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第1話 婚約破棄

「イレイザー・ルクレール! お前との婚約を破棄する!」


パーティ会場でイレイザーは王子にそう言われた。


ざわめき。


ため息。


同情。


期待。


――はい、断罪イベントですわね。


前世の記憶がある。


乙女ゲーム。


悪役令嬢。


この後私は、追放され、家は没落し、国外送り。


決まっている流れ。


私はゆっくりと顔を上げた。


「理由を、お聞きしても?」


王子の隣。


平民出身の聖女が、涙を浮かべている。


「怖いん……です……イレイザーが……」


貴族たちが頷く。


証拠はない。


だが物語は、証拠など求めない。


私は少し考えた。


――破滅回避(はめつかいひ)


いいえ。


悪役が破滅を恐れるなど、物語に失礼ですわ。


私は微笑む。


「承知いたしました」


王子が勝ち誇る。


「ようやく分かったか!」


「婚約破棄、お受けいたしますわ」


会場がざわつく。


王子が笑う。


「ではこれで――」


「ただし」


私は一歩、踏み出した。


――コツ。


その瞬間。


燭台(しょくだい)の炎が、横に流れた。


誰も触れていない。


空気が、わずかに沈む。


もう一歩。


――ミシッ。


床ではない。


音が、遅れた。


拍手の残響(ざんきょう)が、半拍ずれる。


私は首を傾げる。


「殿下」


さらに一歩。


光が、ゆがむ。


シャンデリアの輝きが、波打つ。


大理石が――


バキン。


一直線に裂けた。


悲鳴。


後ずさる貴族。


王子の顔から血の気が引く。


「な、何をしている!」


私はにこやかに言う。


「決闘を、お申込みいたしますわ」


沈黙。


「は?」


「名誉を傷つけられましたもの」


私は手袋を外す。


その瞬間。


会場の空気が、落ちた。


重い。


息が詰まる。


衛兵が駆け出す。


三人。


槍を構える。


私は、軽く踏み出した。


――ドォン。


床が沈む。


衛兵が、地面に叩きつけられる。


触れていない。


触れていないのに。


壁に亀裂が走る。


シャンデリアがきしむ。


誰も動けない。


私は足元を見る。


「あら」


小さく息をつく。


「また、壊れてしまいましたわ」


王子が震える。


「ば、化け物……」


私は静かに言った。


「殿下」


一歩。


音が、消える。


「まだ、続けますか?」


王子は崩れ落ちた。


静寂。


貴族たちの視線が変わる。


恐怖。


敬意。


そして理解。


私は優雅(ゆうが)に礼をした。


「婚約破棄、正式に受理いたしますわ」


(かかと)を返す。


扉を押す。


取っ手が、音もなく砕ける。


「あら」


少し考える。


「……建て直しが必要ですわね」


夜風が頬を撫でる。


破滅?


いいえ。


物語のほうが、私に耐えられなかっただけ。


私は空を見上げる。


王都の灯り。


まだ脆い。


――まずは、均衡を崩してみせますわ。

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― 新着の感想 ―
出だしから強すぎて笑ってしまいました。最高
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