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第5話 考えなしの蛮勇


 レーリャ嬢とアイリス嬢にルーエル王太子殿下を巡る婚約破棄騒動。当初、ミラキアは自らの帰宅のため、事前にそれを防ぐべく行動しようとした。


 しかし、彼女が動こうとした時にはすでに騒動は始まっており、その時点でミラキアは早期帰宅を諦め、事の顛末を見守っていた。


 もしかしたら上手く事を運んで早く帰れるかもしれないと思いながら成り行きを見守っていた彼女だったが、あまりの異様な光景に思わず顔を(しか)める。


「何、これ……」


 異様な空気。一方的に断罪されるレーリャ嬢。録音という証拠があるからというのもあるかもしれないが、それにしてもここまで誰も味方がいないのはあまりに異様だとミラキアは感じた。


(……公爵令嬢はともかく、子爵令嬢の方は途中から若干キャラが変わってるし、凄く演技くさい。それに証拠の音声も実際の公爵令嬢とは話し方が違う気がする。そもそも、気弱でおどおどしているような性格なら事前に周囲へ根回しみたいな真似はしないと思う)


 いくつもの不審な点。作ったような性格。壁際で時間を潰していたミラキアにまで聞こえてくる噂。その全てがアイリス嬢が不審だと訴えてきている。


 他人の恋愛事情なんてどうでもいい。誰と誰が婚約破棄して、誰が婚約したかなんて微塵も興味がなく、当人達で解決するのなら好きに断罪でもすればいい、とさえ思っていたミラキア。


 だが、断罪される側に非がなく、悪意を持った人間が無実に人間を冤罪に陥れるならば話は違う。


 彼女は根底の部分で、魔法少女は正義の味方でなければならない。


 そして魔法少女に変身する自身もまた悪を見逃してはならないという強迫観念を抱いている。


 ならば今、目の前で行われている断罪……否、冤罪に対して見て見ぬ振りをするのは魔法少女たるものの行為として相応しくない。


 そう思った時、すでに彼女の身体は無意識に動いていた。


 何の方針も考えもなしに騒動の中心へ飛び出し、大きな声でそこへ割って入ったミラキアは蚊帳の外からその内へと踏み込んでしまったのだった。



 そうして場面はミラキアが婚約破棄宣言を止めたその時へと戻る。


 突然の闖入者(ちんにゅうしゃ)に一瞬、静まり返る会場。当事者たちだけでなく、周囲の野次馬の視線も全て割って入ったミラキアへと注がれていた。


「…………君は、誰だ?突然、話に割り込んできて一体、何のつもりだ?」


 僅かな静寂の後、一番最初に口火を切ったのは宣言を邪魔されたルーエル王太子殿下。


 もう少しというところで婚約破棄に異議を申し立てられたのだからその反応は当然といえる。


 そして、割って入った当の本人はというと、何を言っていいか分からず、固まったまま動けないでいた。


(どうしよう……思わず割って入ったけど、この状況で何を言ったら…………)


 周囲の空気はすでにアイリス嬢一色、そんな中で婚約破棄に異を唱えるのはある意味で自殺行為に近い。


 相手は次期国王、そしてそれぞれ有力なお家の次期当主たちばかり、こんなところで目を付けられれば将来的、いや、この場で消される可能性だってある。


 だからここでの発言は慎重になってしかるべきなのだが、よりにもよってミラキアは何も考えてなかったのだった。


「……えっと……こほん、失礼いたしました。私はプレシール侯爵家が次女、ミラキア・プレシールと申します」


「なっプレシール侯爵家だと……」

「それって有名で王家からの信頼も厚い……」

「でも次女って確か……」

「ああ、あんまり名前を聞かないな……」


 ひとまず、話の流れとしてミラキアが名乗ったその瞬間、周囲がざわつき始める。


 あまり世間に関心のない彼女は知らない事だが、プレシールは侯爵家の中でも特に有名で、両親……というより、彼女の兄妹達が各方面で活躍していた。


 彼女がそのプレシール家の次女と名乗った事で周囲もざわついたのだが、ルーエル王太子殿下は違った。


 ミラキアが名乗った瞬間こそ、驚きはしたものの、すぐに表情を戻し、鋭い視線を彼女へと向ける。


「……なるほど、君がプレシール侯爵家のご令嬢だというのは理解した。それで?君は何のつもりで私の言葉を遮った?」


 自分は次期国王、たかだか侯爵家の令嬢が話を遮るなと言わんばかりの態度で問い返した殿下。それは彼の立場を考えれば決して不遜とは言えないだろう。


「…………それは、えっと……今回の婚約破棄、傍から聞いてておかしいと思って」

「おかしい?婚約破棄の理由も正当なものだ。証拠の音声もある。それなのに君は異を申し立てると?」


 あくまで高圧的な態度を崩さず、殿下はミラキアへと問い返す。


 彼の言う通り、傍から見れば婚約破棄に正当性はあるのかもしれない。しかし、彼女が感じた違和感。レーリャ嬢を陥れようとする悪意をミラキアは見逃せなかった。


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