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第6話 侯爵令嬢による推理究明


 とはいえ、この空気の中、王太子殿下や周囲の野次馬にその違和感を説明したところで到底、信じてはもらえない事はミラキアも理解している。


 だからこそ彼女はどう言語化していいか頭を悩ませていたのだが、そこに対して今度は殿下の後ろに控えていたアイリス嬢が口を開いた。


「貴女、なんなんですか!殿下の言葉を遮ってまで出しゃばって……目立ちだけなら外でやってください!」

「いや、目立ちたいとかではなく――――」

「殿下!この方は目立ちだけのようです!無視しましょう!」

「だから私は――――」

「殿下!」


 口を開こうとするミラキアの言葉を遮り、殿下へと進言するアイリス嬢。


 何か喋ろうとする度に邪魔をするその様はまるでどうしても彼女の言葉を封じようとしているようだった。


「……そうだな、わざわざ話を取り合う必要もないか……という訳だ。プレシール侯爵令嬢、今回の発言はなかった事にしよう。だからさっさとこの場から失せてもらおう」


 アイリス嬢の言葉を受けた殿下がミラキアへと言い放つ。あくまで上からの言葉、実際に王太子殿下という立場は明確に上なのだが、彼女にとってそんな事は関係ない。


 行きたくもない夜会への参加を強制してきた母、変なトラブルを起こされて帰れなくなってしまったこの状況、話そうとした瞬間に言葉を被せて遮ってくるアイリス嬢、上から高圧的にものを言うルーエル王太子殿下、その全てがミラキアにとってのストレス。


 そして、溜まりに(たま)った鬱憤は彼女の中でプツリ、という音を立て、ついに限界を迎えた。


「――――ああ、もうっ!いい加減にして!さっきから人が話そうとしてるのに遮ってくるし、物凄い上から目線!そりゃ、話に割り込んだのに言葉に詰まった私も悪いかもだけどっ!それでも人の話はちゃんと聞いて!!」


 ストレスを爆発させたミラキアは最早、敬語や貴族令嬢としての振る舞いを忘れ、叫び散らす。


 先程まで貴族令嬢として振る舞っていた彼女の叫びにその場の全員が唖然として言葉を挟めない。


「……っはぁ、はぁ…………失礼しました。少々取り乱してしまって…………今回、私が話に割って理由はこの婚約破棄騒動に違和感を覚えたからです」


 一度、感情を吐き出したおかげか、我に返った彼女は息を整え、冷静に勤めながら理由を口にする。


 すると、ここまで状況に呑まれ、黙っていたレーリャ公爵令嬢がミラキアの言葉に反応を示した。


「……違和感、だと?」

「ええ、例えばそこにいるアイリス子爵令嬢。一番、最初にレーリャ公爵令嬢に罪状を突きつける時と今で明らかに態度、性格が違うように見えます」

「っ……それは、ここで勇気を出さないと駄目だって思ったからで――――」

「なら周囲の空気はどう説明します?証拠が出てくる前からアイリス子爵令嬢寄りの意見ばかりでしたよね?それは貴女が事前に根回しをした結果ではないですか?」


 詰めるように言葉を並べ立てるミラキアに対してアイリス嬢は反論できない。その反応は暗にミラキアの言葉が全て的を得ている事を示していた。


「……馬鹿馬鹿しい。言い掛かりもいいところだな。性格や言動に関してはアイリスの言う通り、勇気を出したからだ。そして周囲の空気が彼女に寄っているのはその勇気に心を打たれたから……何もおかしな事なんてないだろう」

「殿下……」


 このまま押し切れるかとミラキアが思った矢先、ルーエル王太子殿下が反論を口にする。


 その論理自体、突き詰めれば全く筋は通っていないと分かるのだが、自信満々な殿下とその態度のせいで妙な説得力があった。


(……せっかく詰めれそうな雰囲気だったのに、また周りの空気が元に戻っちゃった。やっぱり言葉だけじゃ難しいってことか)


 表情には出さないながらも、内心、この状況を物凄く面倒に思ったミラキアは僅かな逡巡(しゅんじゅん)の後、仕方ないと小さなため息と共に口を開いた。


「…………そうですか。ならこうしましょう。今から私がレーリャ公爵令嬢とアイリス子爵令嬢に魔法を掛けます。効果は単純、その魔法が掛けられた人物は一定時間の間、嘘が吐けなくなるというもの……これなら真実が分かる筈です」

「なっ……殿下!こんな怪しい人の提案に乗る必要なんて――――」

「その提案、私は受けよう。そのような魔法は聞いた事もないが、プレシール家の次女ならば身元は、はっきりしているし、問題はない。そこの女が嫌だというのなら私が魔法を受ければ事足りる……よろしいですね?殿下」


 ミラキアの提案に対して明らかに動揺したアイリス嬢がそれを突っぱねようとするが、その言葉を遮る形でレーリャ嬢が受け入れ、ルーエル殿下へと伺いを立てる。


 アイリス嬢の言葉を全面的に信じている殿下としてもこの提案を受け入れる事に異を唱える筈もないだろう。


 なにせ殿下の中ではアイリス嬢の言葉は全て真実なのだから。


「……いいだろう、何をしようと真実は変わらない。嘘が吐けなくなって困るのはお前だ、レーリャ」


 案の定、あっさりミラキアの提案を受け入れるルーエル殿下。彼は気付いていないが、その後ろで控えているアイリス嬢は冷や汗を浮かべていた。



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