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1.特異な力を持つ治癒術師。

次の更新は夕方かな(*'▽')







 ――危機に瀕した彼の声を聞き届けたのは、人間の少女だった。

 まだあどけなさ残る顔立ちに、小柄で華奢な身体つき。少し手入れが苦手なのかもしれない、肩ほどまでの栗色の髪には微かにクセがあるようにも見えた。だがそれ以外には取り立てて際立った点はない。平々凡々な少女だった。



『貴方は……?』



 かすむ視界で彼女を捉えつつ、彼は静かにそう訊ねる。

 すると少女はハッとした表情になり、抱えていた荷物を降ろした。そして急ぎつつも慣れた手つきで、いくつかの薬を取り出す。

 その姿に彼は感心し、自然と名も知らぬ少女に身を委ねようと決意した。

 そして、ゆっくりと身を横たえて訴える。



『腹部に、魔法による一撃を受けました』

「腹部に魔法、ここね……?」



 すると驚いたことに、少女は異種族である自身の言葉を解している様子だった。

 それにまた、場違いな詮索が脳裏を過る。しかし彼は、目を閉じて答えた。



『えぇ、そうです。……お願いします』




 いったい、少女は何者か。

 その答えはいまだ不明のままだが、彼は思うのだった。



 やはり、人間すべてが敵ではないのだ――と。







 人間すべてが敵ではない、と彼は言った。

 これはアタシが魔獣の言葉を理解しているわけではなく、生まれ持った特異な力が原因。昔から自分は人間や動物、そして魔獣など関係なしに考えていることを理解できた。


 理由は分からない。

 そもそも自分以外の人々も、同じように心の声を聞けるものだと思っていた。

 そんな自分の中の常識が普通ではないと知ったのは、王都立魔法学園に入学した頃。アタシが心の声が聞こえる前提で話をすると、周囲にはとても怪訝な表情をされた。

 そして、いつの間にかアタシは孤立して――。



「……って、いまは違うでしょ」



 そこまで考えてから、アタシは一つ大きく息をつく。

 結局その時についた偏見のせいで、王宮治癒術師になってからも白い目で見られた。それでも、この力のお陰で救えた命も多い。言葉を話せない人々の訴えに耳を傾け、治療できたこともあった。

 そう例えば、今だって――。



「ゆっくり、息を吸って。……少しだけ苦しいから、我慢してね」

『……分かりました』



 この魔獣が傷ついた理由は分からない。

 だけど、きっと彼の命を救い出せるのは自分だけだった。

 そんな使命感が、アタシを突き動かす。でも同時に、不思議とこの行いが間違いであるとは思えなかった。それはおそらく、さっきこの魔獣が語った言葉があったから。


 アタシの治癒術は決して万能ではない。

 才能に恵まれているわけでも、決してなかった。


 だけど目の前で消えかけている命に、何もできないことだけは嫌だ。

 命は何があっても平等で、そこに優劣が付けられてはならない。

 その一心で、アタシは治癒術師として努力し続けた。

 だから――。



「よし……!」



 意識を集中させる。

 そして指先から、魔獣へと治癒の力を流し込むのだった。





『あぁ、これはとても温かい……』





 魔獣は白の光に包まれながら、心地良さそうに目を細める。

 傷は次第に癒え、やがてその大きな身体に活力が戻っていくのだ。


 そして、ついに全治に至った時。

 彼はとても思慮深い声色で、アタシにこう言うのだった。




『貴方は、私にとっての命の恩人です』――と。




 その言葉の重みがどのようなものか。

 この時点のアタシには、知る由もなかった。



 



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続きが気になる

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