第2話 団長VS悪役令嬢
ルクレール邸。
応接室。
伯爵が硬い顔で座っている。
「昨日の件ですが」
私は紅茶を口に運ぶ。
「王宮の修復費用が、かなりの額に」
なるほど。
「責任の所在について、議論が出ております」
圧力ですわね。
「わたくしに、賠償を?」
「いえ、直接ではなく――」
ドン!!
扉が開く。
王国騎士団、隊長。
鎧姿のまま、こちらを睨んでいる。
「イレイザー・ルクレール」
空気が変わる。
「王宮破壊の件、事情を聞かせてもらう」
私は立ち上がる。
「もちろんですわ」
騎士隊長が言う。
「あれは過剰防衛だ」
「反逆と見なされてもおかしくない」
私は少し考える。
「では」
一歩、近づく。
その瞬間。
窓ガラスが、かすかに鳴った。
騎士隊長が眉をひそめる。
「……何だ?」
私は微笑む。
「証明いたしましょうか?」
「何をだ」
「反逆の意思がないことを」
私は手を伸ばす。
触れる前。
鎧が、軋んだ。
――ミシッ。
騎士隊長の目が見開かれる。
私はまだ触れていない。
鎧の胸部が、ゆっくりと凹む。
空気が沈む。
伯爵が椅子を掴む。
「なに……」
私は首を傾げる。
「本気で反逆するなら」
さらに一歩。
床が、わずかに沈む。
騎士隊長の膝が震える。
「王宮程度では済みませんわ」
私はそっと肩に触れる。
――バキン。
鎧が割れる。
だが騎士隊長は倒れない。
歯を食いしばる。
「……それでも」
低い声。
「王国騎士だ」
良い目ですわね。
私は圧を、ほんの少し強める。
音が遅れる。
壁の絵画が、ずれる。
騎士隊長の足元が沈む。
それでも、立っている。
私は圧を引いた。
空気が軽くなる。
騎士隊長が膝をつく。
だが土下座はしない。
「……敵対の意思は、ないと理解した」
私は微笑む。
「助かりますわ」
その時。
執事が入ってくる。
「お嬢様」
「何かしら」
「屋敷の結界が、先ほど一瞬だけ軋みました」
私は少し考える。
「……王城まで届いたかもしれませんわね」
騎士隊長が顔を上げる。
「何がだ」
私は紅茶を飲む。
カップに、細い亀裂が入る。
「ただのご挨拶ですわ」
静寂。
騎士隊長は立ち上がる。
「……報告は正確に行う」
私は頷く。
「ええ。誤魔化さずにしてくださいませ」
扉が閉まる。
伯爵が震えた声で言う。
「お前は……なんなんだ……」
私は少し考える。
「イレイザー・ルクエ―ルですわ」
「それ以上でもそれ以下でもありませんの」
そして微笑んだ。
「ですが、壊すかどうかを決めるのは、私ですわ」




