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プロローグもそろそろ終わり


 宵は深まり、衝撃の熱も冷めた。だが正義の熱はまだ冷めない。


 「テルミドール、ちょっといい?」


 屋敷のゲストルームに通され、そのベットの上で寛いでいる所、扉の向こうから彼女の声が聞こえた。


 「どうしたんだ?シャルロ。」


 彼女は勢いよく扉を開け僕の隣に座ってきた。


 「お父様の部屋、入ったんだよね」


 僕はあぁ、と短く呟いた。このあと何を黙って何を話そうか。


 「何、話したの?」


 「僕と君のお父様の話だよ。」


 言えるわけないだろ、君と結婚して欲しいと君の親から言われたなどと。

 だってそんなこと言ったら自分のことが大嫌いな君は僕と結婚するだろうし、君は勝手に結婚を取り付けた父のことを許せなくなるだろう。

 言えるわけがない、言えるわけがないのだ。


 「そう、私お父様のこと知らないからさ。」


 「私の結婚をして稼業を継いでほしいだとか言われたのかと思った。」


 鋭いな、後半は言われなかったが前半は言われたぞ。

 

 「そう言ってたらどう思った?」


 「父様のことをほんとに許せなくなる。」


 「私は貴方とは結婚したくない。」


 汗が止まらない、面と向かってこう、はっきり言われると流石に傷付くものがあるな。

 

 「私、貴方のことは好きだよ。でも私と結婚したら貴方も貴方の子供も処刑人にならなくちゃならなくなる。」


 くそう、無自覚に人の心を躍らせやがって。こんな嫌な女なのに嫌いになれないしますます好きになる。


 「それはいけないことなの。だから私は貴方とは結婚したくないし、誰とも結婚したくない。」


 彼女は僕が寝るはずのベットに寝っ転がって、虚ろな目で天井を見上げた。


 「昔話をしようかな。」


 彼女は話し出す。それはあまりに悲しい物語だった。


 「アンサングって元々は旅商人の一族だったの。」


 「でも若くして長になったアンリ・アンサングはある日の商談帰り、嵐に合っちゃってさ。」


 「その時に匿ってくれたのが処刑人の娘だったの。」


 「恋に落ちたのか?」


 彼女は少し笑ってから答えた。


 「正解。駆け落ちしたの。」


 「そのせいでアンリは処刑人になった。アンリの子供もね。」


 「それから沢山の人を殺したわ。吊るしたり、車輪に縛り付けて四肢を砕いて放置したり、斧で首で落としたり。」


 「彼には才能があったの。だから直ぐにラソレイユ一番の処刑人になった。」


 「でもお優しい人だったから心を病まれてしまった。」


 「処刑人の娘は愛する人もその子供も不幸にしてしまった。」


 「処刑人の娘は、その後どうなったと思う?」


 「わからない。」


 「自殺したわ。強姦魔を吊るした縄で自分の首を吊ったの。」


 これが死神の一家アンサングの始まりだ。


 「話は終わりだよ。」


 アンリもバチストもシャルロも全てそうだ。身分制度、いやアンシャン・レジームの犠牲者だ。


 「そっか、なら寝ないとな。」


 彼女はベットから起き上がろうとはしなかった。まるでそこが自分の寝床ですと言わんばかりである。


 「寝なよ。テルミドール。」


 「床で寝たくはないぞ。」


 彼女は僕の言葉に大きくため息を付き、ベットから起き上がる。そして扉の前まで歩きこう言った。


 「おやすみ意気地無し。」


 扉は勢いよく閉められた。それは握りこぶしで机を叩くような音をあげ、多分屋敷に響いていたと思う。


 「何もなし、か。」


 狩猟の戦果を記したノートにある言葉を僕は呟いた。


 「寝るかぁ。」


 僕は深い眠りについた。少し虚しいが、これはこれで正しいのだろう。




 夜がどんなものでも朝は昇る。僕はカーテンの隙間から登った太陽で起きた。

 昨日、あまりにも僕にとって大きなことが起こりすぎた。J.J.の悪書に彼女との結婚がどうたらだとか。

 こんだけ大事が続けざまに起きたんだ、今日はなにもないだろう。


 「テルミドール!!」


 勢いよく扉を叩く音。

 まさか、な。


 「朝のアラームにしちゃ随分物騒だな。」


 僕が扉を開ける前に彼女は扉を開けた。ある一枚の紙を持って。


 「テルミドール!貴方の、貴方のお父様とお母様が!!」


 その紙にはこう記されている。


 ムッシュ・ド・ソレイユ

 バチスト・ジョン・アンサング様


 以下の人物を思想犯とし、斬首刑に処す。


 フランソワ・テルール=ロベスピエール


 マリー・ラベンダー=ロベスピエール


 「は?」


 僕の全てはこの日にひっくり返った。


 

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