傍聴、父の仕事
僕は今日、父の仕事を傍聴する。そして今回は初の魔法裁判である。
魔法裁判、僕は前世では無かったそれに不謹慎にも心躍らせていた。
「今時の判事を担当させていただきます、ルーテル・ラテーテ・ソレイヤと申します。」
魔法裁判、正確には魔法法に関わる民事及び刑事裁判である。
そして今回は事件の内容からして魔法刑事裁判と言った所である。
「では人定質問から入らせていただきます。」
裁判前に被告、弁護士、検察察が本人かどうかを確認する儀式だ。
さて、この日記を後から盗み読む奴がいるかも知れない。と言う訳で、描き方変えよう。
だがまずそれをする為に知らなくてはならないことがある。
刑事裁判の有罪率は99.9%、そしてこの時代でも有罪率は86.7%である。
故にこの裁判、つまり戦いは損害が必須であり、如何に損害を抑えられるかという戦いだ。
要は攻城戦である。
と言う訳で攻城戦を始めようか。
「そちらは被告ラーテル・リミアン夫人とその弁護人、フランソワ・テルール=テルミドールにお間違いありませんか?」
我が父、フランソワ・テルール=テルミドールはラーテル・リミアン城の城主とさせていただく。
「間違いありません。」
また父様の目標は城の損壊を鞭打ち刑(第2関門突破)程度に抑えることである。
「ではそちらは検察官、ケラン・ハルナ・ルナ=ジャスティカでお間違いありませんね。」
逆に検察側の目標は絞首刑(第三関門)まで突破することである。
「間違いない。」
「では次に起訴状朗読をさせて頂きます。」
「被告人は4月12日朝、火の魔法によって同居人であるジャク・リミアン氏の全身に火傷を負わせました。」
「その後ラーテル・リミアン氏は二人の子供共に逃走を企て実行、その後14区において捕縛されました。」
「続きまして権利告知に入ります。」
「被告人は個々の質問に対して陳述することができますが、陳述は裁判に於いて被告人対して有利不利問わず証拠として扱われることに留意してください。」
「次に双方はこの裁判に於いて事前に証拠になり得ると判断され許可された物品を証拠として扱う事ができます。必要に応じて提示してください。」
「以上、権利告知を終了とさせていただきます。」
今のはこの攻城戦のルール説明だ。
城の守備側に城を防衛する為に陳述(攻撃行為)ができるが、その攻撃によって守りが薄くなることもあるから気を付けてね。
また事前に許可された物品を証拠(武器)として扱う事が出来るよ。
という訳だ。
ちなみに黙秘権という概念はまだない。
「では次に罪状確認に入ります。」
「ラーテル・リミアン氏は4月12日朝、火の魔法によって同居人であるジャク・リミアン氏の全身に火傷を負わせ、子供達二人を連れて逃走を企て、実行に移した。お間違いありませんね?」
「間違いありません。」
「では続きまして冒頭陳述及び検察側立証に入らせていただきます。検察側ケラン・ハルナ・ルナ=ジャスティカ氏、お願い致します。」
次に行われるのは攻城側によるこの城に攻め入る理由の宣言だ。
「本件被告人は、79年4月12日、パリス12区において、火属性魔法によって夫たるジャク・リミアン氏に火傷を負わせた傷害罪の犯人である。」
で、ここからが戦の始まりだ。
「検察側立証に入らせていただく。書証より、ジャク・リミアン氏の傷の具合や建築物の焼け跡からして殺傷の意図もあったと推察できる。」
検察側の軍は城壁に梯子を掛ける。殺傷の意図ありという梯子である。
「次に証人尋問に入らせて貰う。」
「被告人、貴方は夫婦生活の生活苦に嫌気が差し、以上の行為に及んだと、間違いないですね。」
「はい、間違いありません。」
城壁での戦闘が発生する。
「以上です、判事殿。」
「では次に弁護人側立証に入ります。弁護人、フランソワ・テルール=テルミドール氏、お願い致します。」
我が父がここで策に出る。
「こちらの物品をご覧ください。」
父の提出した物品、それはある割れた酒瓶であった。そしてその酒瓶のラベルにはこうあるルーシー語でスプリティスとあった。なによりこの酒、火炎瓶として使用できるくらいには度数が高い。なんとその度数は70以上である。
「こちらはルーシーからの密売品であり、ジャック・ミリアン氏が愛飲していた銘酒にあります。」
「またジャック・ミリアン氏が愛酒家であり、ラーテル・ミリアン氏は一切の飲酒をなさっていなかったと近隣住民及び本人供述で明らかにされています。」
「加えてジャック・ミリアン氏はラーテル・ミリアン氏とそのご子息らに日常的に暴力を加えていたことも、近隣住民及び本人供述及び本人の外傷からして明らかで御座います。」
「事件同日、ジャック・ミリアン氏はこの銘酒に泥酔し、文字通り酒を浴びるように飲んでいました。」
「よってラーテル・ミリアン氏の行動は正当防衛の範囲であり、本人の衣服に付着していたアルコール成分によって正当防衛範囲を超えた外傷に発展してしまったのです。」
「以上の理由により、本人に傷害の行為の意図はあったが、正当防衛の範囲内であると主張します。」
城壁に乗った兵を梯子を絶って孤立させ、此れを包囲殲滅。
「以上で御座います、判事様。」
「では次に被告質問に入ります。被告人質問に対しましては私、ルーテル・ラテーヤ・ソレイユから。」
被告執行はどう表現すればいいんだろうか。この城の防衛設備の紹介?いや少し違うだろうが。
「被告人、ラーテル・ミリアン氏は貴方とそのご子息らジャク・ミリアン氏より常日ごろから家庭内暴力を受けていた、お間違いありませんね?」
「はい。私は…私は常日ごろから夫より暴行を受けて参りました!夫はお金が無いお金が無いといいながらいつも仕事から帰ってきたら私に…」
彼女は唐突に自分の服を脱ぎだした。彼女はこの公然の場にその乳房を、痩せこけたその胴体を晒したのだ。
「こ、この傷をご覧になさってください!」
その肉体には青い斑点や紫色の打撲痕があった。
「この傷は全て、全てあの人による物で御座います!」
傍聴席も検察側も全員がざわつく。しかしただ一人、我が父フランソワ・テルール=ロベスピエールだけは落ち着いていた。
「このままだと、私だけでなく私の子供達まで…」
彼女はこの場において泣き出した。
正直私は父のこの行動について軽蔑したが、監視カメラや写真技術が無いだけでなく、医療技術も未発達である現在、こうでもしないと自らの正当防衛を証明できないのだろう。
「わ、分かりました。落ち着いてくださいマダム。被告人質問を終わります、弁護人に早く被告人に上着をお渡し致してください。」
父は上着を脱ぎ、被告人に着せた。
しかしここまでしたら勝負は決したも同然だな。判事の同情を勝ち得た今、絶対に絞首刑にではいかない。
人の死を宣言するのはあまりにも重いのだから。
その後、検察側の論告、弁護人側の弁論、最終申告としたが判事の同情は覆ることは無かった。
「続いて判決宣言とさせていただきます。」
「パリス裁判所、判事ルーテル・ラテーヤ・ソレイユの名において被告人、ラーテル・ミリアン氏に鞭打ち刑15回を宣言させていただきます。」
父はこの裁判に於いて勝ち取り得る最大限の成果を勝ち取った




