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第7話 渦巻く陰謀


 とはいえ、ルーエル殿下が了承した以上、アイリス嬢も反論はできない。何故なら下手に拒否すれば自分が嘘を吐いていると疑われかねないのだから。


「……それでは魔法を掛けます。準備はよろしいですか?」

「ああ、頼む」


 レーリャ嬢の了承を得たミラキアが彼女の方へ片手を掲げて目を閉じ、集中を始める。


 前提として、噓を吐けなくなる魔法というものは世間一般の常識の中に存在しない。


 個人として開発、使える人はいるかもしれないが、公にはなっていない以上、既存の魔法には起こし得ない事象だという事だ。


 そもそもが他人の精神に干渉する魔法は相当に難しい。


 仮に効果が成立したとしても、制御できず、後遺症が残ってしまう可能性が高く、その手の魔法は犯罪者相手に使われる前提で創られている。


 その事実を公爵令嬢である彼女が知らない筈はない。つまり、レーリャ嬢はそれ相応の覚悟で提案を受け入れたという事になる。


「――――『真実を明かす魔法(トゥルアラフル)』」


 ミラキアが紡いだ呪文と共に薄紫色の魔力粒子が掲げた手から溢れ、レーリャ嬢を包み込む。


「……特に変化はないが、もう魔法は為ったのか?」

「ええ、問題なく機能しています。それではレーリャ様に問いましょう。貴女は学園において、そこにいるアイリス子爵令嬢に対して嫌がらせをしましたか?」


 確認するレーリャ嬢に答えたミラキアはそのまま彼女へ質問を返す。


「していない。そもそも、そこの女と喋ったのは今日が初めてだ」

「なるほど、では、続けて質問します。貴女はルーエル殿下との婚約を足掛かりにこの国を乗っ取ろうと画策しましたか?」

「……幼い頃から殿下とこの国のためにずっと努力してきた。殿下に相応しい女性となるために……国を乗っ取るなんて自らの努力を無に帰すような愚かな真似を私がする訳ないだろう!」


 淡々と質問するミラキアに、毅然とした態度でそれに返すレーリャ嬢。そして、二人の問答を見ていた周囲とその空気は先程までとは一変していた。


「これって……」

「公爵令嬢は嘘を吐いてないってこと?」

「魔法が本当ならそういう事になるな」

「いや、もしかしたらあの侯爵令嬢と共謀してるのかも……」


 ここまでずっとアイリス嬢寄りだった野次馬たちがそれぞれ疑念を抱き始める。


 中にはミラキアとレーリャ嬢が繋がっているから茶番だという意見もあったが、結局、アイリス嬢に魔法を掛ければそれも分かる事だ。


 偽物(ハッタリ)ならアイリス嬢の主張が通り、本物ならレーリャ嬢の無実が証明されるだけの話なのだから。


「……レーリャ公爵令嬢の主張はこれにて終わりです。さあ、次は貴女の番ですよ……アイリス子爵令嬢?」

「ッ…………」


 ミラキアが問うと、アイリス嬢は顔を引きつらせ、言葉を詰まらせる。その反応は誰がどう見ても追い詰められた人のソレだった。


「……アイリス?どうしたん――――」


「あーあ、失敗しちゃったね。お姉ちゃん?」


 様子のおかしいアイリス嬢にルーエル殿下が声を掛けようとしたその瞬間、どこか怖気を孕んだ子供の声が会場内に響いた。


「っ誰だ!」


 聞き覚えのない声に殿下が鋭い声で叫ぶ。すると、その声の主は何が面白いのか、唐突に噴き出し、会場内に不気味な笑い声が木霊する。


 これだけ広い会場なのに声だけが響き、その姿が全く見えないというのはあまりにも不可解で不気味。


 その場にいるほとんどの人間が言い知れぬ恐怖で言葉を呑み込む中、渦中のアイリス嬢が驚愕の表情を浮かべながら口を開く。


「そ、そんな……どうして、貴方がここにいるんですか、()()()()


 動揺と恐怖によって声を震わせるアイリス嬢。そして、彼女にローガと呼ばれた声の主がピタリと笑いを止めると同時に騒動の中心地点近くの空間が歪み、そこから赤髪に()()()()()()子供が姿を現した。


「――――勝手に人の名前を出さないでよ、お姉ちゃん。個人情報だよ、ソレ」


 アイリス嬢にローガと呼ばれたその子供はそのままゆっくりと周りを見回してから(うやうや)しく頭を下げる。


 その姿はどこか堂に入っており、容姿も相まって彼がただの子供ではない事は明らかだった。


「……お前は何者だ?それにアイリスとはどういう関係だ?」


 ようやく状況に頭が追い付いたのか、はたまたアイリス嬢とのただならぬ様子が気になったのか、ルーエル殿下が食って掛かるようにローガへと尋ねる。


 それは殿下だけでなく、この場にいる誰もが思っている疑問だろう。


「これはこれはルーエル王太子殿下。殿下に置かれましては…………」

「ッ御託はいいからさっさと私の質問に答えろ!」

「……せっかく下手に出てあげたのに堪え性のない人だね。ま、いいや。王太子様に聞かれたらなら答えないとね――――ボクはナリア魔皇国〝八神将〟の一人、炎獄のローガ。そこにいるアイリス子爵令嬢とはなんというか、協力関係?みたいなものかな?」


「ナリア魔皇国だって……?」

「あそこって確か()()の……」

「しかも八神将っていえば一騎当千の戦力だろ」

「それにアイリス子爵令嬢と協力関係って……」


 ローガの名乗りにざわざわし始める周囲の野次馬達。


 彼、彼女等が口にする魔族というのは人間と同等以上の知能と力を持つ異形の種を指す言葉だ。


 ここにいるローガのように人間と近しい見た目の者もいれば、まるっきり怪物のような見た目をしている者もいる。


 彼の所属するナリア魔皇国はその名の通り、魔皇と呼ばれる魔族の統治する国。


 そこで暮らす住民のほとんどが魔族で、絶えずどこかと戦争をしている侵略国家でもある。


 そして、八神将というのは魔皇直属の部下の総称。軍を率いる事もあるが、一人一人が文字通りの一騎当千……中にはたった一人で小国を制圧したという事実もある程だ。


 そんな実力者が突然、国の次世代を担う貴族達の夜会に現れ、おまけに殿下と婚約しようとしたアイリス子爵令嬢と協力関係なんて言い出したのだから混乱は必至。


 最早、婚約破棄騒動どころの話ではないだろう。


「協力関係、だと……?それは一体何の話だ!」

「何の話って……ここまで言えば察しはつきそうなものだけどね。現にそっちのお姉さん……レーリャ公爵令嬢だっけ?公爵令嬢さんはどういう事かだいだい分かってるでしょ?」


 詰め寄る殿下に対して呆れ混じりの言葉を吐いたローガは肩を竦めつつ、そう言ってレーリャ嬢へと視線を向ける。


「…………今回の婚約破棄騒動はナリア魔皇国が裏で糸を引いていた。そこの女が殿下に取り入り、私を断罪して王妃の座を手に入れる。そうすれば国の内情はナリア魔皇国に筒抜け……いや、それどころかゆくゆくはこの国を乗っ取り、属国にでもするつもりだった、というところだろう」

「ッでたらめも大概にしろレーリャ!アイリスがそんな事をするはずがないだろ!!」

「……殿下、いい加減目をお覚まし下さい。ありとあらゆる状況があの女を黒だといっています。現に彼女は何も弁明をしていないでしょう」

「っそんな訳がない……そうだ、きっとアイリスは脅されているんだ。な、そうだろアイリス?」


 目を背けたい事実を前に狼狽し、アイリス嬢へと言い(すが)るルーエル殿下。


 しかし、その問いを受けた当の本人であるアイリス嬢は明らかに動揺しており、弁明や反論どころか、一言も言葉を発さない。


 それが企みがバレた事によるものか、はたまたローガの登場によるものかは分からないが、その様子からどちらにしても彼女が何もしていない可能性はなくなったといっても過言ではないだろう。


「あーあ、だんまりだね。お姉ちゃん?ま、そりゃそうだよね。公爵令嬢さんの推理は大体あってるもんね」

「ッ…………」


 ローガの言葉にアイリス嬢は息を呑み、ますます顔色を悪くする。


 ただでさえ疑われている状況で元凶ともいえる人物からの肯定は有罪宣告に等しい。彼女からすれば堪ったものではないだろう。


「……これで分かったでしょう殿下。あの女……アイリス子爵令嬢は魔皇国と繋がっていたのです。殿下の言う通り脅されていたのだとしても、ここで弁明をしない理由はありません」

「…………敵の言葉を鵜吞みにするのか?今、アイリスを疑う状況こそが奴の狙いかもしれないだろう」

「殿下、分かっている筈です。そんな事をしても魔皇国には何のメリットもない、と」

「っそれは――――」


「ねぇ、茶番はその辺りにしてもらっていい?生憎とボクも暇じゃないから、さ」


 レーリャ嬢と殿下の会話を遮ったローガが言葉の区切りと共に指をパチリと鳴らす。


 すると、会場のいたると事で彼が現れた時と同様に空間が歪み、そこから武装した兵士、数十人と、()()()()()()十数匹が姿を現した。


「ッ正気か……!こんな場所で武力行使なんてすれば戦争になるぞ!」

「ハハッ、それこそ望むところだよ。子爵令嬢を使ったまどろっこしい篭絡作戦が失敗になった以上、次善の策……この場にいる貴族の二世を人質に交渉を迫る。もしも、王国の連中が首を縦に振らなければ戦争さ。ま、ボクとしてはその方が手っ取り早くていいけどね」


 あまりの暴挙に叫ぶレーリャ嬢に対してローガはそう言って肩を竦める。


「ひっ……ま、魔物だぁっ!?」

「魔物だけじゃない!あれは魔皇国の兵士だ!」

「ちょ、押さないでよ!私が逃げられないじゃない!!」

「っ邪魔だ!俺を誰だと思ってる!!道をあけろ!!」


 そして、突如として現れた兵士と魔物に会場は大混乱。


 誰もが我先にと逃げ出そうとし、他人を押しのけ、怒号と悲鳴が飛び交う中、(あざけ)りの視線と共に大きく嗤った。


「プッ、アッハッハハハッ…………はぁ、醜いねぇ。これが次世代を担う貴族の二世の姿だと思うと、敵国ながら哀れに思うよ、全く――――我が国の兵達に告ぐ。この場にいる者達を捕らえろ。抵抗されるなら殺しても構わない…………ここからは蹂躙の時間だ」



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