テルミドール・テルール=ロベスピエールは正義に生きる
確信犯という言葉は現代に於いてよく誤用される。
確信犯とは本来、自らが正しいと"確信"して行う政治的・宗教的犯罪のことを指す。
2018年、冬
男は弁護士だった。彼の腕は良く、数多の裁判に於いて"最大限の結果"を勝ち取ってきたが、彼の心は荒んでいた。
なぜなら彼が金のバッチをつける理由の根幹が正義の心だったからだ。
"この金バッチと同じだ。輝かしい実績と法の下の正義でメッキをして、実体は金欲しさのロイヤーばかり、結果が良ければ全て良いと言う訳では無いのに。"
人の役に立ちたい、人を護りたい、そんな純粋で真っ直ぐ、清廉な精神を持った彼は全くと言っていいほど弁護士には向いてなかった。
しかしなまじ頭が良いばかりにこの道を歩んでしまった。
しかし決して弁護士という職が悪いわけではない。
彼が高潔な精神と明晰な頭脳を持つ故に、世捨て人か思想家しか適正が無かったのだ。
冬の冷たい玉川は彼の精神も肉体も呑み込んでゆく。
世界と悪意を憎んだ賢しい愚か者はただ静かに消えていった。
陽光に照らされて男は瞼を開ける。
僕の手は短く、足はちんちくりん、知らない女が私に話しかける。金髪碧眼、絵に描いたようなヨーロッパ女性だ。しかしなんだが小屋もその服も見窄らしい。
僕は己の肉体が赤子になってしまったことよりも、この女性が2000年代にもなってこうも貧しく暮らしていることに憤りを感じていた。
思慮浅かったと、反省しよう。僕は一年と半年して僕の現状を理解した。
所謂異世界転生って奴なんだろう。技術の発展具合からして時代は1700年代後期。
母はしがない農家の娘で、父は弁護士だった。
僕は言葉を覚えた。自分で歩けるようにもなった。
僕は父の書斎に勝手に入った。父には悪い事をしたと思う。
難しい言葉で綴られた書類たち、僕が知ってる言葉でなんとか読み解く。
その時、閉めたはずの扉が開いた
「テルミドール、こんな所に居たのか。」
テルミドール・テルール=ロベスピエール。それがこの世界における名である。
名の意味は7月の誉れある岩である。
「なんて読むのですか?」
父はしゃがみ込み僕に目線を合わせた。生前僕は父親というものを知らなかったので、父親がいればこんな感覚なんだろうかと考えていた。
「□□□□の〇〇〇〇書って読むんだよ。」
「□□□□とはどう言う意味なのです?」
彼は顎に手を当てて考えた。子供に説明するには余程の難しい単語なのだろう。
「ラソレイユによって悪い人を殺す?ってことなのかな?いやどう□□すれば良いんだろうな。」
ラソレイユと言うのは私の産まれた国の名前だ。
つまりこの□□□□というのは死刑制度ってことなのだろうか。
「で、これはその方法を変えたいですって王様みたいな偉い人にお願いする手紙、かな?」
死刑制度の改訂請願書と言った所か。
「どうしてお父様はそれを偉い人に変えてほしいってお願いするのですか?」
「そりゃ、生まれた場所によって□罰が異なるのはおかしいんじゃないかなって。」
「こんなこと、テルミドール言ってもまだわからないか。」
僕はこの世界に来て初めて嬉しいと感じた。
父親が弁護士と聞いた時、僕は嫌悪感を覚えたのだ。もし僕と同じような所謂拝金主義のロイヤーだったら僕は父を恨んでしまうだろうと思っていたから。
だが父は正しいと思ったことを正しくできる人だった。
「僕、お父様みたいになりたいな。」
「なら勉強しないとな。」
6回の春夏秋冬を越えて僕は7歳になった。
僕はその間良く勉学に励む。特に法律と歴史を中心として、次に国語つまりラソレイユ語に学習した。物理化学数学に関しては文系学部であった前世での知識段階でもこの世界では最高クラスだったので学ぶ必要が無かった。
次に6年間でこの世界について理解した事実を連ねる。
魔法はあるが指先から火が出る程度。しかしそのせいか300年ほど歴史が巻きになって進んでいる。
ラソレイユという国家は国王オーギュストによる専制国家。しかしその実態は貴族権力が強い為貴族が主体。
身分は大まかに耕す者(第三身分)、戦う者(第二身分)、祈る者(第一身分)に別れる。
だがこんな事実が何だというのか。
ただ前世ではなし得なかった事をしよう。
正しいことを、正しく成そう。
今世に誓う。僕は決して腐らない。
「で、お父様今日は何処に出掛けるのですか?」
重い鞄を持ち、黒のコートとシルクハットを身に着けた父に問う。
やけにきちんとした正装、おそらく服装からして貴族か資本家の所だろう。
「父さんは死神の所に行く。お前も来るか?」
「死神?」
僕はその日、死神と出逢った。そして運命的な出逢いをした。
30話くらいで終わらせます。
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