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第17話 均衡の刃と神殿

帝都。


黒曜宮。


夜。


長い机。


灯りは低い。


帝国皇太子が座っている。


側近が報告書を差し出す。


「王都の私刑事件」


皇太子は読む。


三件。


同じ手口。


同じ紙。


「均衡は保たれた」


紙を机に置く。


沈黙。


「早いな」


低い声。


側近が問う。


「我らの操作ではありません」


「知っている」


皇太子は立つ。


窓の外。


帝都の灯。


静かだ。


「均衡は思想になる」


一拍。


「思想は信仰になる」


側近が言う。


「王国は不安定化します」


皇太子は首を振る。


「まだだ」


地図の王都に印を置く。


「これは自然発生」


「だから価値がある」


沈黙。


「資金を流せ」


側近が顔を上げる。


「どこへ」


皇太子は即答する。


「神殿」


沈黙。


「聖女派へ寄進」


「研究費」


「巡礼支援」


「祭祀の再建」


側近の眉が動く。


「宗教ですか」


皇太子は頷く。


「思想を止めるのは思想だ」


一拍。


「均衡が神になるなら」


指が机を叩く。


「神が均衡を否定する」


沈黙。


「王国は二つの信仰に割れる」


側近が低く言う。


「均衡派と神殿派」


皇太子は微笑む。


「戦ではない」


「選択だ」


窓の外。


夜空。


「怪物は、どちらに重くなる」


蝋燭の炎が揺れる。


「観測する」


王都。


大神殿。


白い石。


高い柱。


祈りの香。


聖女が立っている。


若い。


だが視線は澄んでいる。


神官が報告する。


「北区の私刑」


「“均衡の刃”を名乗る者」


聖女は目を閉じる。


沈黙。


祈る。


長く。


やがて目を開く。


「神託はありません」


神官が戸惑う。


「では……」


聖女は言う。


「だからこそです」


一拍。


「神は沈黙している」


静かな声。


「ならば人が判断する」


沈黙。


聖女は祭壇へ歩く。


振り返る。


「均衡という言葉」


「それは神の言葉ではありません」


神官が息を呑む。


「ただの、人の言葉です」


一拍。


「人の言葉で人を裁くなら」


声が強くなる。


「それは罪です」


沈黙。


神殿の空気が張る。


聖女は言う。


「明日」


「布告します」


神官が震える。


「均衡を……異端と?」


聖女は頷く。


「神の名なき裁きは、裁きではない」


一拍。


「ただの暴力です」


香が揺れる。


「神殿は沈黙しません」


王都。


市場。


昼。


人が多い。


商人。


農民。


兵士。


鐘が鳴る。


神官が布告を読む。


「均衡を名乗る裁きは」


「神の法に反する」


ざわめき。


「神殿はこれを異端と認める」


沈黙。


言葉が落ちる。


市場がざわつく。


「異端?」


「均衡が?」


「だが悪い奴は……」


議論。


噂。


疑い。


言葉がぶつかる。


均衡。


神。


どちらが正しい。


誰も分からない。


だが。


街は割れ始める。


ルクレール邸。


応接室。


午後。


私は紅茶を飲んでいた。


執事が入る。


「神殿が布告しました」


「均衡思想を異端と」


沈黙。


カップの表面が、


わずかに揺れる。


圧ではない。


だが重い。


私は小さく笑う。


「……早いですわね」


執事が問う。


「帝国の動きでしょうか」


私は首を振る。


「分かりませんわ」


だが。


胸の奥が、


少しだけ重い。


均衡。


信仰。


否定。


否定された瞬間。


均衡の針が、


わずかに傾いた。


私は窓の外を見る。


王都。


静かだ。


だが。


今、


均衡と神が、


同じ街に立った。

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