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第9話 千年に一人の天才


 そこからの戦いは言ってしまえば同じ事の繰り返しだった。


 二人の敗北を皮切りに次々とミラキアへ向かう兵士達。


 数人の兵士と数体の魔物のみを貴族達の制圧に残し、その他の戦力が全てミラキアへと襲い掛かるも、彼女は動じた様子を一切、見せず、それらに対応していく。


「兵士や魔物がいくら来ようと、この程度なら問題ありません。これ以上、恥を晒す前に撤退した方がよろしいのでは?」


 武器を、あるいは魔物の爪を防御魔法で受け切り、的確に攻撃を返して相手の戦力を無力化していくミラキア。


 その戦いを傍から見れば一人の貴族令嬢にあっさり無力化されていく魔皇国の兵士が弱く見えるかもしれない。


 しかし、それは違う。彼女は魔法少女に憧れ、模造とはいえ、そうあるための魔法を生み出す程の天才。


 両親はもちろん、魔法使いとしての適性が非凡だと知っている兄妹達でさえ、彼女の才能を正しく理解していない。


 ミラキア自身に自覚はなくても、その魔法の才は百年、いや、千年に一人といっても過言ではないとてつもないもの…………つまり、彼女は憧れていた魔法少女という存在と違い、()()()()()()()()()のだ。


 それこそ、歴戦の兵士たちを複数、相手取り、圧倒できるくらいには。


「うーん、確かにちょっとこの状況は予想外かな?まさかただの侯爵令嬢がここまで大立ち回りを演じられるなんて思わなかったし、恥を晒してるって言われても否定はできない…………ま、でも、やりようはあるけどね」


 挑発に対して小首を傾げつつ、そう答えたローガが片手を前に出してから指を鳴らしたその瞬間、兵士たちの動きが、がらりと変わった。


 ここまで一辺倒に突撃を繰り返し、ミラキアを攻撃していた兵士たちが二手に分かれる。


 片方は変わらず彼女を攻撃し続け、もう片方は下手に動いて戦いの邪魔にならないようその場に留まっていたレーリャ嬢の方へと向かっていった。


「なるほど、私が駄目なら公爵令嬢を人質に取ると……そう簡単にっ!?」


 いかない、と続けようとしたミラキアの言葉が途切れた。


 彼女がレーリャ嬢の方に気を回そうとしたタイミングで兵士が攻撃を仕掛け、その意識を散らそうとしてくる。


 よくよく観察すれば変わらず攻撃は仕掛けてきているものの、兵士の動きは標的の自由を制限するような立ち回りへと変わっており、彼女はその思惑にまんまと嵌ってしまっていた。


「……お姉さんが強いのはよーく分かったよ。うちの兵士達じゃ勝てないのも、ね。けど、戦えるのがお姉さん一人のこの状況で他の人まで守り切れるかな?」


 いくらミラキアが強くても、万能ではない。自身だけならともかく、戦えないレーリャ嬢を守りながら武装した兵士を相手に戦うのは相当に難しい。


 他人なんてどうでもいいと切り捨てられるのなら話は別だが、魔法少女への憧れと矜持を抱いているミラキアにとってそれはまず無理な話。


 だからこそ、ローガの(はか)った策は彼女にとって望んだ以上の効果を発揮するといってもいいだろう。


「っ数が減らない……結構な数を倒したはず」

「アハハッ、そりゃそうだよ。お姉さんさ、魔法の威力を殺さない程度に加減してるでしょ?そんな生半可な攻撃じゃ、少しの間、気絶させる事は出来ても、うちの兵士を戦闘不能には追い込めないよ」


 ローガの言う通り、ミラキアが吹き飛ばして倒したはずの兵士が軽く頭を振って再び攻撃に加わっており、ここでも彼女が抱く魔法少女としての矜持が足を引っ張る形になってしまった。


「くっ……王国貴族としてこれ以上、無様を晒す訳にはいかない……!プレシール侯爵令嬢っ!私に構わず戦え!!」


 迫る兵士達と何もできない自分に歯噛みしながらも、レーリャ嬢はそう決断して叫ぶ。


 たとえ、自分がどうなろうと、この場で魔皇国の兵士たちを撃退できればそれでいいという覚悟からの言葉。魔皇国側からすれば公爵令嬢である彼女を殺すメリットよりも、生かして人質にするメリットの方が大きいのだが、混乱するこの状況でレーリャ嬢がそんな狙いに気付けるはずもない。


 それはミラキアも同様。だが、仮に狙いを汲み取っていたとしても、彼女はレーリャ嬢を守ろうと動いていただろう。


 殺される、殺されないの話ではなく、この場において彼女にとっての悪である魔皇国側の思い通りにさせないという意思が……魔法少女の在り方がそうさせる。


 しかし、それはある意味で歪んだ正義。彼女が本当に分け隔てなく全てを守ろうとするのなら最初に蹂躙された貴族達も助けた筈……けれど、そうはしなかった。


(ああ、もうっ!そんな事できるわけないでしょ!好き勝手に言わないで!!)


 彼女が助けようとしたのはレーリャ嬢だけ。言ってしまえばミラキアの好悪で守る対象を決めているに過ぎない。


 だが、守ると決めている以上、ミラキアは何と言われようとレーリャ嬢を見捨てない。何故なら、それが魔法少女の矜持だから。


 どう考えても足枷でしかないソレを、誰もが一度は抱き、諦めるであろう理想を、彼女は捨てないし、捨てられない。


「だってさ、お姉さん。公爵令嬢さんはああ言ってるけど、どうする?」

「っ見捨てられる訳ないでしょう……!そんな事をするくらいなら初めから一人で逃げるわよ!」

「アハッ、だよねぇ!お姉さんならそう言うと思ったよ!」


 孤立する公爵令嬢を庇って名乗り出た事に加えて、ここまでの戦いで一人奮闘するミラキアの行動から彼女の選択を確信していたローガは興奮したように嗤う。


 その笑みはミラキアの愚かさを嗤ったのか、それとも自身の思惑が上手くいった事によるものなのか、あるいはその両方か。


 なんにせよ、ローガは勝ちを確信し、兵士達はレーリャ嬢への攻勢を強めた。


(っこのままじゃ埒が明かない……!こうなったら――――)


 今のままではレーリャ嬢をカバーしきれないどころか、自分の方まで危うい。


 そう判断したミラキアは仕方がないと、僅かに残していた()()()()()()()()()()()()()()を諦め、状況を打開するための手札を切る。


「――――『私の世界へ招く魔法(マギリティアーレ)』」


 素早く視線を動かして周囲を見回したミラキアがその鍵言を口にし、パチンと柏手(かしわで)を打ったその瞬間、()()()()()魔皇国の兵士と魔物、そしてローガの姿が会場から忽然と消えてしまった。


「っ一体、何が…………」


 先程までの混乱と打って変わった嘘のような静寂を前にレーリャ嬢の呟きだけが会場に響いた。


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