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プロローグ

カクヨムにも掲載しています

恋愛漫画において、幼馴染という要素は必要不可欠だ。


理由は単純。

恋愛へと繋げやすいからである。


物語の最序盤から、メインヒロインとして登場してもよし。

あるいは、ヒロインに立ちはだかるライバルとして配置してもよし。


中盤になってから現れ、盤上をかき回した末に、

ヒロインの踏み台としてその役目を終える。


いわゆる()()()()として投入されたとしても、

幼馴染という立ち位置は、違和感なく機能する。


まさに──

物語を動かすための完成された駒である。


ゆえに。


閉塞感に沈みきった伊勢 辰馬(いせ たつま)の人生においても、

それはまた、必要不可欠な存在であった。



§



青春のど真ん中。

華の高校生活、その最初の夏休み。


辰馬は自宅に引きこもり、惰性をむさぼる日々を過ごしていた。


「ふぁぁ……もう13時かよ」


何もしていないのに、妙に疲れる。

カレンダーの日付だけが、淡々と変わっていく毎日。


夏は、確実に進んでいるというのに。

自分だけが、世界の流れから取り残されている。

そんな錯覚が、胸の奥にまとわりつく。


──何でもいい。

この停滞した空気に風穴を開けるような()()()()が欲しい。

 

そんなことを考えながら焼いた食パンは、ほんの少しだけ焦げついていた。


「ピンポーン──ピンポ、ピンポ──ピンポーン」


真っ赤な苺ジャムをたっぷりと塗っていると、

ここ数日耳にすることのなかった呼び鈴が、遠慮という概念を忘れたように鳴り響く。


「はーい。今行きまーす!」


宅配を頼んだ覚えはない。

友人であれば、事前に連絡の一つくらい寄越すはずだ。


なら、この非常識な来訪者は誰なのか。


わずかな好奇心に背中を押され、

覗き穴に目を当てると──


そこに立っていたのは、

神職装束(しんしょくしょうぞく)に身を包んだ近所の神主だった。


「……お久しぶりですね、おじさん。

どうしたんですか、そんな仰々しい格好で」


「ん?おお、辰馬くん!

年賀状で知ってはいたが、ずいぶんと大きくなったねぇ。

……ところで。

急なことで悪いんだけれども、中で話をさせてもらうことはできるかな?」


「ええ、まぁ……どうぞ」


天道 三笠(てんどう みかさ)

都内でも有数の規模を誇る神社、鳴神(なるかみ)神社の現神主である。


幼馴染、天道 美琴(みこと)の伯父にあたる人物で、幼い頃によく遊んでもらっていた。


幼馴染が都心に引っ越してからは交流が途絶えていたが、相変わらずただものではない風格(オーラ)を纏っている。


「親父さんたちは今年も旅行かい?」


「ええ、いつも通りの“結婚(なん)周年旅行”ですよ。

今年はエジプトとイタリアに行って、クレオパトラとカエサルの気持ちになりたいんだとか……」


「はははっ、仲睦(なかむつ)まじくて羨ましいじゃないか!私もそれができたら良かったんだがねー」


こわばっていた表情がほぐれ、柔らかな笑みを浮かべる。

ずいぶんと疲れている様子だったが、余計な心配だったのかもしれない。


「一緒に住んでいる身からすれば煩わしいかぎりなんですけどね。

あっ、粗茶ですがどうぞ。

すいません、茶菓子は切らしてて……」


「ああ、気にしなくていいよ。

今日は長居するつもりないからね。

それよりも辰馬くん──少し真面目な話をしてもいいだろうか」


場の雰囲気が、一気に引き締まる。

こういう時の三笠さんは、本当に真面目になるからだ。


「……宗教勧誘なら、お断りですけど」


「はははっ、違う違う。

純粋な、そういう含みのない話だよ」


そう言って、三笠さんは真剣な眼でこちらを見つめてきた。


「──ときに君は、神様の存在を信じるかい?」


お互いの生唾を飲む音がした。

この掴みどころのない質問は、いったい何を導こうとしているのだろうか。


「……神主さんに言うのもあれですけど、

信じてない寄り、ですかね。

いたら面白いなくらいのスタンスですよ。


……これで合ってますか?」


「──大正解だ」


即答だった。


「百点満点だよ、辰馬くん。

どちらにも傾よりすぎない。その距離感じゃないと……

この先の話は、受け入れられないだろうからね」


満足気な反応に胸を撫で下ろした。その直後。

三笠さんは、ぽつりと不穏な事を呟いた。


「昔、神社の境内には絶対に近づいてはいけない場所があるって言ったよね。覚えているかな?」


「えっと、あれですか?

離れの方にあった小さな(やしろ)……」


近づいた時に、鬼の形相で叱られたことを今でも鮮明に覚えている。


「あそこにはね、私たちが祀る鳴神様の御神体(ごしんたい)があったんだ。

神様が腰を下ろすための()()みたいなものがね」


「……それで?」


「昨夜、美琴が壊しちゃった」


「……それって不味くないですか?」


「そう、とっっっっっても不味い!

もちろん教義的な問題もあるんだけれど……

それ以上に、美琴の相性が良すぎてしまってね」


「相性?」


「そう。天道家でも類を見ないほど、鳴神様との波長がね」


三笠さんの視線が、

リビングと廊下を隔たせるガラス戸へと向く。


そこに、ふっと人影が浮かび上がった。


「当代の!もう話はついたかのぅ?

気配を消し続けるのも、なかなか骨が折れるのじゃが」


「……え?」


「美琴、鳴神様の憑代(よりしろ)になっちゃった──」










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