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第9話 王子の揺れ

王城、東棟。


王子の執務室。


窓の外に王都が見える。

屋根が並び、旗が揺れている。


机の上には報告書。


【王国の抑止力として認定】


王子はそれを閉じた。


「……抑止力」


低く呟く。


側近が控えている。


「殿下。陛下の正式決定です」


「知っている」


短い返答。


王子は立ち上がる。


窓辺へ歩く。


「私は、怪物を断罪した」


「だが父上は、それを内に置いた」


沈黙。


側近は慎重に言う。


「民意は割れております」


「“守護神”と呼ぶ者もいれば、“災厄”と呼ぶ者も」


王子の指が窓枠を掴む。


白くなる。


「私は間違っているか?」


問いではない。


確認でもない。


揺れ。


側近は答えない。


答えられない。


王子は振り返る。


「王とは、秩序を守る者だ」


「恐怖であろうと、武であろうと、加護であろうと」


「制御できるものを使う」


一拍。


「だが、あれは制御できぬ」


側近が小さく言う。


「陛下は“理解する”と」


王子は笑う。


乾いた笑い。


「理解できぬものを、どう理解する」


沈黙。


机の上の報告書を再び開く。


“王国の抑止力”


その文字を見つめる。


「もしあれが王国を“選ばなかった”ら?」


側近の喉が鳴る。


「その時は……」


「その時は?」


王子の声が低くなる。


「父上は責任を取れるのか」


沈黙。


王子はゆっくり椅子に座る。


両肘を机に置く。


「私は、間違っていない」


だが声に力はない。


「怪物を危険と判断するのは、王族の義務だ」


扉が叩かれる。


騎士団の若い隊長が入る。


「殿下。騎士団内部でも意見が割れております」


王子の目が細まる。


「割れている?」


「“抑止力を支持する派”と、“危険視する派”です」


沈黙。


王子は静かに言う。


「危険視する者は、どれほどいる」


「……三割ほど」


三割。


決して少なくない。


王子は椅子から立つ。


「集めろ」


側近が息を呑む。


「殿下、それは」


「議論するだけだ」


冷静な声。


だが、奥に熱がある。


「王国の未来を、怪物一人に預けるわけにはいかぬ」


窓の外。


遠くで鐘が鳴る。


王子は目を細める。


「父上が理で選ぶなら」


「私は恐れで選ぶ」


一拍。


「どちらが正しいか、いずれ分かる」


沈黙。


王都は静かだ。


だが、


目に見えない亀裂が、確かに走っている。


王は覚悟を決めた。


怪物は選ぶ側に立った。


そして王子は、


まだ、揺れている。


折れてはいない。


だが、確実に。

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