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第8話 国王

王城、謁見(えっけん)の間。


高い天井。

赤い絨毯(じゅうたん)

両脇に並ぶ近衛騎士。


私は中央に立っていた。


ドレスの裾を整える。


玉座の上には、国王。


白髪混じりの黒髪。

年齢を感じさせるが、背は伸びている。


その目は、濁っていない。


静かに、観察している。


「公爵令嬢イレイザー・ルクレール」


低く、よく通る声。


「参りましたわ」


私は優雅に礼をした。


沈黙。


国王は言う。


「王都に、名が広がっている」


「“王国最強の血”と」


少し考える。


「光栄ですわ」


「光栄か」


声色は変わらない。


「では問う」


一瞬の間。


「お前は、王国をどう思う」


ざわり、と空気が揺れる。


側近が息を呑む。


私は顔を上げた。


「脆いですわね」


近衛騎士の指が、剣にかかる。


国王は、動かない。


「理由は」


「秩序が、恐怖に依存しているからですわ」


私は続ける。


「王子は名で支配し、騎士団は武で支え、神殿は加護で覆う」


「ですが」


「どれも、私には効きませんの」


静寂。


玉座の間の空気が、わずかに沈む。


燭台の炎が揺れ――


光が、ゆがんだ。


まるで熱に揺れる陽炎のように、


空間そのものが、波打つ。


石床が、かすかに軋む。


私は一歩、踏み出した。


――コツ。


ただの足音。


だが、空気が押し潰される。


近衛騎士が膝をつく。


もう一人が、歯を食いしばる。


壁にかけられた紋章旗が、音もなく裂けた。


国王は、立ったままだ。


微動だにしない。


視線は、逸らさない。


その手の甲に、血管が浮き上がる。


白く、くっきりと。


それでも、玉座の前に立ち続ける。


私は首を傾げた。


「……お強いですわね」


国王は答える。


「王である前に、人であるからな」


声は揺れない。


重圧が、さらに増す。


燭台が軋み、


空気が震え、


光がわずかに遅れて見える。


それでも。


国王は、折れない。


やがて、私は圧を引いた。


空気が一気に軽くなる。


燭台の炎が安定する。


ゆがんでいた光が、元に戻る。


近衛騎士が荒い息をつく。


国王は、ゆっくりと拳を開いた。


浮いていた血管が、静かに引いていく。


「確かに、王国は脆い」


「だからこそ問う」


「お前は壊す側か、支える側か」


私は考える。


少しだけ。


「どちらでもありませんわ」


「では何だ」


私は微笑んだ。


「選ぶ側ですの」


沈黙。


国王の目が、わずかに細まる。


「国を、選ぶと?」


「ええ」


「この国は、まだ使えますもの」


側近が青ざめる。


国王は、小さく笑った。


「なるほど」


「災害ではないな」


「兵器でもない」


一歩、玉座から降りる。


近衛騎士が慌てる。


国王は私の前に立った。


距離、三歩。


「ならば提案だ」


「抑止力として、内に置く」


「敵ではなく、均衡として」


私は瞬きを一つ。


「条件は」


「王家は、恐怖で統治しない」


「お前も、恐怖で壊さない」


静寂。


私は国王を見つめた。


この人は、折れない。


負荷を受けてなお、立っている。


「……面白いですわね」


私は小さく笑う。


「試してみましょう」


国王が頷く。


「よかろう」


その瞬間。


謁見の間の空気が、安定する。


揺れていた燭台が止まる。


裂けた旗が、静かに垂れる。


側近が小さく呟く。


「……軽い」


国王は言う。


「名を与える」


「イレイザー・ルクレール」


「王国の抑止力として、認定する」


私は礼をした。


「承りました」


玉座へ戻る国王の背中は、まっすぐだ。


私は思う。


――この国、壊すには、まだ惜しいですわね。


そして、静かに微笑んだ

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