1.特異な力を持つ治癒術師。
次の更新は夕方かな(*'▽')
――危機に瀕した彼の声を聞き届けたのは、人間の少女だった。
まだあどけなさ残る顔立ちに、小柄で華奢な身体つき。少し手入れが苦手なのかもしれない、肩ほどまでの栗色の髪には微かにクセがあるようにも見えた。だがそれ以外には取り立てて際立った点はない。平々凡々な少女だった。
『貴方は……?』
かすむ視界で彼女を捉えつつ、彼は静かにそう訊ねる。
すると少女はハッとした表情になり、抱えていた荷物を降ろした。そして急ぎつつも慣れた手つきで、いくつかの薬を取り出す。
その姿に彼は感心し、自然と名も知らぬ少女に身を委ねようと決意した。
そして、ゆっくりと身を横たえて訴える。
『腹部に、魔法による一撃を受けました』
「腹部に魔法、ここね……?」
すると驚いたことに、少女は異種族である自身の言葉を解している様子だった。
それにまた、場違いな詮索が脳裏を過る。しかし彼は、目を閉じて答えた。
『えぇ、そうです。……お願いします』
いったい、少女は何者か。
その答えはいまだ不明のままだが、彼は思うのだった。
やはり、人間すべてが敵ではないのだ――と。
◆
人間すべてが敵ではない、と彼は言った。
これはアタシが魔獣の言葉を理解しているわけではなく、生まれ持った特異な力が原因。昔から自分は人間や動物、そして魔獣など関係なしに考えていることを理解できた。
理由は分からない。
そもそも自分以外の人々も、同じように心の声を聞けるものだと思っていた。
そんな自分の中の常識が普通ではないと知ったのは、王都立魔法学園に入学した頃。アタシが心の声が聞こえる前提で話をすると、周囲にはとても怪訝な表情をされた。
そして、いつの間にかアタシは孤立して――。
「……って、いまは違うでしょ」
そこまで考えてから、アタシは一つ大きく息をつく。
結局その時についた偏見のせいで、王宮治癒術師になってからも白い目で見られた。それでも、この力のお陰で救えた命も多い。言葉を話せない人々の訴えに耳を傾け、治療できたこともあった。
そう例えば、今だって――。
「ゆっくり、息を吸って。……少しだけ苦しいから、我慢してね」
『……分かりました』
この魔獣が傷ついた理由は分からない。
だけど、きっと彼の命を救い出せるのは自分だけだった。
そんな使命感が、アタシを突き動かす。でも同時に、不思議とこの行いが間違いであるとは思えなかった。それはおそらく、さっきこの魔獣が語った言葉があったから。
アタシの治癒術は決して万能ではない。
才能に恵まれているわけでも、決してなかった。
だけど目の前で消えかけている命に、何もできないことだけは嫌だ。
命は何があっても平等で、そこに優劣が付けられてはならない。
その一心で、アタシは治癒術師として努力し続けた。
だから――。
「よし……!」
意識を集中させる。
そして指先から、魔獣へと治癒の力を流し込むのだった。
『あぁ、これはとても温かい……』
魔獣は白の光に包まれながら、心地良さそうに目を細める。
傷は次第に癒え、やがてその大きな身体に活力が戻っていくのだ。
そして、ついに全治に至った時。
彼はとても思慮深い声色で、アタシにこう言うのだった。
『貴方は、私にとっての命の恩人です』――と。
その言葉の重みがどのようなものか。
この時点のアタシには、知る由もなかった。
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