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処刑人、父の仕事


 度々父の仕事は見せられてきたし、今日も見せられることになった。私の父、バチスト・ジョン・アンサングの恐ろしい仕事を。


 「シャルロ、斬首刑を何度か見せたが

何も私達の仕事は首刈りだけではないと理解しているはずだ。間違いないな?」


 いつものように父の声は凍てつくように冷たく、その瞳に熱は無かった。


 「はい、間違いありませんお父様。」


 「では今日はお前に処刑諸準備を任せる。」


 処刑人、それは薄汚れた仕事であり、名誉も何も無い忌み嫌われた仕事。


 と言う訳では無い。


 そもそも処刑、見せしめと言うのは国家による見せしめ行為であり、ある種犯罪の予防行為である。

 故に金がかかるのだ。


 具体的に言おう。まず処刑の為に土地を一時的に借りなくてはならない。これはその土地を治める貴族に正式な手続きを行い料金を納める必要がある。


 次に処刑道具の購入及び手配。

 まず見物人との境になる柵や処刑台用の木材を木工屋から購入

 次に木材搬入用と囚人移送用と人員輸送用の馬車を軽4台馬車屋に手配。


 そして次に諸費用の計算。

 処刑道具会場準備費。

 処刑会場の準備員の為の人件費及び昼食用の食費。

 処刑補佐の人件費。

 

 最後に各関係人への感謝状と法務省宛の経費請求書を作成。


 やることは沢山だし、こんだけやっても収入はギリギリ黒字。処刑人の位は貴族の位ではあるがそんなに裕福ではないのである。それは処刑人の長たるムッシュ・ド・ソレイユ(ソレイユ処刑人)も例外ではないのだ。


 終わらない終わらないと嘆いていても時間は止まらない。と言う訳で1つずつ処理していこう。


 2週間後、全ての仕事が終わったと私はお父様に報告した。

 お父様のことはあまり好きではないが、それはそれとして処刑する度にこんな大仕事をしていたとは恐れ入る。


 

 7/28 処刑当日

 天気 晴れ


 「シャルロ、杭はもっと深く打つのだ!これでは熱狂した暴徒共に処刑台が押し倒されるぞ。


 「も、申し訳御座いませんお父様。」


 私は柵の杭を打ち直す。

 処刑における前準備がどんなに大変でも、結局はその日が全てだ。処刑人が討損じれば処刑という儀式は一気に神秘性を失う。


 「シャルロ、もう柵は良い。補佐に指揮を取らせる。囚人を移送しなさい。」


 「了解致しました。」


 熱いパリス、燦々と煌めく太陽の下、漆黒のローブを纏った私は聖アントニア牢獄へと馬車を進める。


 「此の度のリュグナー・クルス処刑に際して罪人の受け取りに参りました。バチスト・ジョン・アンサングの名代、バチストが子シャルロ・アンリ・アンサングで御座います。」


 罪人を荷馬車に積み込む。そして馬は行きの時よりもゆっくり走る。罪人を見せ物にするのも処刑人の仕事であった。


 「…お前、男装してるけど嬢ちゃんだろ。」


 見窄らしいほど痩せ、白い髭をと髪をぞんざいに生やした男が私に話しかける。


 「どうしてわかったのですか?リュグナー将軍閣下。」


 リュグナー・クルス元将軍。彼はソレイユ軍の中でも優秀な将であったが"J.J.の悪書"を基とした危険思想を軍内にばら撒いた。

 以上の理由によって国民と国家に対する反逆罪によって死罪となったのだ。

 所謂確信犯というやつだ。


 「昔そういうタイプの女を妾としていたからな。」


 「確信犯の癖に随分俗っぽいのですね。」


 「確信犯ね。確かにそうだな、私は今も確信犯だな。」


 裁判においてお前は万死に値すると宣告されておいてどうして未だに自分を正しいと思えるのだろうか。

 私にはその狂気がわからない。


 「自分の行いをどうして省みないのですか、貴方は。」


 民衆が彼を罵倒する。売国奴だとか裏切り者だとか。だが彼らはなぜ彼が売国奴なのか、なぜからが裏切り者なのかを理解していない。


 「省みる?なぜ私だけが省みないとならない。」


 見せしめによる犯罪の予防とは、法律を犯したらこうなるぞ、というよりもこうしてガス抜きをすることによって犯罪に走ろうとする者を減らす、という効果のほうが大きいのである。


 「だって悪いの貴方でしょ。」


 「それは嬢ちゃん方の、貴族と王様の理屈だろう。真にノブレスオブリージュを成すならば凝り固まったこの社会を変えなくてはならない。」


 「私はその為に法を破ることも人が死ぬことも辞さないってのは傲慢だと思います。」


 「ならば教えて欲しいものだな、人々が手を取り合える方法を。」


 この人は死を定められながらも未だに自分が正しいと思い込んでいた。


 結局彼は自らを正しいと最期まで信じて我が父の剣に伏した。だが死してなお瞳に光が映っていたのである。


 以上、今日の日記終わり。


 蝋燭の日を消して、ベットに入る。先の日記において処刑人は貴族といえどそんなに裕福ではないと言ったが、正確には間違いだ。あれは貴族の中ではそんなに裕福ではないと言う意味であり、庶民や羊皮紙一枚の底辺貴族よりかは遥かに裕福である。

 明日の食に困ることはないし、使用人は二十数人いる。ただ、きらびやかな宝石やらドレスがたまにしか買えないというだけで。


 私が眠らんとするその時、父が叫ぶように私を呼んだ。


 「シャルロ!!急患だ!!」


 私はその声に飛び起きた。吹き飛ばして床に落ちた布団はそのまま、ネグリジェのまま上着だけを着て階段を駆け下りた。

 そこに居たのは齢15の女だった。


 「マドモアゼル、中にお入りください。」


 父はその女性を屋敷の地下に案内した。彼女を鉄の手術台の上に寝かし、スカートをめくった。

 彼女のまるで腐ったような赤黒い右足が顕になった。

 これは…壊死性筋膜炎か


 「ムッシュ!わ、私には子供がいるのです、ですから生きなきゃ…私は…」


 今にも泣き出してしまいそうな女のか細い手を父は力強く掴み、こう言った。


 「安心なさいマドモアゼル。貴方は勇気を持って我ら死神を頼ってくださいました。私は死を司る者として、貴方を救うと約束しよう。」


 アンサング家は処刑人として罪人の人生を終わらせる義務を持つが、その義務を果たす為に蓄えた知識によって、人を救う権利を持っていた。


 「シャルロ、わかっているな。」


 「右足を切除しましょう。その後切断部を焼灼し、酒で消毒致します。」


 「切断用の道具は此処にありましたよな。焼灼技師を叩き起こしてきます。」


 「それとお父様の部屋にスプリティスありましたよね。消毒としてお使いしても?」


 「いそげ。私はこちらで患者に説明を行う。」


 私が地下室を出ようという時、父は私に向けて呟いた。


 「長く難儀な夜になるぞ。朝よりもずっとな。」


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