空きっ腹に毒
入学式から早いものでもう半年も経ってしまった。季節はすっかり秋、夏服もいよいよお役御免となった。冬服の方が重ね着してコーディネートを楽しめるから、ちょっとだけ嬉しい。ちょっとだけなのは、我が校には素晴らしい校則があって、セーターやカーディガンの色が五色に制限されているからだ。絶対この色、という厳しさでは無いけれど、何でも着て良いわけでは無い、中途半端な校則。何であるんだろう、多分先生も知らない。
私の通う高校はどの駅からも微妙に距離がある。徒歩圏内の通学者、それを追い抜く自転車通学者、さらにそれを追い抜くバス通学者。私はバス通学だ。折角の公共交通機関を使った登下校なのに、隣には誰もいない。誰かと一緒に登下校、なんて青春は幻想だった。友達がいないわけでは無い。高校に入ってたくさん、ではないけれど、でもちゃんと友達はいる。ただ、同じ駅を使う子がいないだけで。自分自身に言い訳じみたことをつぶやく。マイナーな路線の駅に向かう、乗客の少ないバス。必ず座れることを喜ぶべきか、嘆くべきか。
バスに揺られて二十分、到着。うっかり乗り続けないようにしないと。一人なので寝ていても誰も起こしてくれない。私が使うのは小さな駅なのでロータリーなんて無い。大通りのバス停から少し歩いて駅に向かう。視界の端に白と赤が映り込む。まずい、捕まった。
駅の手前のコンビニには苺のロールケーキの写真が載ったのぼり。私の目はすっかり囚われてしまった。酷い罠だ。当然のことながら、素通りなんてできるわけが無い。吸い込まれるようにコンビニへ入っていく。足取りに迷いは無い。何度もこのコンビニに捕まっているので、スイーツコーナーへは目をつぶっていてもたどり着ける。嘘。さすがに無理だ。
ショーケースには美味しそうなスイーツがずらり。眼福だ。どれにしようかな、音にせずに唇を動かす。先週はプリン、その前はティラミス、いや、それは先々週で先週はアイスだったかも。もはや常連客である。店員に顔を覚えられていないことを願うが、手遅れな気がする。食い意地の張った女子高生として認識されていそう。恥ずかしいけど、背に腹は代えられないというか、空腹を満たす方が重要事項だから、多分来週も来る。
結局家に帰る前に食べられる菓子パンを選んで、レジへ向かう。向かう途中で素敵な商品達が、私を買ってと誘惑してくる。あなたも素敵、あなたもいいわね、でもまた今度。彼らを躱してレジに辿り着く。いつもの店員が商品を通す。一つ280円。鞄をあさる。財布が出てこない。まって、まさか。嫌な汗が背中を伝う。財布、家に忘れてきた、かも。うん、置いてきたな、私。
店員に謝って商品を棚に戻し、ヨロヨロと店を出る。財布は確かに置いてきた記憶があるから、なくしてはいない。それは一つ安心。帰りの駄賃も定期があるから大丈夫。大丈夫、なのだけど。お腹がクルクル寂しげに鳴る。食べたかった。食べられないならせめて、あんなにじっくり見なければ良かった。目に、いや、空きっ腹に毒だ。




