。


「鈴木さんは慶京大学をご卒業され、現在は塾講師をなされているのですか。

 大変ご優秀ですね」

「いえ、両親の意向で幼稚園から慶京に通っておりまして。

 そのまま大学まで内部進学したんです。

 それに、塾講師は、その、アルバイトでして」


 我ながら恥じる想いである。親が金を持っていたおかげで、大学までエスカレーター式に進学したものの、就職に失敗。何とか塾講師のアルバイトにもぐりこみ、既に三年目だ。


「大学では、史学科ですか。

 それで塾講師を?」

「はい。今は高校生を相手に日本史、世界史を教えています。

 昔から歴史が好きで、こういった職に就くことは夢だったので。

 まぁ、アルバイトですけど……いずれは正社員になりたいと思っています」

「そうですか。それは結構、結構」


 少し話して打ち解けたからか、最初は事務的に、機械的に話していた面接官の口調が、言葉遣いは丁寧なままだが軽くなってきた気がする。


「で、いずれは正社員になりたいということですが、裏を返せば、

 アルバイトとして生計を立てている現状には不満があるということですか?」

「それは、まぁ、そうですね。

 親も良い顔はしませんし……」


 少し濁したが、実際良い顔どころの話ではない。息子を有名大学の付属幼稚舎に入れて、そのまま大学まで私立一本で出してくれた親だ。

 親、特に父親。父親は大学の教授だった。兄も大学院まで進み、現在は大学の講師をしている。妹は一昨年公務員になった。対する俺は塾講師といってもアルバイト。

 厳格な父親だが、ドラマや映画に出てくるような頑固者ではない。最初は「こんなご時勢だから」と理解を示してくれた。だが、俺がアルバイト生活を一年、二年と続けていると、父親の俺を見る目が変わっていったのがわかった。

 決定的だったのは、昨年兄が結婚した時だ。公私共に順調な兄と比べたのだろう。また、兄の嫁はいわゆる良家のお嬢さんだった。向こうの家への遠慮があったのかもしれない。俺は兄の結婚式への出席を断られた。

 そして、俺は家を出た。


「それは幸い」

「え?」

「それは幸いと申し上げたのです。

 いえ、ね。変に未練を残されても、こちらも後味が悪いので」


 今まで無表情だった面接官が、少し笑ったように見えた。

 面接官のおかしな言動を目の当たりにして、俺は改めてこの面接の意味を疑った。白い部屋には窓ひとつない。部屋の中にいる二人と、机と、パイプ椅子以外、色がない。白い壁に囲まれているようだが、どうも壁までの距離感がつかめない。異様な部屋だ。面接官も異様だ。

 俺はハッとして、後ろを振り返った。俺の背後も、一面、白い壁だった。扉らしきものが見当たらない。俺はどうやってこの部屋に入ってきたのだろう。


「すいません、これは一体何の面接なんですか?

 俺は、いや、私は御社を志望した覚えがありません」

「それは、そうでしょう。

 この部屋にお連れすることはずっと以前から決まっていたことですから。

 時期だって、貴方が自ら望んだわけではありません。

 貴方は自殺したわけではなく、事故死したのですからね」

「は?」



============




 面接官、彼が自称するところの「神」の話では、俺は事故死したらしい。神から説明を受けると、俺も数十分前の出来事をだんだんと思い出してきた。


 アルバイトの帰り道、駅のホームで電車を待っていた俺は電車待ちの列の先頭でスマホをいじっていた。イヤホンを耳に挿し、アニメ動画を見ていたのである。いつもの息抜きだった。そこに、運悪く酔っ払いがふらつき、俺の後ろに並んでいた人間めがけて倒れこんだ。後ろに並んでいた人間も倒れ、俺はドミノ倒しのように前に押し出された。動画に夢中になっていた俺は、わけもわからないまま、勢いよくレールの上に投げ出された。そしてこれまた運悪く、たまたまやってきた快速電車に(ひか)かれたのだ。

 気がつくとこの部屋にいた。


 この展開は、どこかで見たことがある。ああ、前に読んだ漫画だ。

 電車に轢かれた主人公が、何故かマンションの一室にいたのだ。それで、黒いスーツを着て変な化け物、いや、異星人だったか、異星人相手に戦うストーリーだ。


「冗談じゃない!

 俺は戦わないぞ!」

「はい?」

「死んだなら、成仏させてくれ!

 俺は戦わない!」

「成仏?

 成仏はしていますよ」


 神の説明するところによると、魂が成仏していないと、この部屋には来ることができないらしい。

 「では、ここは天国なのか?」と尋ねると、神は「そうです」と肯定した。


 改めて部屋を見渡す。

 真っ白い部屋。何度見ても二組の机と椅子しかない。窓もなければ、出入り口もない。成仏した以上、ここで永遠に過ごさなくてはならないのだろうか。それじゃあ、ここは天国じゃない。地獄だ。


「そうともいいます。

 ただ、貴方が想像しているようなことにはなりません」

「どういうことですか?」

「輪廻転生、という言葉は知っていますか?

 仏教やヒンドゥー教の用語ですが、歴史が好きならご存知でしょう?」


 神の説明は続いた。

 基本的に、人間は輪廻転生を繰り返す。人間が死んで成仏すると、転生し、次の人生が始まるのだ。輪廻転生の流れは機械的で、通常、成仏したらすぐに転生する。だが、時おり神の判断によって、成仏した後にこの部屋に連れてこられるのだ。


「例えば、前世で大きな善行を残した者には、

 私が直接顕彰し、次の人生への門出を祝います。

 転生すると、前世の記憶はなくなりますが、この部屋での出来事は深層意識に残るのです。

 その者が次の人生でも善行を積めるようにサポートするような意味合いですね。

 反対に、前世で大きな悪行を働いた者には、相応の罰、責め苦を与えます。

 その者が次の人生で悪行を働かないように、

 罪を犯せば罰を受けるという意識を持たせるためです」


 ここまで聞いて、俺はすぐさま頭を巡らせた。俺はどっちだ。言うほどの善行なんて積んでないが、人の道にもとるような悪行だって犯していないはずだ。


「そう、貴方の場合はどちらでもありません。

 どちらにもぶれていません。

 極めてニュートラルなのです」

「ニュートラル?

 善行も悪行も同じくらいってことですか?」

「そういうことです。

 貴方の場合は生前に行った善行も悪行も微々たるものですが、

 そのバランスが素晴らしい。

 これだけニュートラルな魂なら、輪廻転生の流れへの影響は小さいはず。

 まぁ、そう調整したのは私ですが。

 この面接の一番の目的は、調整が上手くいったかの確認なのです。

 いやはや、上手くいってよかった。

 もし悪行が多かったら責め苦を与えるだけで済みますが、

 善行が多かったら――――」


 正直ついていけない。新興宗教の勧誘を延々聞かされるような気分だ。


「それなりの時間、私の世界を生きた貴方には愛情を感じます。

 ですから、輪廻転生の流れから切り離すことは苦渋の決断と言えますが――――」


 まったく頭に入ってこない。


「ただ、魂は、それぞれの世界の貴重な財産ですから――――」


 そういえば、この部屋に来てどのくらいの時間がたったのだろう。明日も仕事はあるのだ。早く解放してくれないだろうか。


「――――ですので、貴方の魂は貴方の魂のいるべき場所に戻ることが、

 自然といいますか、当たり前のことといいますか……」

「俺は、いつ、この宗教談義から解放されるんですか?」


 一瞬、面接官、いや神はピタリと沈黙した。が、すぐにふっと息を漏らし、メガネの位置をクイッと直した。


「質問がなければ、これで終わりです。

 が、向こうに着けば、質問したいことなんて山ほど湧いてきますよ。

 とりあえず、行きましょうか」


 その瞬間、目の前が真っ暗になった――――




============




 真っ暗だった。

 いや、周りが暗いという感じではない。これは目を瞑っている時の暗闇だ。だが、目を開くことができない。



(何で開かないんだ!)

「あー!ぇあああぁぁ!」


 しゃべろうとすると、しゃべれないことにも気づいた。何故か勝手に泣き声に変換される。何度試してもダメだった。


『貴方は生まれたばかりですよ。

 当たり前でしょう』


 神の声が聞こえた。


(どういうことですか?)

『先ほどご説明差し上げたでしょう?』


 白い部屋での、神を名乗る面接官の話は聞き流していた。早く帰れないかと、うんざりしながら流していた。だが、耳には入っていた。


(本当に転生したんですか?俺が?)

『ええ。貴方は、今、生まれたばかりです。

 まずはおめでとう、鈴木さん。

 いや、もう鈴木さんと呼ぶのもおかしいですね』


 未だに信じられない気持ちはあった。

 だが、一方で素直に転生した事実を受け入れてもいた。半信半疑というよりは、信が七割、疑が三割といったところか。死んだときの記憶はリアルだし、何より今現在、俺は目も開けられずしゃべることもできない。自分が赤ん坊になったからだ、と言われれば納得がいく。


「Oh,o,Uk oy ure tia n」

「Ikneg an ok ot ous ed」


 すぐそばから声が聞こえた。

 赤ん坊だからか、聴力に違和感を感じるが、確かに声が聞こえる。目が見えないが、声の近さから、すぐそばに人がいるのだろう。男女の声である。もう少し遠くからも人の声がする。周りには四?五人の人間がいるようだ。


『貴方のご両親ですね』


「Eama nah Sitray adi mikon eu itit on eama nar akat tar om」

「he,Uota giraus ami azog」


(外人か。面倒どころの話じゃないな)

『外人……確かに外人ですね。私の世界の外の人、という意味では』

(は?)


 新生児が目を開けるまでは個人差があるようだが、しばらくは真っ暗なままだ。しゃべることもできない。時間はたっぷりあった。この時間を利用して、白い部屋で聞き漏らした神の話をもう一度説明してもらった。


・約四〇〇年前、異世界、つまるところ今俺が生まれたこの世界から元いた世界、

 地球に一人の人間の魂が紛れ込んだ。

・お察しのとおり、それは俺である。

・地球にとっては輪廻転生の流れに異物が混ざっている状態であり、

 この異世界にとっては、魂がひとつ欠けた状態である。非常によろしくない。

・だから元に戻す。


『実は、貴方の前々々世ぐらいには、既に貴方の存在は発見していたのですよ』

(では、なぜ今になって?)

『それは、こちらの世界の神との約束がありまして。

 私と違ってこちらの世界の神は約四〇〇年おきにしか活動しないようなのです。

 自分が活動する時期に合わせて貴方を送り戻してくれ、と言われていましてね。

 まったく、もう少し神としての責務を自覚し、勤勉になってもらいたいものですね』


・神はそれぞれの世界にそれぞれ存在している。

・今、俺の生まれたこの世界の神はあまり勤勉ではないらしい。


『そういうわけで、貴方の「採用」は決まっていたのです。

 採用後の「配属」もね』


・善行にせよ、悪行にせよ、

 その人間の生前の行いは輪廻転生の流れに少なからず影響を与える。

・神は俺の運命を調整し、善行と悪行のバランスを保たせた。

・バランスを保たせることは、地球の輪廻転生の流れから切り離し、

 この異世界の輪廻転生の流れに混ぜる際に必要なことである。


『さきほどの白い部屋でも言いましたが、

 私の世界からこの世界に貴方を送り戻すため、

 貴方の善行と悪行、人生のバランスを調整させていただいたのです』

(調整したにしては、良い人生には思えませんでしたが)

『では、ひどい人生でしたか?』


 曲がりなりにも大学までは出て、学生時代を満喫できた。アルバイトではあったが、自分の好きな歴史を仕事にできた。家族とは疎遠だったが、友人はいた。

 あ、でも恋人はいなかったか。


『それが、バランスのいい人生というものです。

 良い人生ではなかったかもしれませんが、

 決定的にひどい人生というわけでもなかったでしょう?

 そんなものですよ』

(あ、じゃあ俺の人生が調整されていたものだとして、

 俺が事故死したのも貴方の調整の結果なんですか?)

『断言しますが、それは違います。

 こちらの神との約束は約四〇〇年後に送り戻してくれ、というものです。

 正直、こちらの神がいつ活動を始めるのか、正確にはわかりません。

 仮に、貴方があそこで事故死せず、あと五十年生き永らえたとしたら、

 私があの白い部屋にお連れしたのも五十年後だったでしょう。

 その場合も、私が貴方の運命を調整し続けますから、

 大きな悪行を働き深い後悔に苛まれることもなければ、

 大きな善行を行って喜びを得ることもない、

 五十年間を送っていただくことにはなりましたが』


 白い部屋で聞いたことを再び説明してもらった。

 善行だの悪行だの前世だの、普段耳にしない言葉が多すぎて、改めて聞いても、やっぱりうんざりする。だが、文字どおり生まれ変わった俺は、この世界でこれから生きていかなければならない。生きていくどころか、死んだ後の次の人生も。その次の人生も。


(そういえば、転生すれば前世の記憶はなくなるのでしょう?

 なぜ、俺は地球にいた頃の、前世の記憶を持っているのですか?)

『それは、今回の転生で私の世界からこちらの世界に移ってきた影響でしょう。

 こういった例はあまりないので、私も詳しくは存じ上げませんが。

 ただ、四〇〇年前のこちらでの記憶を、今までの貴方はお持ちではなかった。

 そうなると、前世の記憶を持ったままなのは、世界を移ってきた今回、

 この人生だけなのかもしれません』

(貴方は、こちらでも俺の善行と悪行のバランスに気を配るのですか?)

『それは、貴方をこちらの世界に送り出すために行ったことです。

 貴方は無事こちらの世界に転生することができました。

 もはや、私の手の届く範囲にはありません』


 完全に納得したわけではないが、これからここで生きていく以上、俺はこうなった理由ではなく、これからのためのことを問うことにした。


(貴方は、もう俺には干渉できないんですか?)

『私は、こちらの世界の神ではありませんから』

(では、こうして俺に助言を行っているのは?)

『白い部屋で、貴方は私の話を聞き流していましたからね。

 そのまま送り出して知らん顔するのも後味が悪いので』


 どうやら、神は世話好きらしい。


『といっても、こうして貴方の質問に答えるのも、もうすぐ終わりです。

 私も含め、神々は自分の世界が侵されることを嫌いますからね。

 これだけしゃべっていて、彼女が何も言ってこないのは、

 彼女がまだ活動していない証拠でもありますが』

(彼女?)

『こちらの世界の神は、女神ですよ。

 嬉しいでしょう?』

(もうすぐ終わりと言っていましたが、

 それなら時間切れになる前に重要なことを聞いておきたいのですが)

『なんでしょう?』

(剣と魔法、獣人ネコミミ、美少女奴隷はいるんですよね?)

『はい?』

(当然俺はイケメンなんですよね?

 生まれは貴族の息子でお願いします。大商人の倅でもいいです)

『ちょっと何言ってるかワカリマセン』




============




『つまるところ、

 剣と魔法と獣人ネコミミが存在する世界において、

 貴族のイケメン息子として生まれ、美少女の奴隷を(はべ)らせられるか、

 という貴方の質問、もとい願望についてですが』


 俺は目を輝かせて神の回答を待った。いや、まだ目は開かない。だが、それぐらい期待に胸を膨らませた。


『まず、剣と魔法と獣人ネコミミですが、

 剣、すなわち中近世ヨーロッパ風の風俗というのはクリアしています。

 魔法も、魔法という名前ではないようですが、存在しています。

 獣人ネコミミというのは……ないですね』


 及第点である。


『貴族のイケメン息子で美少女奴隷ですが、

 貴族の息子という点はクリアしています。

 実は、こちらの世界の神と約束したとき、色々と条件をつけられましてね。

 そのひとつに、約四〇〇年前のこちらの世界にいた頃の貴方、

 つまり貴方の前々々(中略)々々世の子孫の家系に

 転生させてくれという要望がありまして』


 どうも、女神様は要求が多い。


『四〇〇年前の貴方は、立派な人物だったらしく、

 その子孫は王侯貴族として続いているようです。

 ですから、貴族の息子という点はクリアです。

 しかし、貴方が転生した時点でこちらの世界の神が活動を始めていれば

 その調整は彼女の役割だったんですがね』


 要求された方の神は、うんざりしたような口ぶりだ。女神が話題に上る度、彼女に対する愚痴を織り交ぜてくる。


『まぁ、結局その辺も私が調整しました。

 私がこの調整をするか否かだけは、私も大いに迷いました。

 言い逃れようのない、この世界への干渉ですからね。

 ですが、この世界の神との約束もあったので、

 約束した以上は最後までやらせて頂くことにしたのです。

 ですから、私がこちらの世界に出向いて、

 生まれたばかりの貴方に少しぐらい助言するのも――――』


 そんな話はどうでもいい。とりあえず、貴族の息子はクリアだ。だとすれば……


『話がそれましたね。

 美少女奴隷の件ですが、この世界には奴隷制度がまだ残っているようなので、

 貴族の息子としての立場ならば、それもクリアしたようなものでしょう』


 よし!よしっ!


『で、イケメンかという点ですが、これはわかりません』

(待って下さい、そこが一番重要なところなんですが)

『彼女は家系の指定まではしましたが、

 顔立ちの指定まではしていませんでしたからね』

(何度も言いますが、それは、一番重要なところです。

 異世界でも、イケメンかブサメンかでは、

 人生の難易度が大幅に変わるに決まってるじゃないですか!)

『そう言われましても……。

 しかし、赤ちゃん姿の貴方は非常に可愛らしいですよ』

(赤ちゃんは可愛いに決まっているでしょう!

 イケメンじゃないなら、こんな右も左もわからない世界で生きていく自信が持てません。

 神様の力で何とかならないんですか?)

『先ほど申し上げたとおり、この世界にいる以上、私は貴方に干渉できませんよ。

 先ほどの、子孫の家系に生を受けるよう調整したのは、あくまで例外中の例外。

 あとは、せいぜい、今やってる助言が精一杯です』


 神と問答を続けていた最中、急に、視界が開けた。まだ、目を開けたばかりなので光しか見えない。


『時間切れですね。

 目が見え、自分でこの世界の情報を得ることができるようになった以上、

 貴方は、もうこの世界の一員です。

 これ以上私が関わるのは過剰干渉というもの。

 世界が違う以上、もう貴方と会うこともないでしょう。

 それでは、良い人生を送って下さい』

(ちょっと、まだ一番の大問題が――――)


 新生児の視力は0.01程度と聞いたことがある。目は開けたが、正直、光の明暗しかわからない。


 それから、俺は心の中で神に問いかけても、反応はなかった。

 どうやら、完璧に転生が成ったようだ。

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