第23話 灰
王都。
港湾区。
朝。
煙。
まだ残っている。
倉庫街。
黒い柱。
崩れた梁。
灰。
風が吹く。
焼けた麦の匂い。
兵士が言う。
「……全部だ」
沈黙。
団長が灰を踏む。
靴の下で、
炭が砕ける。
「帝国の倉庫だ」
一拍。
「もう無い」
灰が舞う。
空へ。
中央市場。
昼。
ざわめき。
人。
商人。
客。
声が飛ぶ。
「食料が燃えた!」
「王都が飢える!」
別の声。
「違う」
沈黙。
穀物商が言う。
「帝国の倉庫だった」
一拍。
「独占だ」
群衆が揺れる。
誰かが言う。
「均衡だ」
別の声。
「均衡が燃やした」
沈黙。
誰も笑わない。
商会連合。
円卓。
静か。
穀物商が言う。
「値が戻り始めている」
兵站商。
「独占が消えた」
沈黙。
保険組合の男が呟く。
「……均衡市場だ」
誰も否定しない。
帝国。
黒曜宮。
長い机。
報告書。
皇太子が読む。
蝋燭の火。
小さく揺れる。
側近が言う。
「倉庫は全焼」
沈黙。
皇太子。
「予想外だ」
一拍。
紙を閉じる。
「だが正しい」
側近が目を上げる。
皇太子。
「独占は弱い」
窓の外。
西。
王国の方向。
小さく言う。
「均衡は、独占を嫌う」
微笑む。
「面白い」
ルクレール邸。
夕方。
庭。
灰が降る。
ほんの少し。
執事が言う。
「倉庫の灰です」
私は紅茶を持つ。
空を見る。
灰。
小さく舞う。
「まあ」
一拍。
「遠くまで飛びますのね」
執事。
「市場は静かになりました」
私は頷く。
「ええ」
カップを置く。
音。
静か。
「市場は燃えるものですわ」
沈黙。
遠く。
王都。
ざわめき。
誰かが言う。
「均衡だ」
別の声。
「均衡が選んだ」
灰が舞う。
王都の空気は。
ほんの少しだけ。
軽くなっていた。




