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第14話 王子の一手

王城、東棟。

王子の執務室。


夜。


灯りは一つだけ。

窓の外に、王都の灯が瞬いている。


机の上には地図。


王国。

帝国。

国境線。


王子は立っていた。


「……父上は理を選んだ」


静かな声。


「怪物は均衡を選んだ」


沈黙。


指が帝国の紋章に触れる。


「ならば私は」


わずかに、迷いが滲む。


「疑いを選ぶ」


扉が叩かれる。


「入れ」


入ってきたのは、側近と、黒衣の男。


顔は影に隠れている。


王子は黒衣を見た。


「名は」


「ございません」


「結構だ」


王子は封書を差し出す。


封蝋はまだ押されていない。


「帝国宰相へ渡せ」


側近が息を呑む。


「殿下、それは」


王子は静かに言う。


「宣戦ではない」


一拍。


「確認だ」


黒衣が封書を受け取る。


「内容は」


「抑止力の存在と、王国の新方針」


王子の目が細まる。


「そして」


声が低くなる。


「帝国にも“同様の存在”がいるのかを問え」


沈黙。


側近が震える声で言う。


「もし帝国が利用しようとすれば」


王子は窓の外を見る。


「その時は、父上の理が正しかったと証明される」


「もし利用しなければ?」


「均衡は安定する」


黒衣が問う。


「もし帝国が、抑止力を恐れぬ場合は」


王子はしばらく答えなかった。


そして、小さく呟く。


「もし怪物が父を選び続けるなら、」


視線は王城の屋根の向こう。


「私は何になる」


側近が息を止める。


王子は封蝋に印を押した。


王家の紋章。


「これは裏切りではない」


静かな宣言。


「王国を守るための確認だ」


黒衣が跪く。


「承知」


立ち上がる。


「今夜、発ちます」


扉が閉まる。


静寂。


王子は椅子に座る。


両肘を机につき、指を組む。


「怪物」


低い声。


「お前が選ぶなら」


一拍。


「私も選ぶ」


――


王都北区。

ルクレール邸。


応接室。


私は紅茶を飲んでいた。


圧は出していない。


出す理由がない。


だが。


カップの縁に、わずかな波紋が揺れる。


――トン。


何かが、傾いた。


遠い。


王都の外。


国境の、その先。


胸の奥が、ほんの少しだけ重い。


「……?」


執事が問う。


「何か」


私は首を傾げる。


「いえ」


だが、均衡の針が、わずかに震えた。


外。


まだ敵と定めただけの帝国。


そこから、


“視線”が返ってきたような気がした。


――


帝国、黒曜塔。


高い尖塔。


夜空を裂く影。


塔の最上階。


一人の男が、静かに報告書を読んでいる。


蝋燭の炎が揺れる。


紙には、王国の紋章。


「抑止力、か」


低い声。


机の上の水盤に、指を落とす。


水面が、わずかに歪む。


だがその歪みは、広がらない。


男は目を細める。


「均衡装置……面白い」


窓の外、王国の方角を見る。


遠い。


だが。


空の一点が、かすかに重い。


「王子が動いたな」


微笑む。


「ではこちらも」


蝋燭の炎が、縦に伸びる。


一瞬だけ。


「物語を整えよう」


闇が、静かに揺れた。


まだ戦はない。


だが。


王国の均衡は、


確実に、


観測された。

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