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第18話 均衡の刃とイレイザー

王都。


大神殿前。


昼。


鐘。


人。


ざわめき。


階段の下。


男が押さえつけられている。


仮面。


胸元の紙。


「均衡は保たれた」


神殿騎士が剣を突きつける。


「異端だ」


男が笑う。


「均衡だ」


群衆が騒ぐ。


「悪い商人だ!」


「均衡が裁いた!」


「神殿が邪魔するな!」


怒号。


石が飛ぶ。


神殿騎士が盾を上げる。


剣が抜かれる。


広場が割れる。


その時。


人の波が止まる。


誰かが歩いてくる。


音は小さい。


だが。


空気が、わずかに沈む。


ルクレール。


群衆が静かに割れる。


私は男の前で止まる。


仮面の男が言う。


「来たか」


一拍。


「我らは均衡だ」


沈黙。


私は紙を見る。


「均衡は保たれた」


少し首を傾げる。


「……そうかもしれませんわね」


広場が凍る。


神殿騎士。


聖女。


群衆。


誰も動かない。


男が笑う。


「聞いたか」


「均衡は我らだ」


私は言う。


「ですが」


一拍。


「雑ですわ」


沈黙。


男の笑みが止まる。


私は周囲を見る。


市場。


神殿。


群衆。


静かな声。


「市場を壊しなさい」


凍る。


男の目が揺れる。


仮面の奥で、息が止まる。


群衆も、動かない。


神殿騎士の剣先が、わずかに下がる。


聖女が、私を見る。


私は続けない。


それだけ。


それだけで、十分。


沈黙。


長い。


やがて男が言う。


「……市場?」


声が低い。


理解していない。


私は男を見る。


「ええ」


一拍。


「人を壊しても、値は動きますもの」


広場が静かだ。


誰も笑わない。


私は指先で、紙を持ち上げる。


「均衡は保たれた」


小さく読む。


そして。


紙を男の胸に戻す。


「均衡は、人ではなく仕組みに触れますの」


神殿騎士が息を呑む。


群衆がざわめく。


男が言う。


「では……」


声が揺れる。


「どうすれば均衡になる」


私は少し考える。


ほんの一瞬。


そして言う。


「値が動く場所」


「流れが集まる場所」


「そこが、均衡の針ですわ」


一拍。


「そこを壊せばいい」


沈黙。


男の肩が震える。


神殿騎士が剣を握る。


聖女が一歩、階段を降りる。


白い衣。


風が揺らす。


聖女が言う。


「それは罪です」


静かな声。


広場に落ちる。


私は聖女を見る。


「でしょうね」


一拍。


「ですが罪と均衡は、別ですわ」


群衆がざわめく。


聖女の目が細くなる。


「神は人を裁かせません」


私は答える。


「均衡も裁きません」


沈黙。


「ただ重くなるだけです」


その瞬間。


仮面の男が、膝をついた。


神殿騎士が押さえたわけではない。


力が抜けた。


男が呟く。


「……軽い」


紙を見る。


「均衡は保たれた」


そして。


ゆっくり首を振る。


「違う」


広場が静まる。


男が言う。


「これは……軽い」


沈黙。


私は何も言わない。


ただ、男を見る。


男の肩が落ちる。


仮面が、床に落ちる。


乾いた音。


誰も拾わない。


私は振り返る。


歩き出す。


群衆がまた、道を開ける。


誰も命じていない。


ただ、開く。


聖女が背後で言う。


「あなたは均衡を導いている」


私は止まらない。


「いいえ」


一拍。


「均衡が勝手に重くなっているだけですわ」


鐘が鳴る。


広場はまだ静かだ。


だが。


さっきまでの「均衡」という言葉は、


少しだけ。


重くなっていた。

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