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吸魂師の忌憚なき奇譚  作者: しの しのぐ
序章
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第1話 突然の出会い

500円玉だけ握りしめて家を出たのは事実……!

 冷えてきたな。そう思い狭い浴槽の中で手早くシャワーを浴びた。トイレの便器の蓋に濡れないように置いていたバスタオルで頭を拭きながら、浴室から出ると体がポカポカしていて妙に浮足立っていた。原因には思い当たりがある。先ほどまで夢中で描いていたイラスト(渾身の出来だ)をイラスト投稿サイトfixivに投稿したからだ。このfixiv、閲覧数といいね数が表示されるのだが、この数字を見ては一喜一憂している。万年弱小垢なのだが稀に俺の描いたイラストに3桁ものいいねが付くのだ。その数字を見ている時間が最近の小さな、いやしかし、大きな楽しみであるのだった。

 話が明後日の方向に脱線したので現在に戻ると、とにもかくにも浮足立っていた俺は500円玉を財布から引っ張り出し、それを厚手のコートの左ポケットに突っ込むと颯爽と、しかし足元の寒さに震えながら(履きやすかったのでサンダルを装備して)冬夜空の下へと繰り出した。スマホはお留守番だね☆ そして先に言っておくが別にコンビニ弁当を買いに行くわけではない。お腹も空いてはいるが、なんだか全俺が全身で「非日常」を求めていたのだ。唯一手にした500円が尽きるまで、あてもなくさまよいそして、気が赴くがままに道端の自販機に封ぜられし飲料(ドリンク)をこの手に召喚するのだ。クックック……召喚されたモノの運命は名実ともに我が掌にゆだねられたというわけである。これもまた非日常なるかな。

 そんな脳内空想を広げていると、どんどん最寄の自販機スポットを踏破していた。左手には飲み干された「モンズターエナジー」の空き缶が、その価値230円。自販機界のトップtierに君臨する勝者だ。一部からはレギュレーション違反との声もあるが、負け惜しみも甚だしい。恥を知りなさい。って親戚のおばさんが言ってました。

 と、まぁさっそく所持金は残り270円。夕飯もまだだ。家に帰っても食べ飽きたカップ麺ぐらいしかない。かと言って270円で腹を満たすのもなぁ……と思ったが、大学の敷地内の寂れた場所に心なしか年季の入った自販機があるのを思い出した。あそこにいけば「アレ」があるはず……! 気持ちが早まる。いつもそうだ俺って。気持ちだけが先行。先行しすぎてもはや先行入力界のウメハラ。脳内では寸分違わずに覚えた「ズターバーストズトリーム」を振るい敵を薙ぎ払う俺。一騎当千。鎧袖一触。天上天下、俺。イメージするのはいつだって「最強の自分」

 「いやでもさー」「わかるー」「今度ここいかねー?」

 大学構内から出てきた人影の群れと出くわす。何か起きるとかそういうのは何もなく普通にすれ違うだけ。なのだが、俺は気持ちまで縮こまってしまっていた。そうか、こんな時間でもあんな大人数とすれ違うのか。まるでさっきまでの脳内妄想を見られてしまったかのような居心地の悪さ。どうにも人の群れは苦手だ。まるで、自分が全員から悪意を向けられているような、彼らが交わす言葉の一つ一つが俺への悪口のような、そんな錯覚を覚えるのだ。

 お目当ての自販機にたどり着く。230円を投入。今度は「モンズターエナジー」ではない。それはーーー「ガロリーメイト」だ。近隣の自販機だとここぐらいしか取り扱っていないはずだ(俺調べ)質素な夕飯だが今できる最良の手だと思えば満足感がヒシヒシと湧いてきた。お釣りを受け取ってポッケにしまおうとすると違和感に気付く。100円、いや、110円分硬貨が多い。一体どこで紛れたんだ……?

 「ねぇ、あなた今ラッキーって思ったでしょ?」

ダレカデテキター

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