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第3話 貴族として果たす義務


 いくらミラキアが嫌だといっても、プレシール家としては王太子殿下の夜会を無断で欠席させるわけにはいかない。


 使用人、メイド達に半ば無理矢理、支度をさせられた彼女はそのまま馬車に押し込められてしまった。


「……全く、何で私が……今夜もマギアシルビィとしての活動があったのに」


 ガタゴト揺れる車内で不服な表情のまま一人、不満を呟くミラキア。


 今回、普段はそんなパーティの類に参加しない、させられない彼女が出席する事になったのは他の兄妹の予定が合わなかったから。


 彼女はお家の事なんてどうでもいいとは思っているけれど、それでも自分がまだ子供だという事を知っている。


 着ている服も、住んでいる家も、食べている物も、両親……プレシール家の下に提供されているもので、ここまで健やかに過ごしてこれたのもその庇護下にいるからだ。


 だからいずれ来る自分の運命もミラキアは理解しているし、それから逃れるつもりもない。


 けれど、だからといって感情は別問題。自由を阻害するのなら反発するし、大人しく従うだけの人形になるつもりなんて彼女にはなかった。


 とはいっても、馬車に乗ってしまった以上、途中下車する訳にもいかず、彼女は渋々、夜会の会場へと向かっていった。



 絢爛な会場と豪華な料理に着飾った紳士淑女。今夜の夜会は次世代の貴族達を集めたものらしく、参加者の年齢層は比較的に若い。


 中には年配の参加者もいるようだが、今回の目的は次世代の交流と銘打っているので数は全体の一割にも満たない程だった。


「…………誰も彼も飽きもせずによくそんな話せるよね。私には無理だけど」


 グラスを片手に誰とも話さず、壁にもたれかかったミラキアが会場を見回しながら呟く。


 彼女は自分の能力を凡庸、容姿も平均か、それ以下だと認識している。


 そのため、わざわざ話しかけられる事もないだろうし、そもそも話す事すら億劫だからと、彼女はこの夜会をここでじっとしたままやり過ごそうとしていた。


(……早く終わらないかな。日が終わる前に帰れたらギリギリ活動できるだろうし)


 母であるレオナは交流しろといっていたけれど、ミラキアにとっては参加した時点で義務を果たしたと同義。


 最早、彼女の頭の中はさっさと帰宅する事でいっぱいだった。


「――――なあ、聞いたか?この夜会、王太子殿下が婚約者であるレーリャ公爵令嬢との婚約破棄を宣言するために開かれたらしいぞ」


 早く時間が過ぎろと思いながらぼーっと会場を見ていたミラキアの耳にそんな会話が聞こえてくる。


「え、それ本当か?どこから聞いたんだよそんな情報」

「王太子殿下の新しい婚約者らしいアイリス子爵令嬢だよ。レーリャ嬢には届かないところであちこち触れ回りまくってる」


 会話の内容を聞くにどうやら今回の夜会では王太子殿下の婚姻を巡り、一騒動起きるようだ。


 まあ、そんな話を聞いたところで自分には関係ないと、ミラキアはすぐに聞き流そうとしたのだが、とある事に気付き、その考えを思い直した。


(……この夜会でそんな騒動を起こされたら私の帰る時間が遅くなる。誰が誰と婚約破棄しようとどうでもいいけど、私の時間を奪うなら話は別。婚約破棄はまたの機会にしてもらわないと)


 帰宅時間のために行動を起こす事を決意した彼女はグラスを近くのテーブルに置いて壁際から移動する。


 具体的にどうするのか、どう動けば婚約破棄を止められるのか、何の考えもなく動き始めた彼女だったが、どうやらすでに遅かったらしい。


 会場内に鋭い声が響き、その中心に人だかりができ始めているのが見て取れる。


「っこの騒ぎ……間に合わなかったみたい」


 壁際にいたミラキアまで話が聞こえてくる時点で婚約破棄の話題は相当広まっていた。


 つまり、彼女の耳に入った時には最早、事態は動き始めており、どう足掻いても手遅れだったということだ。


(……事が起こってしまった以上、もう婚約破棄自体を止める事はできない……いや、まだどうにかなる可能性もあるし、諦めるのは早いかも)


 間に合わないと一度、足を止めた彼女だったが、まだ何かできる事があるかもしれないという可能性に賭けて、騒ぎの中心へと向かっていった。



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