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第8話 魔法少女としての矜持

 

 彼の号令と共に動き出す兵士と魔物。逃げ惑う貴族の二世達。


 中には戦いの心得もある者もいただろうが、夜会に参列しにきただけの彼、彼女等が武装した兵士や魔物に立ち向かえる筈もない。


 故に状況はローガの言う通り、ただの蹂躙だ。魔物という凶暴な生物を操り、高い戦闘能力を持つ魔族の兵士を前に、この会場にいる誰もが恐怖し、自らの安全を望み願う中でただ一人、この状況に肩を震わせ、歓喜している者がいた。


(この状況……魔法少女が活躍するのに絶好の機会(チャンス)。ここで活躍すれば魔法少女の名前は一気に広がる…………問題は人の目があって変身できないこと、かな)


 ミラキアにとって魔法少女という存在は悪を払い、弱きを助ける最強の英雄(ヒロイン)だ。だからこそ、彼女は自ら変身するマギアシルビィにその理想を押し付ける。



――――魔法少女は正体を知られてはならない。


――――魔法少女は悪事を働いてはならない。


――――魔法少女は悪を見逃してはならない。


――――魔法少女は皆を救わなくてはならない。



――――そして、魔法少女は誰かを殺めてはならない。



 本当の事を言うのなら彼女の魔法少女像にとっては暴力も忌避するものなのだが、それでも振るわなければ誰かを救えないのなら仕方ないと、容認している。


 そもそも、あくまでミラキアは夢の中で見た魔法少女を再現しただけの一ファンに過ぎない。


 信条を破ったところで誰に咎められる訳でもなければ、罰則がある訳でもない。


 しかし、彼女にとってその信条は最早、人生の指針といっても過言ではない程に重い。


 夜な夜な悪徳貴族を成敗するのも、婚約破棄騒動に首を突っ込んだのも、その信条があったから。


 たとえ、自らが死ぬ事になったとしても信条を違えることはない。


 それだけの覚悟の下に彼女……ミラキアは魔法少女としての力を振るう。


 まあ、それはそれとして、信条と心情は別。彼女は推し活、というか、推しを布教する事を惜しまないため、そぐわないと分かっていても、魔法少女が活躍できるこの機会を多少なりとも喜んでしまっているのだが。


 そんな事を考えているミラキアを他所に状況は悪化の一途を辿り、逃げ惑う二世達は次々に捕縛、あるいは蹂躙されていた。


「――――さて、協力者の子爵令嬢は放置で問題ないとして、王太子殿下と公爵令嬢さんには大人しくしてほしいんだけど……そういう訳にもいかないよねぇ」


 愚かな二世達を見回しつつ、呟くローガ。その視線の先には絶望の表情で立ち尽くすアイリス嬢と放心状態のルーエル殿下、そして、武装した兵士と魔物を相手に立ち向かわんとするレーリャ嬢がいた。


「っ殿下!いつまで呆けているつもりですか!貴方はこれからこの国を背負う立場になるのですよ!今、ここで立ち上がらずしてどうするのですか!!」


 ルーエル殿下の胸ぐらを掴み上げて怒鳴り上げるレーリャ嬢。


 その様子はついさっきまで婚約破棄を告げられて追い詰められていたのと同じ人だとは思えない迫力だ。


 それとは対照的にルーエル殿下は抜け殻のように消沈しており、先程までの威圧的な雰囲気は見る影もない。


 それだけアイリス嬢の裏切りがショックだったのかもしれないが、彼はこの国の次期国王。


 姦計に踊らされかけたとはいえ、今のところその事実は変わらず、為ればこそ、敵国の襲撃を受けているこの状況で、呆けている場合ではないだろう。


 しかし、レーリャ嬢の叱咤も虚しく、ルーエル殿下はだらりと手足を投げ出したまま、一切動こうとはしない。


 そうしている間にもじりじりとにじり寄ってくる兵士達を睨んで牽制しようとするレーリャ嬢だが、そんな小さな抵抗が通じる相手ではなかった。


「……分かってると思うけど、王太子殿下と公爵令嬢は生け捕り必須だよ。ま、この状況じゃ抵抗なんてしようがないから簡単でしょ?」


 兵士達に念押ししつつも、どうせ自分の出番はないだろうとポケットに手を突っ込み、肩を竦めるローガだったが、次の瞬間、その表情が驚愕へと変わる。


「――――あら、魔皇国の兵隊さんは随分とひ弱なんですね」


 レーリャ嬢を捕縛しようとした兵士の一人がそんな台詞と共に大きく吹き飛ばされ、その場の空気が一瞬凍りついた。


「何が…………」


 自らの行く末を想像して覚悟を決めていたレーリャ嬢の口から戸惑いの声が漏れるが、それも無理はないだろう。


 なにせ、今、誰もが逃げ惑うこの場に抵抗しようとする気概を持った人間なんてそれこそレーリャ嬢以外にはいなかったのだから。


「……へぇ、子爵令嬢の嘘を見破って計画を邪魔された時から思ってたけど、お姉さんやるねぇ。確かプレシール侯爵令嬢、だっけ?」

「生憎と、無粋な侵略者に名乗る名前はありません。痛い目を見たくなければ早々に国へ帰る事をお勧めしますよ」


 兵士を吹き飛ばし、レーリャ嬢を守ったのは魔法少女に変身するか否かを迷い、考えていた筈のミラキアだった。


 確かにこの場でマギアシルビィが活躍したのなら魔法少女の名前が広がるかもしれないが、正体は確実にバレてしまう。


 だからといってこの場で行われる蹂躙を見て見ぬ振りをする事はできないと思った彼女は悩んだ末、矜持と矜持を天秤にかけて最終的には変身しないまま、ミラキア・プレシールとして戦う事を選んだ。


「プッアッハハハッ……随分と強気だねお姉さん。うんうん、嫌いじゃないよ、そういうの。でもね、あんまり挑発しない方がいいんじゃない?お姉さん一人がいくら頑張ったってどうにもならない戦力差なんだから……ね?」


 噴き出したローガはご機嫌な様子で頷くと、片目を瞑りながら近くにいた兵士へ目配せをし、ミラキア、そしてレーリャ嬢へと戦力を集中させる。


「……おとなしく帰る気はない、と。仕方ありません。忠告はしましたから――――後で文句は言わないでくださいね」


「小娘がっ……!」

「抜かせっ!」


 あくまで強気な態度を崩さないミラキアに魔皇国の兵士達も我慢がならなかったらしく、怒声を上げて突っ込んでいく。


 それぞれ明確な殺意を持って長槍、長剣を勢い良くミラキアへと突き出した兵士達だったが、結果として彼等は驚き、目を見開く事になった。


「――――そんなに驚く事でもないでしょう?ただの防御魔法ですよ」


 人体を容易に刺し貫き、死に至らしめんとする攻撃はミラキアに届く直前で薄透明な壁に阻まれ、バチバチと燐光を散らしている。


「……いやぁ、驚くなっていうのは無理があるよ。防御魔法は魔法を防ぐのには適していても、物理攻撃には弱い……ましてボク達は百戦錬磨の魔皇国だよ?どの程度の攻撃で防御魔法が破れるかなんて把握してる。今の攻撃で破れないはずがない」


 ローガの言う通り、この世界の防御魔法は基本的に魔法使い同士の戦いを想定して作られているため、それ以外の物理攻撃には弱い。


 無論、ただ普通に殴る蹴るの攻撃で敗れる程、弱くはないが、兵士たちの武器による攻撃は間違いなく一般的な防御魔法を貫通できる威力を持っていた。


 つまり、そんな攻撃を二つ同時に受け止めているミラキアの防御魔法が異常という事になる。


「分からない事を言いますね。貴方の自慢の兵士さんは私の防御魔法を破れなかった。それが純然とした事実です」

「……そりゃ手厳しいね。でも、喋ってる余裕があるのかな?たった一撃を防いだくらいで得意げになるのは早いんじゃない?」


 挑発染みた言葉にローガがそう返すや否や、防御魔法と鍔迫り合いのような形を取っていた兵士たちは即座に一歩下がり、それぞれ防御壁のない部分目掛け、左右からミラキアを挟撃する。


 その動きは洗練された見事な連携。ほとんど同時に仕掛けた兵士たちの攻撃は一見、ミラキアを捉えたかに見えたが、再び甲高い音と共に展開された防御壁に阻まれてしまった。


「っ展開速度が尋常じゃない……!」

「まだだっ!仕掛け続ければどこかで綻びが出来る筈だ!!」


 再度、攻撃を阻まれてしまった兵士たちは動揺しながらもすぐに立て直し、武器を振るって連撃を繰り出す。


「その程度の攻撃をいくら重ねたところで防御魔法は敗れませんよ……それにいつまでも防ぐだけだと思ったら大間違いです」


 兵士たちの連撃を全て防ぎつつ、彼らに両の掌を向けたミラキアはそのまま魔法を放つ。


 そして彼女の放った魔法は兵士二人に避ける暇さえ与えず、彼らの顔面に直撃。そのまま身体ごと大きく吹き飛ばし、彼らの意識を刈り取った。



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