静か
工場の煙が斜めに静止し明るくない暗くない空に同化してゆく
高く電波塔が微かに煌めきながら煙の中に息を吐き続ける
家並は昼間と何一つ変わらずに斑に浮かび上がる窓明かり道しるべ
春はまだ夜を暖めたくないからと冷やされてゆく癒やされてゆく
もう窓を閉めないと空気は混ざりあって気持ちが揺らいでしまう
今ならきっと飛び出して行けるのにこの皮を矧いで脱け出せるのに
浮動する心は何を求めるのだろうか こんなにも此所は静かなのに
夜に溶けてゆく 記憶の枠をゆるめ綺麗で優しい愛しき欠片たち
そのまま夜に溶かし続けたい 溢れるほどに素直な無垢な欠片たち
いつか溶かしきった夜をきっとそろり抱きしめにゆく だから今夜を許して
いつか溶かしきった夜をずっとほろり抱きしめにゆく だから私を許して