第4話 すれちがい
筆が乗ってるので更新ペース上げます。
「あなたの体は1ヶ月で朽ちて死ぬ。その間あなたが逃げないように見張る」
少女───もとい響ありすの口からはそう発せられた。単に聞き間違いだったねー、そうだねーと軽口を言い合える相手だったら発言を疑ったりもしただろう。しかし、俺が少女とこうして話すのはまだ数回目なのだ。それに先ほどの発言で気になったこともあった。
「残り1ヶ月……?」
「あなたの寿命は残り1ヶ月ってことよ?有意義に過ごしましょう」
その言葉を聞いた俺はブチッと何か、堪忍袋の緒が切れたとでも言うような激情に支配された。
「はいそうですか、って納得できるか! あなたはこれから死ぬんです、よくわかんねぇ監視と一緒に1ヶ月過ごします、理由は教えません。じゃねぇよッッッ! 人を馬鹿にするのも大概にしろ!」
俺は泣いていた。これから死ぬんだということが、まるで本当のことかのようになっていって、それを自然に受け入れてきっと安らかな笑みを浮かべて死にゆく自分を想像すると吐き気がした。
「………………………………」
響ありすはどうした? 振り返ると少女はこちらを向いて時間が止まっていた。しかし、目は見開かれそこからは涙がぽとぽとと溢れ出していた。
「あ、えーと……」
「ッッッ」
バタンッ、そう扉が音を立てた後、ガチャン、と閉まった。部屋には静けさだけが充満していた。どういう訳か響ありす───長いから内心ではありすと呼ぼう、は監視対象である俺を置いて部屋を飛び出していった。あー、追いかける? どんな顔して臨めって言うんだよ。他人に対して無関心無感情ゆえに大抵のことは笑って誤魔化せると自負している俺が、他人にこんなにも感情的になるということは、俺にとっては天地を揺るがすほどの体験だった。
「……片付けて外にでも置いておくか」
荷物が溢れんばかりに詰め込まれているキャリーバッグがベッドに開かれているのだった。さきほどまでなにやら整理していたようだが。
「って、パンツ!?」
ピンクのリボンとひらひらが付いた可愛らしいパンツが綺麗に畳まれて詰めてあった。それは置いといてとにかくキャリーバッグを閉めようと持ち上げると一冊の本が荷物の隙間から零れ落ちた。
「なんだこれ」
それは日記のようだった。装丁は厳かだが四隅がヨレてもうボロくなっていた。1年スパンでページが振られている物なら丁度使い終わりって頃合いだろう。俺は勝手に部屋を覗かれたんだ、日記の中身に目を通すぐらい許されていいだろう。
序盤は日常の出来事が面白おかしく書かれていた。てきとうにページをめくっていると、あるところから雰囲気がガラリと変わった。悲壮感というか焦燥感が文章から感じられた。そして書かれている最後のページ(昨日の日付)にはこう記述されていた。
『あの男性には中途半端なことをしてしまったのだろうか。彼がどう思っているのか知りたい。そして最期を見届ける義務が私にはある』
「どういうことなんだ……?」
俺になにかしたのか? 俺、六本凌介には知る権利がある。いや、知りたいんだ。この「非日常」を。だってそれはいつだってワクワクさせてくれるものだから。
俺はアパートの自室を飛び出した。冬空は夜の帳が落ちようとしていた。肌を刺すような寒さが増している。急いで少女───ありすを見つけなくては。
響ありすは正義感が強い。