第6話 国家災害指定案
王城、地下戦略室。
分厚い石壁。
魔導結界。
遮音術式。
机の中央には報告書。
【訓練場消失】
【隣国精鋭壊滅(接触なし)】
沈黙。
宰相が言う。
「対象を“国家災害指定”する案を提出します」
騎士団長が睨む。
「理由は」
「制御不能の可能性」
財務卿が震えた声で言う。
「王都の保険料が三倍になりました」
「商会が撤退を検討しております」
神殿代表が静かに告げる。
「聖女の加護は、彼女に干渉できませんでした」
空気が変わる。
騎士団長が低く言う。
「……神の外か」
宰相が続ける。
「よって、国外追放」
その瞬間。
――ズン。
会議室の空気が沈んだ。
誰も動いていない。
だが、重い。
財務卿が椅子にしがみつく。
「な……」
騎士団長が歯を食いしばる。
「結界が……軋んでいる」
神殿代表が青ざめる。
「ここは王城地下、七重結界の内側です」
もう一段、重くなる。
――ズシン。
天井の燭台が揺れる。
宰相が叫ぶ。
「何が起きている!」
騎士団長が答える。
「方向がない」
「攻撃ではない」
「……ただ、重い」
国王は立ったまま、微動だにしない。
静かに言う。
「彼女は、今どこにいる」
側近が震える声で答える。
「……ルクレール邸にて、就寝中と」
沈黙。
重圧が、さらに増す。
財務卿が床に膝をついた。
「こ、これは……」
騎士団長が低く言う。
「敵意ではない」
「……波動だ」
神殿代表が囁く。
「存在が、こちらに触れている」
国王がゆっくり口を開く。
「災害とは何だ」
重圧の中でも、声は静か。
「洪水は止められる」
「火山は避難できる」
「だが」
国王は机を叩いた。
「これは“止める対象”ではない」
一瞬。
重圧が止まる。
嘘のように、軽くなる。
全員が荒い息をつく。
宰相が震えながら言う。
「……まさか」
騎士団長が低く言った。
「会議の議題に反応した」
神殿代表が目を閉じる。
「災害指定を検討した瞬間、圧が強まりました」
沈黙。
国王はゆっくり言う。
「彼女は災害ではない」
一拍。
「国家均衡装置だ」
誰も反論できない。
国王は続ける。
「敵に回せば、国は沈む」
「内に置けば、戦争は起きぬ」
騎士団長が理解する。
「抑止力……」
国王が頷く。
「名を与える」
「災害ではない」
「抑止力だ」
宰相が問う。
「制御は」
国王は静かに言った。
「制御するのではない」
「理解する」
窓のない地下室。
だが誰もが感じていた。
王都全体が、
わずかに軽くなったことを。
まるで――
会議の結論に、
満足したかのように。




