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第13話 イレイザーの選択

王城、小会議室。


玉座はない。


円卓。


国王。

宰相。

騎士団長。

神殿代表。


そして私。


重くはない。


圧は出していない。


国王が言う。


「騎士団との件は報告を受けている」


私は頷く。


「忠誠は受け取りませんでしたわ」


「だが均衡は傾きかけた」


「ええ」


静かな確認。


国王は問う。


「それで、条件とは何だ」


私は指を組む。


少しだけ、笑う。


「敵を作りなさい」


沈黙。


宰相が眉を寄せる。


「……何だと」


「明確な敵ですわ」


私は続ける。


「抑止力とは、向ける先があってこそ意味を持つ」


「内に置くなら、外に定める」


空気が張る。


騎士団長は黙っている。


理解している。


宰相が言う。


「戦を望むのか」


私は首を傾げる。


「いいえ」


一拍。


「戦を起こさぬために、敵を定めるのですわ」


神殿代表が小さく言う。


「仮想敵国……」


「ええ」


私は頷く。


「帝国でも、ヴァルディアでもよろしい」


「名を与えなさい」


国王の目が細まる。


「敵を作れば、敵も作られる」


「当然ですわ」


私は静かに言う。


「ですが今の王国は」


「内に恐怖を向けております」


一拍。


「王子は私を恐れ」


「商会は不確定を恐れ」


「民衆は噂を恐れている」


「恐怖が内に向けば、腐りますわ」


沈黙。


重い。


だが今回は圧ではない。


理屈の重さ。


私は続ける。


「外に向けなさい」


「敵を定義する」


「私はそこに向く」


宰相が低く言う。


「それは冷戦だ」


「結構ですわ」


私は微笑む。


「冷たい戦のほうが、美しい」


騎士団長が口を開く。


「敵を定めれば、軍は動きやすい」


「商会も、契約を結びやすい」


神殿代表が呟く。


「民も、安心する……」


国王は立ち上がる。


ゆっくり歩く。


私の前で止まる。


「お前は戦を知っているな」


「いいえ」


私は静かに答える。


「物語を知っているだけですわ」


一拍。


「敵なき物語は、内側から崩れますもの」


沈黙。


国王の目が揺れる。


これは危険な提案だ。


だが。


理にかなっている。


「どこを敵にする」


私は即答しない。


窓の外を見る。


遠くの空。


「帝国がよろしいのではなくて?」


宰相が息を呑む。


「最大の軍事国家だ」


「ええ」


私は笑う。


「最大であるほど、抑止力は映えますわ」


沈黙。


国王は長く息を吐く。


「敵を定めれば、退路はない」


「ございますわ」


私は言う。


「敵が攻めぬ限り、私は動きませんもの」


静かな確信。


国王は目を閉じる。


そして言う。


「……仮想敵国を帝国とする」


宰相が震える。


「陛下」


「内の恐怖を、外へ向ける」


低い声。


「だが宣戦ではない」


「抑止だ」


私は微笑む。


「それで十分ですわ」


空気が変わる。


決定の重さ。


神殿代表が小さく呟く。


「均衡が……外へ」


騎士団長は静かに頷く。


私は立ち上がる。


扉へ向かう。


国王が背に言う。


「なぜそこまで国に介入する」


私は振り返らない。


「悪役ですもの」


一拍。


「舞台が壊れては、困りますわ」


扉が閉まる。


その日。


王国は静かに、敵を定めた。


まだ戦はない。


だが均衡は、外へ向いた。


王子は知らない。


自分が恐れていた怪物が、


王国の盾になったことを。


そして。


帝国はまだ知らない。


その名が、

静かに標的に選ばれたことを。

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