第10話 騎士団の選択
王城、騎士団本部。
石造りの会議室。
円卓。
壁に掲げられた王国の紋章。
騎士団長が立っている。
その前に、隊長格が並ぶ。
空気は重い。
団長が言う。
「王子殿下より通達があった」
机に書簡を置く。
「“抑止力への警戒を強化せよ”」
沈黙。
若い隊長が口を開く。
「警戒とは、監視ですか」
「実質はそうだ」
ざわり、と空気が動く。
別の隊長が低く言う。
「我らは王の剣だ」
「だが、陛下は抑止力を認定された」
団長は頷く。
「そうだ」
一拍。
「陛下の決定と、殿下の不安」
「どちらを優先する」
沈黙。
誰も軽くは答えられない。
若い隊長が言う。
「私は……あの圧を受けました」
部屋が静まる。
「敵意はなかった」
「だが、あれは嘘をつけぬ力だった」
別の隊長が続ける。
「我らが敵になれば、王都は半日も持たぬ」
「だが味方であれば、戦は起きぬ」
団長はゆっくりと目を閉じる。
思い出している。
謁見の間。
立ち続けた王。
圧を引いた令嬢。
あの瞬間。
「……騎士団は、恐怖で動かぬ」
低く言う。
「我らが守るのは王国だ」
「個人ではない」
沈黙。
だが、全員が理解している。
王国の均衡に、
彼女は組み込まれた。
団長は続ける。
「抑止力を監視するのではない」
「王国を監視する」
若い隊長が顔を上げる。
「王国を?」
「我らが脆くなれば、あれは動く」
「ならば脆くならぬことが、我らの役目だ」
空気が変わる。
それは忠誠の再定義。
王子の不安ではない。
王の覚悟でもない。
騎士団自身の選択。
団長は剣に手をかける。
「騎士団は、王国の均衡を支持する」
明言。
それは、
実質的に。
ルクレール派。
若い隊長が小さく笑う。
「敵に回す気は?」
団長は即答する。
「愚かだ」
一拍。
「敵に回せば、戦ではない」
「滅びだ」
沈黙。
円卓に手が置かれる。
次々に。
言葉はない。
だが、傾きは決まった。
その夜。
王子のもとへ報告が届く。
【騎士団、抑止力支持】
王子は書簡を握りしめる。
紙が、わずかに皺になる。
王は理を選び。
騎士団は均衡を選び。
王子は――
まだ、決めきれない。
王国の剣は、
静かに、傾いた。




